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56 綿津見島 13

 少年と少女は、連れだって街に出かけていく。

 街は祭り真っただ中だ。訳ありらしい少女を探す一団も登場し、観客はハラハラしながら、淡い恋の様子を見守った。

 夕刻、また波止場まで戻ってきて----別れのときが、やってくる。少年の乗る船がもうじき出航するのだ。

「----顔、見てはだめか?」

「今日は陽が落ちるまで仮面を外してはいけないきまりでしょ?」

 綿津見島のようなことを言って----いや、あえて寄せた台詞か。

「---そう、だな。」

 少年の視線がふと流れた。傍を通りかかった荷馬車の上にかかっていた布を引っ張った。布がふわり、と宙を舞う(黒子たちが絶妙な高さ、大きさで広げてくれている)。

 布が落ちてくるその間に、少年は少女を引き寄せて、

「ほら、いま陽は落ちる。」

 頭巾に手を掛けたところで、布が二人を包んだ。

 布はぱさり、と彼らの足元に落ちて、ぎゅっと頭巾を抑えている少女と、仮面を押し上げて満足そうに笑った少年が、観客の前に現れた。

「ふ、ふ、不埒もの、です?」

「海の男だからな? ちなみに夜目がきくのも条件の一つだ」

「わたしはきかないから、ずるいです!?」

 ぽん、と頭巾の上を撫ぜるように手を置いて、

「だから、オレが必ず、探して会いに行く。…向こうの、おっかない連中があんたをどこに隠しても、だ。」

 軽快に駆け出し、下手に掃けていく。

 はっと顔を上げて、その背を見送った少女に、上手に現れていた追っ手の集団が近づいて…暗転。

 中央に、スポットライト。

 少女が、戻ってくる。

 両手を合わせて、祈るような彼女のまわりを、八人の花びら役がくるくる舞い始める。

 照明は広がり、色を変え、踊りと共には激しく入り乱れ、そして()()()()断ち切られるような勢いで、幕が()()()


 幕間だ。

 椅子の下と通路が光って出口を示す。幕間の間には、別室に軽食が用意されるものだ。人々は次々に席を立ち、外に向かっていく。人々の流れの合間に入ろうとしたレオニーナは、その中に見知った背中を見つけた。非常識男だ。相変わらず一人のようで、舌打ちしたくなるのを何とか堪えた。

 扉をくぐると、ふんだんに取り込まれた自然光に一瞬目が眩む。廊下の先、さっきは開いていなかったもう一つの扉が開いているのが見えた。あそこが、休憩所か。

 いつの間にか、廊下には人影はなくなっていた。レオニーナは急ぎ足で、その扉をくぐった。

 はっと、立ち竦んだ。立食形式の、人々がさざめいている様子を想像していたのに、そこにはきちんと整えられたテーブルを囲んで着座して、レオニーナはその視線を一身に浴びたのだ。

 十二人。

 対する人数を把握するのは習性だ。

 ああ、そうか。情報がつながる。ここが、茶会(アフタヌーンティー)の場か。

 己を入れて、招待客は揃っている。

 お互い持て余したような空気感で、気まずげにカップをいじったり、視線を飛ばしていたりしていた。

 最後の入室者となったレオニーナは視線に臆するような神経はしていないので、ディドレスをつまんで、さっと挨拶を済ませてしまう。給仕が椅子を引いてくれている、一つ残った席に着いた。

 ワゴンを引いた別のメイドがやってくる。

「お茶をお選びください。女王の午睡、偽りの宴、裏切りと波間、、逃亡と追跡、果てなき円舞、雲間に雷・・・、」

 つらつらと並べられるオリジナルブレンドの名がなかなかエッジがきいている。味も香りも予想もつかないが、とりあえず名前がひっかかった二つの茶葉を嗅がせもらった。

「果てなき円舞で、」

 さっきの舞台の印象が残っているせいかも知れない。

 サーヴ準備の傍らで、次のワゴンがやってくる。ケーキを敷き詰めた皿と軽食(サンドイッチ)やチーズ、ハム類を載せた皿があって、希望ら合わせて取り分けてくれるらしい。

 カノンシェルは断固拒否だろうが、レオニーナは小腹も空いてきたので遠慮なく盛ってもらった。花とスパイスの二段構えな香りで飴色のお茶が提供される。

「いただきます。」

と、誰にともなく微笑んでレオニーナは、鴎が意匠されたカップを持ち上げた。

十二人の顔ぶれを、それとなく確認する。

 男女の比率は半分だった。全員女性かと思っていた()()、意外であった。年齢は、幼いではなく、若いと自称して許容される範囲内で、ただし所属階層はバラバラだ。

 裕福な家の娘は二人。かなりの商家と下級貴族。付き添いがないことに戸惑っている。あとは精一杯の衣装を着た、下働きの娘と学生、歌女見習い(恐らく姐さんの供で来島した)、売り子か給仕の娘という顔ぶれだ。

 男性も同じような感じで、歌女見習いが騎士(兵士?)見習いに代わるくらいか。

 そして。十三人目は海賊。

 多様性には富んでいる。

 普段は食べられぬ料理と扱いに興奮気味の者、やや肩透かしだが戻った後の話の種に、と考えている者。----これは茶会か? いや、ただの食事だ。

 「女王のアフタヌーンティー」と団長は(いざな)った。

 女王(主催者)がいない。

 さらに、触れにあった「女王のまつりに参加する」とは、アフタヌーンティーのことなのだろうか。

 この限られた人数と、まつりという言葉が結びつかない。

 そして。

 一緒に劇場から出てきた(はずの)人々は、()()()()()()しまったのだろう…?


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