幕間 夜陰
「無茶をするものだ。」
呆れたように吐息を混ぜて,面白がっているような響きの,声。誰だったろう,とたゆとう意識が呟く。
「まあ,そのわけの分からないものだから,訳のわからない力で対抗してみようという精神は気に入った。」
気配が動く。触れていた掌がぴくりと震えた。冷たいそれが少しずつ温もりを増していく。目開けなければ,と思うけれど,何かに隔てられているかのように意識と体がつながらない。
温かくなった手が,自分の指を撫ぜるように触れて,柔らかく握りこんだ。傍らで眠り込んでいるだろう自分を起こさぬように,ゆっくりと半身を起こす気配。
「しかし,この…も、そろそろ…時がきたかと思っていたが,コンナモノが生まれているとはな。」
ところどころ聞き取れないか、傲然とした声で、
「いやいや賞賛するよ,やはり人と言うのは奥が深い。」
なんといえば良いのだろう。気持ちをざらつかせる物言いなのだ。
「忌々しい檻から解き放ってくれた礼だ。調整をしてやろう。正規継承ではないだろう? はまってはいるが,あそびがある。一振りならずれて,いたいくらいだが,お前さんの場合,二振り抱えている。そのうろが反響しあって,いたみの上に酔いが起きている。多少は緩和だされるが、かといって無茶な使い方は厳禁だぞ? ・・・あぁ? 何が無茶か分からない? 確かに、もっともだ。」
そうしてピリッとするぞ,と言い置いた瞬間,大きく体が仰け反る気配と,握りこむ代わりにパッと離れた手。恐らく意識がまた飛んだのだろう。体を受け止めた寝台が揺れる。
「朝になれば起きるだろう――さて,おまえ。」
声の主が,こちらをのぞきこんでいた。目覚めた訳ではない。相変わらず体は動かない。けれど目が合う。
「わたしの娘か。」
微笑んだ。と,思う。
「この世『界』の果て,時の涯てまで来て,まさかソンナモノを得るとはな。」
また『モノ』呼ばわりだが,今度の声は柔らかい。そうして,意識は眠りの底に剥がれるように落ちていく。
「…胸の奥が、不思議にチリチリとする。これは初めての感覚だ。」
いまはただ眠れと,あやすようにふわりと髪をなでるような気配。
しろい闇,あるいは光が,意識を抱き込むそのさいご,
「お前が望むのなら,いつでも、世『界』を与えてやろう。」