挿話 窪地の名前
短いです。
そこは「四人の巨人の庭」と呼ばれている。ガレシ本邸から、北東の丘を越えた窪地のことだ。
昔、むかし。四人の巨人が、そこに住み着いた。
巨人たちは、太陽があるうちは堅い岩に姿を変え、闇と共に目覚めては、旅人を襲って食べていた。
領主は何度も兵を送って退治しようとしたが、みんな食われてしまった。旅人はみんなガレシを避けて通るようになり、ガレシはどんどん寂しい場所になっていった。途方にくれていたガレシを、男女二人連れの旅の戦士が訪れた。
「我らが巨人を退治してやろう。」
と、申し出た。
「我らの望みの品を、見返りとしてくれるというならば。」
領主は手を打って喜んだ。
「我が用意できるものならば、何でも与えよう。」
女は領主の妻が持っていた、代々伝わる宝石の首飾りを望んだ。まあ、なんて図々しい、と領主の妻は思って夫の袖を引っ張った。
男は領主の娘を妻に迎えたいと言った。領主はこんな貧しそうな旅の戦士に娘を嫁がせたくはなかったが、愛想よく頷いた。
「分かった。望むものをきっと与えよう。」
二人の戦士は、巨人の棲家に出かけていき、岩の姿の巨人を剣で粉々に砕いて、近くの川の水で溶いて流してしまった。
こうして、ガレシから巨人はいなくなった。
いなくなったのだが、退治したと告げた戦士に領主は、
「お前たちが巨人を退治したという証拠はあるのか?」
と、言った。
「巨人をどこかへ追い払って、報酬を受け取ろうなどと、このペテン師どもを追い払え。」
わ、と兵士たちが戦士たちに飛び掛かったが、女戦士が引き抜いた白い剣があたりを眩しく照らして立ちつくした。
「くだらんな。」
と、女戦士は断罪した。
「約束を守れぬなど、ひとではない。巨人同様、お前たちもこの地から消え去るといい。」
女戦士が剣を振ると、城館は土台も残さずに消え失せた。残っていたのは、心優しい領主の娘だけだった。
娘と、男戦士はようやく会えた、と手を握り合い、これが新しいガレシの始まりとなった。
巨人の庭には、この教訓を忘れることなかれと、四枚の立石が建てられた。




