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26 前夜

 いかなる武器も持たぬこと。

 夕の鐘が鳴り終わるまで、大門から外に出ること。

 顔の上半分以上が隠れる仮面を付けて、決して外さぬこと。

 正当な対価を払わずに、島のものを持ち出さぬこと。


 今回の()()らの布告は五つだ。うち、四つは以前の記録とほぼ同じである。決して、と正当な、と強めの修飾語が付け加わっていたが。

 五つ目は、記録にない(新しい)


 ()()()()()()に参加すること。


 「もう、港も、湾を見下ろせる高台も人でいっぱいだけど、うちはバルコニーからちゃんと湾が見渡せるつくりだから、夜明けまでゆっくりお眠りなさいな。寝過ごしても大丈夫。時間が来たら起こしに行ってあげる。」

 安眠と美容にいい(という)お茶を飲みながら、にこにこ、とレオニーナは笑っている。

「うちの使用人たちと、「真珠の家」の大きな子たちと、裏手側(海が見えない)の御近所たちも招いているから、少し賑やかになると思うけれど。ああ、わたくしは、遺産元手に投機しながら、外国とこちらを行き来しながら暮らしていることになっているから、よろしくね?」

「…はい、」

 レオニーナの私館に、男から連絡は来ていなかった。消沈する少女に、物は考えようよ、とレオニーナが言った。

「デューンが来てしまったら、明日、わたくしに付き合ってはくれないでしょう? 」

「私、やはりお留守番をしていたいです。」

 少女は硬い声で訴えた。

「やはり危険は避けるよう行動するべきだったと本当に反省しております。」

 青年の言う通りに、退()()していれば、こんなことにはならなかったのではないか、と思う。

「過ぎたことを悔やんでも仕方ないわ。」

「はい、ですから同じ轍を踏まぬよう・・・、」

「だから、せめて華々しい土産話でしょう!」

「・・・はい?」

「ごめんなさい、は言うにしても。だけでは駄目よ? であっても、こんなことあったんですから! と自慢して(言って)のけるくらいでいいのよ!」

力強く言うが、カノンシェルにはよく分からない。

「心配させておきなさい。エヴィは心配が原動力みたいな男でしょう?」

 どんな男だ。

なんて返したらいいのか分からず押し黙った少女に、レオニーナはなんとも言えない目を向ける。

「本当に、どうして、あの男からこんな、」

 ()()()男と交流があった人々がする、どこか()()()()()()()()目を思い出して、少女は俯ここうとして、

「どうして、こんなに健気なのかしら!? 」

 ぎゅっと抱きつかれて、ぎょっとする。

「本当もう、鳶が鷹だわ!」

「いえ、それは逆では?」

「何を言っているの!? もったいなすぎるでしょう!」

 また、よしよしと頭を撫ぜられて、彼女にはまだ自分が出会った頃と同じように見えるのかと苦笑いし、それから、----たぶん青年にもそうなのだろう、と表情を曇らせた。

「…どうかして?」

 聡い彼女は、また別に少女が落ち込んだのに気付いた。

「大丈夫です。」

「あなたの花陸からずっーと遠い場所なんだから、あなたが何をいっても、だれもふーん、くらいよ?」

 土産話と、愚痴って幾分かすっきりした気持ち、を持って帰ればいいと、励まされて、そうか、自分は落ち込んでいたのか、と気づいた。

「レオニーナさまは、親しい方が恋人を作られたり、結婚されたりしたとき、どんな気持ちになられましたか?」

「…おめでとうだけれど、…そうね、幼馴染が結婚して船を降りた時は、何ともいえないスーッとした感じがしたわ。名前を付けるのなら、やはり寂しさ…かしら?」

「寂しい…、」

「ずっと一緒にいられるわけはない、とは思ってはいたけれど、いざとなると、認めがたかった、というところ。」

「それで、どうなさいましたの?」

「どう…って、同時に、幸せに、と願って、贈り物を買いに行ったわ。わたくしを思い出して笑ってくれるような品を----。なあに? 『真白き林檎の花の都』でのお友達が嫁がれることにでもなったの? 」

「いいえ、----そうですか、贈り物を…。」

「カノン、シェル?」

 レオニーナは多感な時期ね、と微笑ましく思ったが、次の一言で、背筋が反射的にピンと伸びた。

「エヴィが結婚したんです。」

「!?  待ちなさい。あなた方、まだ離婚は成立していない時期ではなくて!?」

「はい。あと一年ちょっと、です。だから、まだ妾、ということらしいですけれど。」

「まだって、妾って、」

「側室、とは言わなかったので、身分が足りないのだと思います。」

 (王侯)貴族の常識は、平民の非常識だ。うら若い娘が当たり前の顔で妾だの側室だのと語る。羽毛一枚ほどにも、破廉恥な言葉を口にしているとは思っていない。家具を論ずるようだ。

()()エヴィも、()()しっかりお貴族様ってわけね。」

 皮肉のつもりだったが、ふうわり、と少女は笑んだ。

「立派に務めていらっしゃる、と聞いています。エヴィも陛下も。私も微力であっても、いずれ独り立たねばなりません。だから、」

 己の内側に向かって、頷いた。

「確かに私は寂しい気持ち、なのですけれど、エヴィとエヴィが好きになった方に、ちゃんとお幸せに、というべきだと分かりました。」








 

次回は、再びシャイデです。

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