番外編 かぼちゃのしっぽ
ハロウィンだなあ、と思って、急いで書いた小話。
アステの戦い後、のサクレでの短い休息、をイメージしていますが、「かぼちゃ」をネタにしたかっただけの、なんということもない話です。
むかし、昔。
ある日、ある時。界落で、可歩地矢が落ちて来ました。
手のひらにのる大きさから二人がかりで運ぶもの。丸いもの長細いもの。滑らかなものゴツゴツしたもの。淡いクリーム色、緑、赤、黒、とりどりで。
一面の、かぼちゃ。
ところで、なんで可歩地矢と呼ぶようになったかというと、かぼちゃが教えてくれたから。
一面のかぼちゃの真ん中に、ちょうど人の頭ほどの黄色いカボチャがありましたむ。三角に大きくくり抜いた両の目と小さな三角の鼻。ぎざぎさの線で口。
領主は朱く燃える剣を携えて、
「おのれ、あやしき界物よ! 一個残らず燃やしてくれよう!」
と叫びました。
すると、そのかぼちゃ頭が勢いよく跳び上がったのです。首と胴体と手足が生えて、瞬く間に人の形になりました。
「燃やさないでください! 壊さないでください! 危なくありません! 栄養価が高くて、とてもおいしいんです! 育て方も難しくありません!」
案山子みたいな、ひょろながの体を揺らしながら必死な声で言うのです。
「この子たちは可歩地矢っていいます! 知りませんか? じゃあ、僕が育て方も料理も教えます!」
あまりに必死な様子を哀れに感じた領主は、カボチャ男(推定)に料理を作らせることにしました。がぼちゃ男は、かぼちゃをたくさんの料理に変えていきます。
スープ、パイ、揚げ物、サラダ、プリン・・・。
領主も兵士も、最初は恐る恐る…次第に夢中で食べました。
感動した領主は、かぼちゃ男に土地を与えて、そこでいくらでもかぼちゃを作るようにと言いわたしました。そして、次の年には領地の誰もがお腹いっぱい、かぼちゃ料理を味わい、みんなで楽しく歌って踊りました。
そして、鎮祭月の最終日が、界を越えてかぼちゃをもたした聖界人に感謝をささげる日になったのです。
「そうなんだ!」
「…そうなンすか?」
きらきらと瞳を輝かせる少女と胡散臭そうなリトラッド。感謝の日のパイが焼き上がるのを待つ台所である。
「ああ、ちなみに冬至の日に緑のかぼちゃと小豆を甘く煮るのは、冬至の日にカボチャ畑に小豆が降ってきた界落があって、聖界人が天啓を受けて、作られるようになったそうだ。」
「まあ!」
「…はあ、」
カタ、とナイフを置いて、出来上がったかぼちゃ頭を少女に手渡した。彼女が作っていた三角の布帽子を被せれば完成だ。置いてくる、とかぼちゃを抱えて出て行った少女を見送り、さて焼け具合はどうかな、と立ち上がった青年に、
「ちょっと、からかいすぎじゃないっすかね?」
苦言を呈してみた。
「お姫様、素直だから信じちまう。」
「有名な昔話、だろ?」
ぱちぱち、と思いがけないことを言われたと言わんばかりに大きく瞬いた、
「へ…まじですかい?」
「絵本もあったぞ?」
子どもの頃は、毎年、かぼちゃ頭を飾って、パイを焼いていた、と真剣に言う。
「父も、強心臓で寛容な先祖がいたから、いま、おいしいかぼちゃが食べられて、楽しい一日が過ごせるから感謝しなくては、と言っていた。」
「----その昔ばなしは、おれは知らないっすね。」
リトラッドの地元はラジェだ。二人は目を合わせて、首を傾げあった。
「…ローカル?」
「たぶん?」
話した相手が違っていたら、大やけど、だったかも知れない話。
朱公領は、かぼちゃと豆類の一大産地である。




