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44 よくある転生少女の転落 その7

 状況整理と場所の紹介です。

 『蒼き鏡の街』----ダユウは奇観で知られる。

 おおよそ六百年ほど昔。未曽有の界落がこの地を襲った。

 ホールケーキを切ったように真っすぐな線が街を二つに切り裂いた。南側ははその衝撃で粉々に吹き飛び、北側は形を保ったまま、地の中へと沈降していった。()(境界)に居た一握りの人々が咄嗟に逃げたしたというが、大半は突然の異変に茫然としたまま、遠くなっていく空を見上げて、何とか収まってくれと祈り・・・叶えられなかった。

 街は城壁の上部、歩廊部分がちょうど、穴の縁にあたる位置で降下を止めた。不気味な震動に怯えるよりなかった住民たちは、その時希望を覚えたかも知れない。だが、本当の惨劇はここからだった。

 界落した空()()()()()()()、液体が、まさしくバケツをひっくり返した勢いで降り注いだ、と歴史書が記す。

 遠目には雨のように降り注いだ液体は、()()()()()()()()()()()。水より重く、粘度があって、あえて例えるのならゼラチン。

  器の底に、綺麗な色の果物を入れてゼリーを作るように、穴の底に閉じ込められた人ごと街は固められた。ゼリーならばスプーンで崩せるが、街を()()()()液は、どんな鋼をもっても僅かに傷をつけることもでき()()----いまも。

 離れて眺めると蒼みを帯びた湖面----の()に立って、底を覗き込むことが()()()

 往時のままの街並みが、足元に広がっている、まるで天空から下界を見る感覚だ。陽の差し加減によっては、その時通りに出て、空を仰いだ姿勢のまま固められた人々や動物が見える。とくに有名なのは、北側にあったため一緒に沈んだ領主館の中庭にひしめき合う兵士たちと、庭園の中で抱き合っている姫君方だろうか。

 僅かに生き延びた人々は、かつての半分、吹き飛んだ南半分だけ街を立て直した。()は、その時はただ鎮魂を込めて手つかずに----それが他の町にはない、奇妙なコントラストを作り出した。

 即ち、死に続けている街と生きている街。真っすぐな線で分断された、奇跡、あるいは悲運、まさしく運命の分かれ目そのものの体現であった。

 

 現代の(ダユウ)は、観光で潤う。

 専用の遠眼鏡や見どころ地図を売る商売、屋台、記念品を売る土産物屋、宿----住人の殆どが観光業に関わる。観光地としての治安維持にこだわり、警邏隊はいても守備隊はない。

 もとより半城壁(()の、旧城壁と続く形で城壁は再建されたが、即ち、湖側からは入り(攻め)放題である)だから、はじめから城塞都市の役目は放棄している。それを許されたのは、当時の衝撃の大きさゆえだろう。

 かくして、『凪原』の侵攻に、ダユウは数日の、()()()()()籠城後、軍門に下った。『白舞』との国境に最も近い街ではありながら、要衝としての役割を長く求められていなかったとダユウの人々は、門を開く、ということを甘く考えていたのかも知れない。いや、この時の『凪原』が異常だったのだ、と擁護する声もあるが。

 『凪原』は、«鈴»が鳴らない者の生命を保障するという条件を出していたが、戦はまだ序盤。先に侵攻されたサクレ、テュレからの情報は乏しかった(あるいは収集しなかった(危機感に乏しかった))。

 先述したように、ダユウの歴史は古い。特に生き延びた人々の末裔は、自覚なく()主であったと、証かされて、()()()消失していった(殺された)。二度目のダユウの悲劇だ。

 狩りの日以後、ダユウの城門は開かれている。

 生き残った、()()僅かの人々は自分()()鈴が鳴らないと()()()()()()()、絶え間なく鳴り続いたその日の音が耳を離れることはないと青ざめた頬をして、ひっそりと住まっている。

 そこにやってきた(数を増やした)のは、傭兵達だ。

 『凪原』は、ダユウに傭兵を募った。守らなくて()()街であり、抵抗の薄い街は使い出が良かったのだろう。

 シャイデ花陸では、数十年、戦らしい戦は起きていないから、傭兵といえば、商隊の護衛()()()の地位であった。そこにきての大戦(おおいくさ)になりそうな気配である。 若い頃、勇将と誉れ高く、国王としては賢王と讃えられ在位を全うしたクロムダート大公を(奇襲にせよ)破り、サクレ・テュレ、そしてダユウ(と近くの国境砦)、と北の要地を次々に落とした『凪原』の勢いに勝ち馬を見たのだろう。幾つも傭兵団(何人もの戦士)が、次々にダユウの門をくぐった。

 使い勝手が良い(価値の高い)著名な傭兵団と、ます高く契約を結んだ。特に、東ラジェで五本の指に数えられる大手である《理の槌》と、それに所縁のある中小規模の傭兵団は、本隊に組み入れられて、そうそうに王都へ進軍していった。

  傭兵達には≪鈴≫の試練はなかったと云う。理由は単純で戦力の確保だ。

 「僅かなキより彼らをして多くのキを得た方が良い。」

 ()()()。と、このとき、含みのある言葉を、国王が言ったとか伝えられるが、()()()()()()ではない。

 とにかく、確かなのは十把一絡げ、玉石混交、有象無象の傭兵(団)はダユウにひしめき合って、功名心顕示欲一攫千金を満たそうとしていたことだ。

 観光地として誇っていた屈指の治安の良さは昔日のもの、殺伐とした無頼の町が出来上がろうとしていた。

 

 そんな街の中だが、固く守られた一画があった。

 オティリエ妃が体調不良のため、王都(セテグ)を占領中の軍勢から離脱してダユウへと戻ってきていたのだ。

 

ポンペイ、なイメージ。街の描写はいつも楽しいです。

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