表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

162/186

38 よくある転生少女の転落 その1

ざまあ系というよりは、ダーク系(予定)。

 よく()()ように、劇的なきっかけではなかった。

 朝食の席で、お茶を一口飲んで、「やっぱりアッサムが好きだな」という感想を抱いたのだ。

 ----アッサム? アッサムとは、()()?

「お嬢様、今日のお茶は旦那様が新しく商われるという東の花陸(エーデ)産のものをブレンドした香茶でございます。」

「そう、なの。」

 東の花陸? エーデとは、()()?

目の前に(正確には脳裡に)、内海を囲んで寄り添いあう、花びらのかたちをした三つの()陸が浮かび上がり、映像は海を滑って、少し離れたもうひとつの花びらをズームして、その上に文字が重なる。タイトルだ。

 Beyond the World ~深愛が導くミツなる明日~

 通称ビーあす。

 乙女ゲームである。ちなみにミツとは、親密と秘密と蜜月の掛詞である。

 一世を風靡した(誰もが知っている)くらい売れた商品(パッケージ)ではない。しかし設定本と追加シナリオが発売されるくらいには人気があった。

このシナリオの面白かったところは、ヒロインが物語内への転生者だということだ。流行中だったゲーム、小説・漫画に転生した主人公が、逆境(シナリオ)に立ち向かって、本来の物語を変えて成功(幸せ)を掴むというジャンルを取り入れることで、二重のカタルシスを味わえるのも売りだった。(あとの売りは、やはり、声優と美麗なイラストだ。)

オティリエ(名前変更可能)・アデラ。男爵令嬢だが、彼女は自分が異世界から転生してきたことに、学園に入学する前に気づくのだ。そして、ここが乙女ゲームの世界であることにも気づく。

 聖女とか、稀少属性持ちとか、そういうアドバンテージはない。主人公だが、立ち位置としてはモブに近い。

 だが生き伸びるためには物語に関わらざるを得ない、という筋立てである。それは、誰とも恋に落ちない(ぼんやりしている)と、祖国は戦乱で滅び、主人公も炎に巻かれるバッドエンドの一枚絵になるからだ。

 とはいえあくまでゲームである。知識を生かして、攻略対象者との恋を進めるのがメインで、政争を華麗に切り抜け花陸で起きる戦乱を鎮めるキーパーソンになるのは、スパイスだ。「神の視点」で俯瞰しつつ、でも目の前の恋に揺れるせつなさがいい、と誰かがレビューに書いていた。

 そして。この世界で(生き延びて)攻略相手と結ばれる結末と、魂を切り離して元の世界に帰還(かえ)る結末と、ベストはルートが分かれるのだ。「ずっと傍に」という攻略対象者に絆されて残る選択をセーブする(データを残す)のが定番だが、帰還して、切なく微笑むが顔をしっかりあげて歩き出す主人公の立ち絵も格好いいと評判だった。

 そう!  帰還ルート!

「オティリエ、おはよう。」

 父がダイニングルームに入ってきた。

「・・・おはようこざいます、お父様。」

 貿易で財を為した商人である彼は、この国の男爵位を買ったのだ。

「明日は、学園の入学式だね。準備は終わったかい?」

 運ばれた香茶を一口啜って、穏やかに微笑む。()()()()ゲームの商人と言えば、腹の出た小男だが、()()父は細身の優男だ。

「大丈夫、です。」

「そうか。もし足りないものがあれば、執事(カイト)に言いなさい。言ってあった通り、私はこれから商談があって『夏野』に向かうから、入学式には出れないし、少し長く家を空けるよ。晴れの日にすまないが。」

「大丈夫です。」

 何不自由ない生活をさせてくれる父は、だからこそ忙しい。月にすれば一週間、年にすれば半分は家を空けている。

 口さがない者は他に家があるのでしょうと言うが、そうではないことを()()()()()

 アデラ男爵----グスターフ・アデラは、オティリエの母に恋している。母が亡くなった今も。だから、よく似た忘れ形見である娘を引き取って、養女にし庇護した。長じるにしたがって母親そっくりになってくる娘に、母親の面影を見て切なそうな光を揺らす。だが、()()はただ、母を懐かしく思っている()()だ。

 つまり。彼は攻略対象者の一人である。ただし、他の攻略者(隠しを含め)を総てグッドで攻略した上でルートが開く。

 ----開くつもりは、ないが。

 オティリエとして当たり障りのない会話を紡ぎながら、彼女は()()()()()()()()()()()()を考える。

 やり直し(要周回)系ではない、と思いたい。

 ならば、一番王道チョロいな、メインルートしかないだろう。

 そして、帰還するのだ。そればかりが心を占めていた。


 入学式には、早く着くのが彼を攻略する最初のポイントだ。

 この超序盤の選択肢は三つ。

 

 〇早めに。

 〇時間通りに。

 〇ギリギリで。


 お察しの通り、最初に出会う人物が変化するのだ。

 「早めに」を選び、次の選択肢、


 〇図書室を見に行こう。

 〇中庭で少し休もう。

 〇カフェテリアのメニューが気になる。


 で、中庭を選ぶと、()()()()祝辞を覚えている彼に出会うことができる。

 即ち、学園の今代の生徒会長である、『凪原』王太子であるレーヴェン殿下に。

 そして。選べばいい。


 〇こんなギリギリに覚えるのはちょっと。

 〇よりよいものにされようと、努力されているのですね。

 〇楽しみにしています。

 



 

「乙女ゲーム」転生編『笑)です。


「響界」編の後半戦です。裏話的なものなので、長さはさほどにはならないと思います。もう暫くお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ