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落人き譚 5

 ナルニアは古典だ。もし、()()読んだことがなければぜひ読んでほしいくらいの。

 そして現在、世の中には異世界に転生、転移するFT展開に満ち満ちている。

 ゲーム(小説・漫画含む)のなかの訳アリ登場人物に成り代わって、不本意なストーリーの攻略に挑む展開はご都合主義でも好きな展開だ。現代の知識で世界を作り替えていくのも興味深い。

 顧みて、さて己が現状は、と思いめぐらす。

 突然「あ、あの人は!?」ということもなければ、何か技術発展に寄与したい気持ちにも襲われない。

 端末がないのは手持ち無沙汰だが、別に端末を開発し()()わけではない。

 住居は清潔で(トイレは水洗でお風呂も大浴場だが毎日入れる)、食べ物も口に合うし(上げ膳据え膳だ)、衣服はクラシックだが、着るのにためらいがあるものでもない。

 界落者であることは内緒だ。顔立ちから、東の花陸(エーデ)から渡来人で、(本当だかは知らないが)少し言葉が違うという理由で、午前中はその日の「先生」と勉強して、昼食後は「暁」の召使と館内の雑務に携わる。使用人扱いといっても特別待遇だ。

 ただ発明は必要の母という通り?、学生時代の自分もびっくりの上達具合である。

 もとの世界では、家族や友達はいなくなった自分をどう思っているのだろう、と想像することはあるが、悲しくて涙が溢れるということは、ない。

号泣したのは記憶に新しいが、あれは混乱が極まったための反応である。突然失踪したことになって、面倒をかけて申し訳ないと思うし、理由を面白おかしく語るやつもいるだろうなと考えると苛っとするが、我ながら恐ろしいほど、()()()()()状況を受け入れている。

 ここにいるしかないのだ、という、諦観だ。例えるなら、高校受験で志望校に落ちて、滑り止めの高校にいるしかない、という感じか。仕方ないのだから、もう()()で出来ることをしよう、と思う感じ。きっと良いこと()ある、と前を向く。

 何にせよ。日々は恙なく過ぎていく。

 からだに「変容」も()()起こらず。

 

 「セィリィ!」

 リネン室からの戻り路だ。

 「御館様がお呼びになっているわ。次の仕事が在るのなら代わるわ。」

 二階東の窓ふきの予定であった。了解、と最初に会った彼女----レイラが頷いて送り出してくれた。

()()()ということは、(こちら)にお戻りなのか。」

 行き先を判定する。

 御館様。公爵様、総督閣下----青年は『暁』宮内で、おおまかに三つに呼び分けられている。

呼び分けられている以外にも数多の肩書を所有しているのだが、上記の三つをあえて区別するのは、呼び名によって執務室が違う所以だ。

 聞くところによれば、当初(むかし)は一つの執務室で、三つの肩書それぞれで裁くべき案件を総て処理していたらしい。が、物理的に手狭になっていったのと、ある部署に時間を取られると他の部署の案件が割をくらって進まず、部署同士が険悪になるということが度々起きたという。

 それで、時間配分をはっきりさせた方が効率がよいだろうと、肩書ごとの執務室を設けて、一日を三分割し、青年が各部屋を移動して、案件(仕事)を処理している。

 とにかく忙しい----仕事に追われている、というか、仕事漬けが充実(幸せ)だと思っている、瀬李の常識的には時代遅れ(だめな)タイプだ。

 ----閑話休題。

 御館様というのは、最も内向きな肩書だそうだ。プライベート寄り、といえばいいのか。だから、一日の終わり、夕刻からの短い時間が定番で、こんな午後の良い時間の在室は珍しいと、新参の身でも小首を傾げてしまった。

 しかも、自分を呼びつける?

はっきり言うと、あの日以来、接点がない。見かけはするが、だいたい人に囲まれていて(引き連れていて)、新入りの召使が傍に寄れる状態にはないし、青年も立ち止まったりしない。

 といって、打ち棄てられている感じではなく、教師の対応も召使頭のシフトの組み方も、きちんと配慮があり、事務的にはたいへん整えられている(ストレスフリーだ)

 金髪の、屈強な男の方は親身な表情を向けてくれた。が、三日目の朝に「『幸運を』」という一言を残して、姿を見なくなった。『暁』の人ではなく、訪問者(お客様)であったらしい。

 中庭を囲むようにして、主館と、三つの棟から成る(仮称)(みなみの)宮。朱玄両公爵、蒼公後見、白公預かり----四方公爵と呼ばれ、『暁』大公(旧『凪原』領総督)である、エアルヴィーンが現在、住居(すまい)としている。いろいろ注釈が付くのは、(公然の秘密だそうだが)遷都が行われた後は、一帯は王宮に為るから、らしい。

 ちなみに総督宮と呼ばれている一番大きな建物が王城本体に為るそうだ。

 さて、「入れ」という応えを待って、扉の左右に控える衛士に会釈してから、扉を開けた。当然、青年は書類に目を落として、ペンを手にしていたが、自分の後ろで扉を閉まると、どちらもすぐに手放して立ち上がった。

「では、行くか。」

 では? それはいったい、どこからやってきた接続詞だろうか。

「どこへです?」

「街だ。案内する、というのを止めたのは俺だからな。」

「?・・・ああ」

 3日目に連れ出そう(案内したい)とした男を、右も左も分からぬ中連れ出しても疲れるだけ(ストレス)だろうと止めた経緯があった。物珍しさは満たされたかも知れないが、何も分からない中で案内されても、何の役にも立た(実りは)なかったので、青年の判断は正解だと思う。

 そして、それをちゃんと覚えていて、取り返そうとしてくれるのは律儀だ、と感心したのだが、

「言葉もだいぶ板についてきたようだし、事情を知らない者たちとどれくらい話せるか試すのも良かろう。」

どうやら、実地試験に連れ出されるらしい。



 

 



私は「馬と少年」が大好きです。あの、他視点からの四兄弟の治世と、エドマンドがすごく知的でカッコいい。話中で語られるピーターも(でもピーターは『最後の戦い』のあのセリフが好き)。


原点です。

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