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73 かへり見すれば 1

舞台はオレノに戻ります。


 ガレシの舞踏会は、一日遅れで華やかに幕を開けていた。 今夜も 主賓(ティバレス)の出席はないまま、会は進んでいる。

大ホールと隣接する三つの小ホールと、庭園も開かれている。お城のよう、というのは便利な形容だが、戦後『遠海』の王城で開かれた、どの夜会よりも派手な設えであった。

 表向きは、賓客が来ることになった()()、と一日延期された舞踏会だが、ガレシあってのオレノ地方である。面と向かって、お孫さんの具合はいかがですか、と問うものはいないが、一昨日の狩猟会に姿がなかった時点で察した者は少なくなかった。館内にそれぞれ独自の伝手を持っているから、重篤な状態らしいと聞きつけ、したり顔で囁き合っている。

 盛大な披露目をしたのに、たった一日しか保たなかったなんて、期待外れで、老伯もお可哀そうに。

 たった一日のために、どれほどの治療費を費やしたのか、最後まで金喰い虫だ。

 もはや見捨てて、さすがの老伯も養子をとるに違いない。

 それはいずれの分家の男子か、はたまた有望な即戦力に、血筋の女子を娶わせるか。

 老伯は、矍鑠とはしているが、矍鑠とという言葉で讃えられるほどの高齢だ。 

 華やかな音楽が贅を凝らした大広間を満たし、人々の欲望もまたいっぱいに広がっていく夜となっていた。

日程が詰まっている者は勿論帰宅して良かったが、殆どが延泊を決めたし、空いた一日半でとんぼ返りして都合をつけ直して再度、参集する者も見られた。アヴァロン一行も、留まることを合議の上で決めた。

 セアラヴィータら、アヴァロンの生徒たちは小ホール内の催しに参加している。仕切りは取り払われているから、遠くにではあるが大ホールも見晴らすことができる。が、デビュタント前で、パートナーもおらず、また招待客の随伴者でしかないから、彼女たちは不文律として向こうに渡れない。

 セアラヴィータは、イシュロア卿にエスコートしてもらう筈だったのだが、ガレシのお家騒動の余波で忙しく立ち回っているようで、夜会には参加できないと断りの文が来た。

「あのお召しものの、裾の刺繍が見事だわ。」

「いま中央で踊っている方の、ネックレス。石の組み合わせが素敵、」

「こちらの前菜、食べられました?  」

「そちらの薄く焼いたお肉、サラダ菜で巻くと絶品ですわ。」

「左の壁のところでお話されている貴公子方は、五侯国の方ではないかしら?」

 各々の興味があることで代わる代わる盛り上がって、そうして避けていた話題にそっと入っていった。

「ナナア、やはり来ないわね。」

 茶会の席であった出来事は、緘口令を敷こうとはしたようだが、蜂の巣を突いて飛び回った羽音の制御は効かなかった。

「まさか、ティバレスさまの()()()だったなんて、」

「身分違いすぎて、まさかと思ったけれど。」

「でも、思い合った二人を引き裂いていたなんてひどいですわ。お互いが心変わりをしたと思っていたとか。」

「ショックで、ティバレスさまは再び体の調子をおかしくしてしまったのでしょう?」

 実際とは違うが、彼女たちの認識が大方のものだ。

「シェールも心配ね。熱が下がらないだなんて。感染の恐れもあるから、パーラだけとカティヌ()()が交替で看ているというけれど。明日も容態が変わらなかったら、私たちだけで帰島しなくてはならないのかしら。」

 セアラヴィータは悲劇的な面持ちで首を振った。

「こんなにいろいろな事がある行儀見習い体験学習なんて、あるのかしら!  学院(ウィスクーム)に戻ったら、報告会があるでしょう?  我々の体験の多様さに皆さん吃驚されるわね!」

 その他大勢の傍観者でしかない今より、帰島した後の特別な視線を想像して、胸を躍らせているようだ。

 学生である彼女たちは、そろそろ退席する刻限が迫っている。目と目を合わせて、扉の方へ動き出そうとししたその時。大ホールの上座付近がはっきりと騒がしくなった。

 彼女たちから姿は見えないが、そこはガレシ老伯がいる場所である。

 水紋のように広がる騒めきに、目と耳を凝らして。

 待たれていた賓客が到着した----と判った。

 

 『遠海』のカノンシェル皇太子殿下が来臨された、とやがて人々は聞いたのだ。


 

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