#90
9月になり少し日差しが柔らかくなってきた。
クロイから送られて来た宰相の不正と言うか、もう国家叛逆の証拠をアーナンテに送った。勿論、コピーは保管してあるよ。どうなるのか?辺境伯様は任せろと喜んでいる。
帝国との争いの前に、国内が騒がしくなるのは避けたいと言うのもあるらしい。
クロイは帝国領内へと入っている。攻めてくる時期を見極めるためだ。クロイには魔導具の試作器を渡してある。これは見た目は只の板の様に見えるが、手に持ち魔力を流すと視界に入力画面が立ち上がり思考操作でメールが送れると言うものだ。地球で言うとスマホサイズで指定された魔力でないと反応しない。メールの着信は身に着けていれば視界に着信したと反応が出る仕様だ。残念ながらまだ二台しかない。俺とクロイ用の二台だ。
ポセイドから緊急連絡が入る。何やら漂着したと言う。何だろう?急いでポセイドへと向かう。
ポセイドに着いて海岸へと向かうと人集りが出来ている。そこにいくと、
「マリス様、こちらです」とアルカス。そこには船の大きな木の破片が漂着しており、そこに人が倒れている。その姿を確認すると、
「獣人族か、とりあえず息があるなら助けろ」と兵士が近寄りおっかなびっくりと言う仕草で獣人族を抱えて騎士・兵士待機所にある医務室へと運ぶ。誰も獣人族は見たことがない為に対応が出来なかったようだ。
書庫の知識に他大陸に獣人族や聖霊族といった亜人と言われる種族が存在している事を知っていた。だから、あまり驚かなかったが、他の者からすれば獣の耳や尻尾があるのは不気味に見えるのだろう。少し気になるのは首輪がしてあり、その首輪から魔力反応があることだ。
獣人が気がついたと言うので行ってみると・・・・シャーシャーと威嚇している。半袖に短パンで良くみると猫耳に猫尻尾がある。多分、猫人族なのかな。見た感じは9歳〜10歳位か、他種族なので分からんが。雌?女の子か?
兵士達がどうして良いかオロオロしているので、その猫人の前へと行き。パンを収納から出してみると猫人の目はパンに釘付けだ。パンを右やれば右に左に動かせば左にと言った具合に追従してくる。鼻をヒクヒクさせて涎も出ているようだ。ポイっと投げると空中でキャッチ。壁に向かって座りムシャムシャと周りを警戒しながら食べる。
収納から具がたっぷり入ったスープを器に盛りスプーンを付けて差し出してやると俺の顔と器を行ったり来たりしていたが「良いぞ」と言うと器を引ったくるように取ると勢い良くスプーンで掬い食べるが熱かったらしく。舌を出して涙目になっている。
コップに冷たい水を出してやり飲ませると「誰も取らないからゆっくり食べろ」と言うと冷ましながらゆっくりと、それでも周りを警戒しながら食べる。
その間に騎士・兵士を集めて獣人族や聖霊族といった他種族の事を話す。この子は猫人族の様だが他に狼人族や虎人族、熊人族、犬人族、兎人族、鼠人族など多数いると言う話をした。聖霊族にはエルフ、ダークエルフ、ドワーフといったものがいるとも話した。
猫人族の子が落ち着いて来たので話そうとしたが声が出ないようだ。しきりに首輪を指差す。これが原因か?と首輪に手を翳して魔力を流し込む。反発がすごいが魔力を浸透させるとコアの部分に魔力が浸透するとカチャっと首輪が外れる。
それを見た猫人が涙を流して喜ぶ。ニャーニャー泣いている。とりあえず頭を撫でてやると落ち着いて来たようだ。話を聞くと名前はアリルで9歳。村で暮らしていたが奴隷狩りにあい奴隷になってしまったと、奴隷にした連中が新しい大陸を見つけに船で航海をしている時に海の魔物に襲われて、乗っていた船は沈没。他に2隻もいたがそれらも沈没。何とか船の残骸にしがみ付き海を彷徨い、ここに漂着したと言うことらしい。
アリルは領主館で預かることになった。領主館に入るとハルが出迎えて事情を説明。アリルをハルに任せるとハルはまずアリルを風呂に入れようとしたがアリルが激しく抵抗。シャーシャーとハルを威嚇するがハルは構わずにアリルの服を脱がせて首根っこを掴んでポイっと風呂に投げ込み洗う。抵抗虚しく洗われたアリルは耳をショボンとさせて尻尾を股の間に挟んでハルを警戒。
ハルはそんな事に意を介せずアリルに侍女の服を着せる。尻尾を通す穴が必要と言うことでディアが呼ばれてサイズ調整と改造されて猫耳侍女アリルが誕生だ。
まぁハルに任せておけば大丈夫だな。
帝国との争いが済めばアリルのいた大陸に行ってみるのも良いな。考えよう。
9月の半ばになりヨネンが訪れる。最近になって売るようになった塩が格安と言うこともあって売れているようだ。なるべく産地がアルニア領と言うことが分からないように売ってもらっている。
トラッターもまだまだ予約が捌き切れていない状態だ。西領の者達も塩の売れ行きが落ちて来てヨネンに抗議をしたらしいが、辺境伯様が出て何も言えなくなったらしい。クロイからの情報でアーナンテ領内にあった全ての裏ギルドのアジトを潰し、西領からの妨害を阻止することに成功している。
今回は辺境伯様に魔導バイクを6台運んでもらう。これで辺境伯様に納入する分は完了となる。トラッターの追加が欲しいと言われたが予約分の納入が済むまでは待ってもらっている。
この生産過程で見習い達の技量が上がり生産性も向上した。良きかな良きかな。だね。
最近の食卓に牛肉と羊肉が出てくる。詳しく聞くと、放牧しているマッドカウとブリスルシープの繁殖力が旺盛で、ある程度歳のいっている雄を間引いても問題ないらしく食卓に出ていると言うことだ。
久しぶりに食べた牛肉は美味かった。塩、胡椒のみで焼かれたステーキに、醤油・白ワインビネガーとライムの絞り汁で作られた物に付けて食べるとサッパリとして美味かった。口に含んだ瞬間に噛むまでもなく溶けて消えていく牛肉は日本でいえばA5ランク以上に美味かった。日本でA5ランクの牛肉なんて食べたことないけどね。
領主館の食堂で夕食を食べ終わると目の前にハルに厳しく指導されているアリルがいる。思わず収納からゴムボールを出して転がすと目がゴムボールを追っている。
魔力で操作してボールを動かすと、だんだん我慢できなくなったのか、ピクピクと手足が反応するようになる。
アリルの目の前に転がすと目の色を変えて飛びつくが・・・魔力操作で回避。
アリルの目が見開きフシューと鼻の穴を広げてボールに飛びかかるが・・回避回避。少しの間遊んでいるとハルが来てボールを簡単に掴むと何処かに収納してしまう。
こちらを見る目が冷たい気がする。アリルはハルに首根っこを掴まれて退場。
やはり獣人と言っても獣の習性は残るんだな。
良い暇つぶしにはなったかな。
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