#52
『ダロス!そっちに1匹行ったぞ』
『おうっ、任せろ』
2台の機械がオーガ2体を追い込んで行く。
ユーボの胴より長く2.5m、全高は変わらずだが足は6本。操縦席は幅が10㎝広がり長さも後ろに50㎝長くなった。操縦席が長くなったのは操縦席の後ろに荷物を置くためで簡易な野営道具や雨具、昼食、剣やナイフが置かれて、操縦席はリクライニングもできるようになっている。
胴体後部には各種アタッチメントと小さな荷台が付いている。名前は、
“ユーボⅡ”
安直ではあるがガロンとダロスは「大きくなってもユーボはユーボだよな」と譲らなかった。
今回の大きくするにあたり新たに装備されたのは近距離念話機能だ。これはあらかじめ登録された者と念話で会話ができる。会話できる距離は500m。登録可能数は10となっている。
更に改善とテストを兼ねて燃料魔石は10MPの低級上位魔石を3つ使い、1つの魔石が空になると2つ目の魔石から魔力を取り出す仕様となっていて、空になった魔石は宙空より魔力を魔法陣を介して補充。1時間で満タンとなる。このユーボⅡは通常稼働時は4〜6/hの魔力消費で戦闘時は9〜10/hとなる。これにより計算上は24時間無限に稼働できる事なるが勿論、可動部などの摩耗もあるのでメンテナンスは必要だ。
『ヨシっ!もらった!』とダロスが乗るユーボの大型ピッケルが付いたアームが振り下ろされてオーガは絶命。もう1匹も程なくしてガロンの乗るユーボⅡに倒される。
2人は器用にユーボⅡを操り、降りずにユーボⅡのアーム1本だけでオーガを解体して魔石や必要部位を取り出して後ろの荷台へと収納していく。採取もユーボのアームで行っており、もはや職人芸といっても過言ではない。
「もう一本アームがあれば楽なんだがな。マリス様に相談するか」と呟くガロン。
その頃、ライデンでは、
「さてとどうするか?」とマリスはユーボⅡを作成する際に分解したユーボの胴体を見て呟く。
ユーボ用の牽引荷台を作った要領で16インチ位の鉄のホイール2つと20インチ位のホイールを作成する。そこにゴツイ16インチ用タイヤと20インチ用タイヤを作成。それぞれ取り付けて風魔法で空気を入れる。
胴体の足がついていた所に上下に動く連結で長さ30㎝、太さ直径7㎝の鉄の棒状の物を繋げる。これを前と後ろ4箇所につける。
20インチのタイヤのホイール内側に試作で作った魔導ホイールモーターをつける。ホイールモーターに上下に動く連結で胴体後部の先程つけた鉄の棒状の物に連結する。
16インチのタイヤに左右に動くためのコの字型の金具を付ける。その金具に上下に動く連結を取り付けて胴体全部に取り付けた鉄の棒状の物を連結。
胴体内に5MPの低級魔石を3つ取り付ける。それぞれの魔石に宙空から魔力を集め吸収して魔石に補充する魔法陣を配置。試しで魔石の欠片で作成した米粒2つ分しかない大きさの魔晶石を取り付ける。その周りに制御用の魔法陣を設置する。
そこに試しに魔力を流すとタイヤが付いた棒状の鉄が地面と平行になり胴体を浮かせ、タイヤも進行方向にまっすぐ向く。成功だ。
回転する台座と操縦席はユーボⅡへ移設したので新たに固定式の台座の上にパイプで覆いユーボと同じような座席をつける。肘掛けにつけた操作用の魔銅は棒状にして掴めるようにした。足元もパンチング穴の空いた鉄板を付けて固定。胴体前方にパイプでバンパーを付ける。
操縦席上に鉄板で屋根を付けてライトを二灯取り付ける。後ろには前のユーボからの牽引荷台のフックがあるがそのまま使用する。
これで完成だ。
操縦席に乗り込み魔力を魔銅操縦桿に流すとブーンと音がして胴体が浮き上がる。タイヤも進行方向へと向く。ユーボと同じように薄い魔力球を半径3mに展開、視界に右上に表示が現れて周囲の簡易マップが展開。
前進の指令を魔銅操縦桿より流すと後ろタイヤの魔導モーターがゆっくりと回り出す。それにより前進を始める。領主館の庭をくるっと1周。ユーボほどの複雑な動きは無いので簡単に学習してすぐにスムーズに動き出す。途中で止まり、バックしたりもしたがこれも問題ない。
牽引荷台も繋げて引っ張ってみるが楽々と走れる。これは便利だ。今度胴体に固定する形で泥除けも付けよう。
前タイヤが小さく後ろタイヤが大きい姿を見るとトラクターの様だ。これの名前は、
“トラッター”にしよう。名付けのセンスが皆無なのは仕様だ。諦めてくれ。
領主館から出て村内を走る。
村内の石畳の道を住人がいない所を全速で走る。最高速度は大体時速50㎞位。巡航速度は時速40㎞位かな。操縦席を水平に保とうとしたりギャップから来る振動も抑えてくれる。良いね。
スピードに関しては、まぁ、この魔導モーターは他の用途で試作したものでトルク重視の物なのでこんな物だろう。あくまでも試作なので問題ない。
使用魔力は2〜4MP/h位だ。こいつも普通に魔力障壁が貼れる。なんでだ?魔力循環も自動で行っている様だし不思議。魔銅操縦桿から何か読み取っているのだろうか?小さい魔晶石でも問題ない様なのでこれをベースに考えるかな。
これなら収穫物を農地から運ぶのにも使えそうだ。工夫すれば収穫にも使えるか?今はまぁ良いだろう。
少し走り考える。う〜んバックミラーは必要かな?一応作ろう。そこにアルカスとマルスが通りかかる。
「マリス様、これはなんですか?」とマルス。目がキラキラしている。トラッターに釘付けだ。
「馬なしで走る馬車?かな?移動に使う物だな」
「マリス様、少しで良いので使わせてもらえませんか?」
「良いぞマルス。初めはゆっくりな」と降りて荷台にアルカスと共に乗る。マルスはガロンとダロスを見ていたからか操作は直ぐに出来て走り出す。
うん、牽引荷台もバネ板とゴムタイヤで意外に振動を吸収して乗り心地は悪くない。マルスは円形広場でくるっと回転して来た道を戻り少しづつ速度を上げて行く。農地側の外壁を潜ると農地に通る道を走る。
順調に走り、途中アルカスに変わり引き返す。2人とも楽しそうだ。乗り心地も石畳で無くとも案外良い。風が心地良い。
そうだな兵員輸送車とか必要かな?アーナンテ領都まで急ぐ必要がある際は良いかも。検討しよう。
2人はどんな物が良いだろうか?騎士が使っても良さそうなものってなんだろう?
騎士と言えば馬だな・・・そうだ森の中を移動する事を考えてオフロードバイクっぽい物はどうだろうか?良さそうな気がするな。
あとは2人が乗れるかだけど、運動神経は抜群に良いから大丈夫大丈夫。多分。
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