#50
今日は魔晶石を使い何か村に役立つ物が作れないか考える。
自律行動ができるゴーレムは技術的に無理。どうしても間接操作は必要となる。
2足歩行で2腕が付いた物を思い描くが可能ではあるがそれが必要かと言うと疑問だ。もう少し農耕や開墾に特化した能力の物が良い。
今思い浮かぶのは前世の世界にあった重機。それもショベルカー。
これなら良いのでは無いか?まだあちこちと掘り起こす作業は必要でアームのアタッチメントを交換すれば木も切れそうだ。勿論、その力で切り株も容易に取れそうだし専用の荷台を作成して牽引もできそうだ。
まぁ、形は異世界らしくタイヤはキャタピラではなく4つ足にする。それなら不整地も行動できるだろう。
初めはミニショベルカーだ。1辺が1mで高さが50㎝の箱型の胴体を作成。そこに蜘蛛のような足を4本つける。これは試作なので骨組みは鉄を錬金鍛治で作成して外皮は木製で錬金で加工。足先まで魔銅を配線、足全てと胴体に魔力を流せるようにする。
胴と足が完成すれば胴の中に魔晶石と燃料となる中級魔石を配置。燃料の中級魔石の周りには停止時に空気中の魔力を吸収して魔石に補充する魔法陣を作成。中級魔石の保有魔力は50MPで停止時に1時間で10MP回復する。5時間あれば満タンになる。
次は回転する台座を作成して胴体に錬金で付ける。その上に鉄パイプでガードを作り覆い、椅子を設置。椅子はこのためにゴムを発泡させてスポンジ状にしたものを中に入れてラッシュボアの革を被せた物を使用。長時間での作業ができるよう配慮した。
椅子には肘掛けを両側につけて肘掛けの先に操作用の魔銅を剥き出しに両方の肘掛けに付ける。足元には足を置ける鉄に穴をいくつも開けた鉄板をつける。後ろの胴体には荷台牽引用のフックも付ける。運転席上には鉄板で屋根を付けてその上に前方に向けて光らせる事ができる光魔法のライトを設置した。
運転席前部にアームを付けてこれで作業する。デフォルトではシャベルだ。他のアタッチメントは随時追加となる。今の所はアタッチメントは牽引する荷台に設置する予定だ。
使用魔力は1時間で3〜5魔力が必要で使い方によって上下する。
魔晶石には歩く、運転台の回転、アームの操作、ライトの点灯消灯と半径3mの薄い魔力球を出して周りの環境を把握し記憶する魔法陣を組んだ。勿論、操作行動記録も記録して記録した行動パターンから操作指令に基づいて動作を補助するようにもしてある。少し魔法陣の内容が冗長気味な気がするが未知のCPUで記憶媒体でもある魔晶石のテストも兼ねて動かす。
完成した魔導ショベルカー・・名前はそうだな・・・“ユーボ”。安直だけど此処は異世界だ。誰もツッコミは無い。と思いたい。無いよね。
座席に座り、肘掛けの先にある操作用の魔銅に手を置く。そこに魔力を流すとブーンという音と共にユーボが立ち上がる。すると視界右上に丸い表示が現れて表示の中に更に円が表示、中心に青い三角。一番尖っている三角の方向が今向いている方向みたいだ。内側の円の中が薄い魔力球の探知範囲だろう。
前進を指令すると初めは躊躇するような仕草をしてから少しづつ足を動かして前に進み始める。10分も歩くと慣れたのか少しスムーズになる。こちらからも修正が無い場合は最適解と理解してデータを精査して纏めているようだ賢い。
そこからは運転席を回転させたりアームを動かして穴を掘ってみたりとやっていると、
「マリス様!」と声を掛けられる。なんだと振り向くとそこにはオコなハルがいた。
「なんだハル?」と首を傾げて答えると、ため息を吐いたハルが、
「なんだハル、では無いでしょう?この状態はどうなっているのですか?」と周りを見渡すと綺麗に整地されていたはずの領主館の前庭があちこち掘り返されボコボコになっている。
「あっ!」と気がついた時にはもうハルに怒られた。まったくマリス様はと言いながら一緒に土魔法で庭を慣らす。慣らし終わると、
「マリス様、もう昼はとっくに過ぎていますよ。昼食はどうされますか?」
「うっ、もうそんな時間か・・・そうだな何かあるか?」
「素うどんならすぐにご用意できます」
「頼む」と言うとハルはくるっと踵を返し館へと向かって行く。その後ろをマリスはとぼとぼついていく。
食堂に着くと適当な席に座る。15分も経つとハルがうどんを運んでくる。
前に置かれたのは陶器の器に小麦粉と塩で捏ねて切った麺と焼いた魚の骨から取った出汁と醤油と白ワインを少しと甜菜砂糖を入れて煮込んだつゆだ。その上にカットされたネギが少し散らされている。醤油と甘い香りが器から立ち登る。うん、良い匂いだ。食欲をそそる。
一味を入れるかと収納から出す。ふと閃く。
小皿を出してそこに一味を入れる。更に粉末にした山椒を入れてライムの皮を薄く剥き、剥いた皮から水魔法で水分を抜き乾燥させる。更にそれを魔力で包み魔力刃で細かく粉末状にする。それを一味と山椒を混ぜたものの中に入れて混ぜる。
簡易な七味の完成だ。
七味を適当にうどんにかける。うん、山椒とライムの匂いがつゆの匂いと交わり食欲をそそる匂いへと昇華する。
一口箸で掴みツルツルと麺を啜る。美味い。麺を噛むと稲庭うどんのようにカットされた麺は腰がありそれでツルツルと喉越しも良い。
美味い。
つゆも一口。醤油と砂糖と魚からとれた出汁が合わさって絶妙な味が形成されている。これも美味い。間違いない。
あっという間に食べ終わる。
「ハル、美味かった。ご馳走様」と声をかけるとハルはニコッと笑顔見せてくれる。ハルは笑顔が一番だ。怒らせてはいけない。
ユーボを農地まで乗って行きテストを行う。領主館の門を抜けて農地方面へと石畳みをユーボで歩く。ショックが来ないように気を使い歩いていたからか石畳みの上を歩いても振動は来ない。快調だ。
外壁を抜ける。前には広大な農地が広がる。
初めはゆっくりと歩かせていたが徐々に速度を上げていき最後には馬よりも早く動く。これでもあまり振動は来ない。ユーボの方で振動をなるべく吸収するように動いているようだ。
これは良い物を作ったかもしれない。前に人の反応だ。凄い速さで駆けてくる。
あれはガロンか、
「マリス様〜」とガロンが叫ぶ。近づくとガロンはユーボの周りをくるくると周り出す。
「マリス様、それはなんです?」
「これはなガロン、農地開拓や農耕用に作った魔導具だ。人が乗って操作する物なんだ。前についている物で穴を掘ったり、地中に埋まっている石を取り除いたりな。あとはこの後ろに荷台を付けて引っ張って運搬することもできるぞ」
「ほう、そりゃ〜便利そうだ。マリス様少し乗せて貰えませんか?」
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