#46
水路作成の続きをする。川から堀へ土魔法で繋げ、堀から農地へと用水路を作って行く。堀にもうすでに溜まっているこの水は下水処理した水が溜まったものだ。下水処理しているのは勿論のスライムだ。どこでも使っているらしい。
堀から用水路を農地の真ん中に通して川へと返す。川から堀、堀から用水路〜川の経路を時間を掛けて石で覆う。これでどこかで浸透して流れが無くなることは無いだろう。
ここまででもう3月の頭だ。もうすぐ行商人と共に物資も届く。
数日後、行商人一行が到着する。今回の護衛は冒険者がしている。旧子爵領都には冒険者ギルドがあり今回はアーナンテでは初めての冒険者派遣となった。
今回護衛として派遣されたのはBランク冒険者パーティーの“灼熱の牙“6人だ。斥候、盾役、剣士2人、僧侶、魔法師とバランスの取れた高ランクパーティーとなる。今回は実績も素行も良いことから選ばれたようだ。
荷馬車は3台、行商人の荷馬車1台に物資が2台。
一行が門扉を潜り中へと入ってくる。何か唖然と周りを見ている。行商人の責任者らしい者に声を掛ける。
「すまんがこの一行の責任者か?俺はここの領主のマリス・アルニアだ」
「はい、領主様。私がこの一行の責任者でヨネン商会のヨネンで御座います。以後お見知り置きを」と頭を下げる。
「そこが宿だ。厩は裏手にある。物資の荷馬車はあそこにある領主館まで運んでくれ」
「はい、畏まりました」とヨネンの荷馬車と馬は厩へ、物資は領主館へと運ばれて行った。
「なぁ、スグロ。ここって本当に出来たばかりの開拓村か?」と斥候のクロイ。
「確かに一見するとそうは見えないがよく見ると建物は新しい。開拓村には違い無いのだろうが」とパーティーリーダーの剣士スグロ。
「あっちを見てみろよ。まだ何も建ってねぇ」と盾役のダン。
「とするとあっちに綺麗に並んで建っているのが開拓民の住居か・・」と剣士マズ。
「なんか建物と外壁は普通の開拓村だとありえないくらい良く出来てるわ」と魔法師アンナ。
「でもここの開拓村って出来てから1年も経って無いのよね」と僧侶のミクロ。
「まぁ、ここで駄弁っていてもしょうがない。とりあえず宿で部屋を確認しよう」と6人は宿へと向かう。
「今日からお世話になるヨゼフと妻のアリアナ。息子夫婦のコルンとレナ。娘のムリナです」
「よろしく頼む。運営してもらう宿に案内させよう。サバス、宿までの案内と施設の説明を頼む。荷物は後で届けよう」と新たに開拓村に加わったヨゼフと家族をサバスが案内していく。
物資は既にハルの食料倉庫と倉庫に保管されている。ハルのスキルレベルもこの3月に入りレベルアップして6になって容量も大幅にアップしていた。
その日の夜、宿の食堂でささやかな歓迎会が行われた。今回の食事はマリスからもたらされた調味料に慣れているハルと開拓民の奥様たちで作られた。
そこに並ぶのは大量の唐揚げにポテト、ハンバーグと柔らかいパンとドレッシングの掛かった生野菜に枝豆だ。大人にはガラスのジョッキに入った火酒のライムサワーが配られ、未成年のハル、サバス、マリス、アルスにはジンジャーエールが配られた。
今回来た面々はその料理の美味しさとライムサワーの初めての炭酸に驚き、黙々と食べ飲んだ。
「なんだよこれ!うめー!こんな物食った事ねぇし、このシュワシュワした酒もうめぇよ」
「ここは天国か?美味いなんてもんじゃないぞ」
「私はこの枝豆はモラニデで食べたことがあるのですが・・この唐揚げと言いましたか?これは食感と言い味と言い、今まで食べた事がありません。このハンバーグも柔らかくジューシーで・・そして揚げたジャガイモもまたこのライムサワーと言いましたかこれに合う・・これはなんとしても・・」
その横で騎士マルスがライムサワーを作っていると・・・、
「ちょっと待って!そこの騎士様!何をしているのかしら」と魔法師アンナ。
「うん?ライムサワーを作っているんだが?」
「今魔法を使いませんでした?」
「うむ、風魔法を使ったぞ」とニカっと笑うイケメンマルス。そんなことにはお構いなく、
「使ったぞではありませんわ。詠唱はどうしたのかしら?それに風魔法を何でそんな事に使っているのかしら」
「詠唱ってなんだ?」とマルスは言うと、
「詠唱は詠唱よ。魔法を発動するには絶対に詠唱が必要なのよ!」と立ち上がり喚く。
「そうなのか?」とその横でアルカスが右手に何も詠唱せずに火の球を作る。それを見たアンナはプルプルと震え口をパクパクする。それを面白がって今度はマルスが右手に火の球、左手に水の球を作ると・・、
「な、なんで2属性も使えるのよ!」と言うとアルカスは左手に水の球を追加し、水の球と火の球の間に風の球を作り出す。
「さ、3属性!!」と目を剥き出して叫ぶ。そこに悪ノリしたマルスが火、水、土、風の4つの球を宙に浮かべる。
「4属性!!!!」と言ったアンナは白目を剥いて後ろに倒れる。
「ヤベェ、やり過ぎた」と慌てたアルカスとマルスは素早くアンナに近寄り抱えると空いているベンチに寝かせる。
気絶したアンナに僧侶ミクロが近づき手を当てて詠唱すると淡くアンナの身体が光る。
「大丈夫か?」とマリスがミクロに聞くと、
「ただ気絶しただけですから。一応、ヒールを掛けましたので大丈夫です。直に気がつくでしょう」
「なぁ、ミクロさんと言ったか?複数属性は珍しいのか?」
「そうですね少なくとも私は聞いたことがありません」
「こことアーナンテではあまり珍しくも無いのだがな」と困った顔をする。
「まさか騎士の方以外にも?」と聞くと、マリス、ハル、サバスとまだ覚えたばかりだがガロンとダロスまでが複数の属性の球を作り出して宙に浮かべる。
それを見たミクロ達は息を飲む。
ミクロ達冒険者や商人達も思った。これが噂に聞くアーナンテの強さの秘密なのかと。
お読みいただきありがとうございます。
誤字報告有難う御座います。感謝とお詫びに今日17:00にもう1話投稿します。
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