#42
3月も半ばを過ぎた頃に王都より伝令が来る。その報はウルーク帝国がダイノス王国に攻め入ったというものだった。
そこから1週間も経つと続報でダイノス王国は王都が陥落して既にダイノス王国の3分の2は帝国の手に落ちたという報告が入る。場合によってはダイノス王国との国境へ兵を参集するという話も付け加えられていた。
アーナンテ領ではコルニデ村の先に開拓村を作ることを発表。そこの責任者にマリスが就くと告げられた。更にマリスには名誉男爵が与えられ新たにアルニアという姓を与えられて分家として分かれるということも告げられる。
その話がノキアノス伯爵の元に届くと何故か伯爵領都へ挨拶に来るように手紙が来る。アーナンテ辺境伯は断ろうとしたが、元寄親ということもあり渋々了承。
マリスはカル爺、アルカス、マルスと兵士5名を連れて伯爵領に赴くこととなる。
一行は騎馬3騎に箱馬車1台、荷馬車1台で伯爵領都を目指す。途中、タラノイア子爵領都で歓待を受け伯爵領を目指す。
アーナンテ領から4日程で伯爵領都へと到着。伯爵の城に泊まるように言われたが固辞して程度の良い宿を取り宿泊。翌日に伯爵の城へと赴く。
城へと着くとアーナンテ領で採れた野菜を納める。そこに、
「何を持ってきたかと思えば野菜か?あいも変わらず田舎者だな」と言う者がいる。すかさず鑑定するとコイツは伯爵の嫡男だ。
「イヤイヤ、この野菜の旨さが分からないのは余程の田舎者ですね」とマリス。ぐぬぅという顔しているがそこに、
「伯爵の御嫡男とお見受けする。こちらはアルニア男爵様だ。控えよ」とカルは伯爵嫡男に言う。
「な、何を私は伯爵家嫡男だぞ」と言うが、
「何をおっしゃられるか、まだ継いでいない者は只の貴族家に過ぎない。このマリス様はアルニア家当主である。控えよ」と高圧的に怒気を含ませて言うと、
「くっ、覚えているがいい」と去っていく。
その後は昼食へと招かれる。その席で、
「ワシがマイルノ・ノキアノス伯爵だ。今日来てもらったのは単に顔合わせだ。昼食を食べていってくれ」といって席に着く。マリスは用意された席に着く。
その場に伯爵の他に嫡男が座る。食事が始まると、
「田舎者どうだ?美味いだろ田舎では食べられないだろうな」と笑う。そこに、
「これこれ、揶揄うでないわ。そら、初めてで食べられないと手が止まっておる」と笑う。
「そうですね、こんなにも不味い物は久しぶりです」とにこやかに答える。後ろに控えるカル爺が目を剥くが、
「いやぁ、よくも良い素材をここまで不味くできるなんて凄いですねぇ」ともう一言。
「何を言うか!!」と御嫡男。そして手袋を投げつけてくる。なんて古典的な。
「決闘を申し込む!逃げはしないな?」と言ってくるので了承する。
すぐに伯爵家の演習場へと案内される。
「マリス様、大丈夫ですか?」とアルカス。カル爺は笑っている。
「何がだ?俺がやりすぎることがか?」と言うとカル爺は更に笑う。「はぁ」と困ったようにため息を吐くアルカスとマルス。兵士達も混乱している。
演習場に1人で入るとそこには騎士が20人と後ろに御嫡男の計21名。これは伯爵家の騎士の半分に当たる数だ。要は領都を守る全ての騎士が動員されていることになる。それに演習場の周りには領都の住民やたまたま訪れた行商人なども見に来ていた。この短い時間にやれやれだ。多分、この流れは用意されていた物だろう。先頭にいる騎士が、
「臆されたか男爵様?1対1とは誰も言ってませんぞ」と煽ってくる。
「お前らは殺されても構わないんだな?」
「勿論ですとも。出来たらですが。男爵様も不幸にもお亡くなりになるかもしれませんな」
少し下がり距離を取る。
「カル様、マリス様は大丈夫でしょうか?私達が加勢した方が良いのでは?」とアルカス。マルスと兵士達も心配そうだ。その周りに住民達もなんて汚い真似をするんだと憤っているようだ。
「ははは、まぁ見ておれ。ワシらの主の実力が少し見れるやもしれんて」と笑う。
伯爵が手を挙げる。開始の合図だ。
マリスは右手を先程話をした騎士に向けて魔法を発動。魔力の球に風の乱流と多数の氷の粒が混ざり合い帯電していく、バチバチと放電し始めると魔力により誘導して雷撃を放つ。
「雷撃!」と言う言葉と共に稲光が敵騎士へと伸び遅れてドドンと雷鳴が轟く。
雷撃が直撃した騎士は後ろに吹き飛び転がりプスプスと煙を挙げる。鎧の中をみると炭化しているようだ。
マリスは身体強化をかけて更に魔力循環で強化して走る。両手を突き出して風魔法“ウィンドカッター“を5つ程低い位置で発動。不可視の風の刃が前方に陣取っていた騎士8名の足を切断する。そこに剣を抜き魔力と風魔法を纏わせて一人一人トドメを刺していく。
やっとのことで現状を理解した騎士1人が叫ぶ、
「盾を前に防御陣形!」と言うと騎士達は重なるように大きな盾を前に翳し後ろの嫡男を隠す。
足を失った騎士にトドメを刺し終わり防御陣形の騎士達へと走り近づくマリスは躊躇することなく盾を構える騎士達を盾の上から切り裂く。
何もないかのようにマリスの剣は盾と騎士を紙屑のように斬る。10人の騎士はあっと言うまに斬られて骸と化す。残るは嫡男を守る騎士1人と嫡男のみ。
マリスは加速。一瞬のうちに騎士の前に到達。
「待て!待ってく・・」と言い切らないうちに胴から上下二つに分かれる。更に踏み込み嫡男の首を斬り落とす。ここまで3分も掛かっていない。辺りはシーンと静まり返る。
マリスは嫡男の首を掴み伯爵の前へと行くと伯爵の足元へ嫡男の首を投げる。
「ヒィィ」と後退りするとそこに高い位置から矢が放たれるが魔力障壁で防がれる。マリスは鉛の弾丸を取り出して魔力の筒を生成して鉛の弾を包み筒内部にライフリングを刻む。火魔法を発動。
パンっと乾いた音とともに櫓の上にいた弓兵を狙撃して頭を撃ち抜く。ヘッドショット。
「汚いぞー!」「恥を知れー!」と住民が騒ぎ出す。元々重税を強いられて来た住民には鬱憤が溜まっていたようだ。兵士が止めに入ろうとするが兵士もここの出身だ、本気では止めていないし本来指揮するべき騎士は1人もいない。
カツンっと石が一つ伯爵の足元に転がると住民達は次々に石を伯爵目掛けて投げ出す。そこには兵士も加わり暴動へと発展していく。
マリス達は荷物を早急に纏めて伯爵領を脱出する。
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