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破滅主義者のサクセスストーリー  作者: 宮比岩斗
執着編 3章 転生者ともう一人の転生者

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転生者ともう一人の転生者

「殿下、お話がございます」


 八大氏族一同が集まった夕食のことだった。氏族の一つを治める魔法使いがそう切り出した。


 声を出した。たったそれだけのことだった。


 だか直前まで和やかに歓談していた氏族の面々は互いに目配せし、息を呑む。メイドになってしばらく経ち、働きぶりが板についてきたアインですら、配膳しようとしたスープ皿を床に落とした。そのまま片付けようともせず、丸くした目と呆けた口のまま立ちすくんでいた。


 それもそのはず。このしわくちゃで口ひげを蓄えた魔法使い、プロントというが極度の無口である。喋ることはまずない。話しかけても出来る限り身振り手振りで返す。八大氏族でも声を聞いたことすらないというのがほとんどである。僕自身、久方ぶりに聞いた声が誰の声なのかわからなかった。ただ実力だけは確かで、たった一人でいくつもの危機を乗り越えてきた強者である……らしい。あまりの無口ぶりでその功績さえ霞んでしまっている。ある意味、そのチグハグさ買って、八大氏族に抜擢したともいえた。


「プロントから話なんて珍しい。どうしたんだい?」


 声色を抑えて、そう尋ねる。


「ワシも今年で八十になります。八代氏族を務めるには些か歳を重ね過ぎました。我が一番弟子にあとを継がせたいと思いますがよろしいでしょうか」


「弟子いたのか!」


 その場にいた全員がそう叫んだ。それは初めて八大氏族の意思がまとまった瞬間でもあった。










 翌日、謁見の間にはプロントとその弟子が玉座に座る僕相手にひざまずいていた。弟子は十五ほどの女子だった。


「礼儀は不要だ。プロントの弟子よ、名を聞かせてくれ」


 仰々しくそう述べると、師匠とお揃いの濃紺をしたローブを纏う弟子は顔を上げる。嫌味のない赤毛で端正な顔つきで、ルセアほどではないが、きっと社交界の華になるだろう。


「キティ・ゲイルと申します」


「キティ……か」


 前世では英語で子猫という意味、元の世界では白猫に赤いリボンをつけたキャラクターが有名だった。


「私の名前に何か問題でもございましたか?」


「その名前はプロントがつけたのか?」


「いえ、私が自分自身で考えました。とある理由による捨て子ゆえ名前はありません。弟子候補から正式に弟子となった日、自らをキティと名付けました。家名は元々の出自は知っておりましたのでそこから拝借しました」


「……弟子候補の時はなんて呼ばれていたんだ」


「お師匠様からは、おい、とか呼ばれていました」


「不便だっただろう」


「弟子候補同士ではお遊びで名付けあっていましたので、それほど不都合はありませんでした。キティという名も元を正すとお遊びで私がつけた名前です」


 名付けるぐらいしろよと思ったものの、感性の違いか常識の違いか、氏族のしきたりに突っ込むのも野暮だと思って目を瞑ることにする。


「齢は?」


「十五になります」


 僕の三つ上か。


「キティ、お前がプロントの跡を継ぐというらしいが実力のほどはどんなものなんだ」


「……そうですね、お師匠様と比べると無骨で上澄みだけをさらったようなものです」


 その謙虚ぶりにお師匠様はひどく慌てた様子で口を挟む。


「我が弟子は自分の実力を低評価する傾向があります。どうか真に受けないで頂きたい」


「プロント、結局実力はどんなものなんだ。お前程ではないとしてもそれなりにやれるのだろう?」


「は、我が弟子は得意分野は異なるものの、間違いなく王の剣となるでしょう」


 キティを見る。うつむいて、明らかに気乗りしていないのが見て取れた。こういう娘は前世でよく見た。虐待まではいかないこそ、我の強い親に断りきれず引きずり回される顔だ。たいていの場合、その子自身はいい子なのだ。だからこそ親が振り回してしまうのだろうが。


 この無口がわざわざ引っ張り出してここまで言うとなると、それは大した実力者で人格的にも立派なのだろう。ならばやることは一つ。野望のためにも、この弟子を断ろう。


「そうだな……ルセアいるか」


 八大氏族の一人である夢魔を呼びつけると「ここに」とどこからともなく現れた闇が集まり、輪郭が作られ、ルセアとなる。


「どう思う?」


「御主人様が私めに意見を求めるのは珍しいですわね」


「八大氏族の中に入るわけだからな。一応意見ぐらい聞いておいた方がいいだろう」


「無理矢理私らを八大氏族に仕立て上げた方が何を仰るのでしょうね」


「なら言いたいことはわかるよね」


「仰せのままに」


 ルセアはキティに歩み寄る。その捕食者の色香に田舎娘はたじろぎ、後ずさりする。しかし、歩み寄ったルセアはキティの頬を手のひらで捉え、引っ張り上げ、顔を寄せる。わずか拳大にも満たない距離でルセアは見定める。キティが息を呑むと顔を離し、結論を出した。


「駄目ですね。きっとプロントの言うとおり才能豊かなのでしょう。けれど今の八大氏族の一人としてはやっていけません」


「何故だ?」


「この方は仕えることに意義を見出すことはしません。自分が何をするかに価値を見出すでしょう。有り体に言うと自分の価値観を人に押し付けるタチです」


「ルセア殿! そんなことないはずじゃ! なあ、そうじゃろ、キティ!」


 プロントが血相を変えて反論し、キティの顔を見る。けれどキティはうつむいたまま、反論しようとしなかった。


 ルセアはその姿にため息をつく。


「彼女もその意思はないようですし、他の人をあたりましょうか」


 淡々と言い放つ言葉はまるで振り下ろした鈍器かのようにプロントに放たれる。それをまともに喰らったのかその場に崩れ落ち、梯子を外した弟子に心配される始末だった。


「僕がこの件について預かる。八大氏族を決めるのは僕の一存だ。いいな?」


 その言葉には誰も異を唱えない。つまりは今後の方針が決まったということだ。目の前の爺さんは可哀想だが、他の人を八大氏族とする。


 今まではのけ者の種族を八大氏族に据えたが、何故か上手い具合にいざこざが起きてくれなかった。今度はアプローチを変え、どうしようもない無能か縁故採用でもしてみれば今度こそ暗愚扱いされるに違いない。そうなればあの神に一泡吹かせる日も遠くないだろう。










 後日、僕はとある地へと赴いていた。深い樹海に囲まれた、砂糖でもまぶしたかのような青き山。その青山は過去の大戦で半身を半月状に抉られた傷跡をまるで勲章かのように誇らしげに掲げている。ある文明の終末となったこの地は人間、亜人ともに口にすることすら避ける。それがこの霊峰の地。


 そこにプロントが作った隠れ里がある。人から追われ、亜人でもなかった彼が住まうには忌避されるここが格好の土地だったのだろう。他の時代ならば無いものとして扱われるこの地で終生穏やかに暮せたのだろう。だが一人でも多く不穏分子を引き込むことで、内部分裂を狙った僕の目から逃れられなかった。


 もっとも未だ上手くいった試しがないのだが。


 飛び上がり、空高くから青い樹海を見渡す。アインを初めて目にしたあのローカの木々は若緑で溌剌とした印象だった。だがこちらの木々は日光を求め、葉という葉が空へと我先に手を伸ばしていた。それは鬱蒼としていて、まるで蜘蛛の糸を求める地獄の亡者のようだった。


「……さて、勝手に来たはいいもののこれでは探しようがないな」


 この土地は過去の大戦が原因で磁場が乱れ、魔力溜まりがあちこちに出来上がっている。それゆえ千里眼が上手く働かないのだ。


 おかげでたまに浮かび上がり、樹海を俯瞰しないと簡単に迷ってしまう。


 地面に再度降り立ち、伸びをしてとりあえず歩みを進めようとしたその時だった。背後から血の気が引くような圧を感じたのは。


 魔力を腕に纏って振り返り、その勢いのまま背後に立つ者の首筋目掛け、腕を振るう。


「ねえ、なにしてるのー?」


 そんな甲高い無邪気な声が振り下ろす対象から飛んできた。すんでのところで腕を止める。そこでようやく対象が誰なのか確認できた。女児だった。年はわからないが、幼稚園ほどだろう。出会った頃のフィルと同い年程度だろうは。


 息を大きく吐き、安堵する。もしこの女児が少しでも動いていたら頭と胴は切り落とされていた。


 風圧で乱れた髪など気にも留めず、女児はもう一度訊いてくる。今度は「うおにいちゃん、どこからきたのー?」と。


 この女児の問に僕はなんて答えるべきか迷っていた。いくら森の中とはいえ、女児に背後を取られてしまった。そんな女児は本当に女児であるのか。女児の毛皮を被った物の怪でなのではないか。


 僕は女児の首筋から腕を引き、改めて女児の格好を見た。誰かのお下がりなのか、丈と袖が余り、ワンピースのような着こなしになっていた。血色は良く、デコっぱちは仄暗い樹海でも強い主張をしていた。


「君は誰だい?」


「あたし、キャスっていうの。おねーさんは?」


 お姉さんと言われて、キョトンとする。たしかに髪は長いし、中性的な容姿ではあるが、それでも今生では女と間違われることはなかった。


「僕はリオン。ここにプロントという方が治める里があると聞いたのだけど、知ってるかい?」


「知ってる! 付いてきて!」


 キャスはぴょんとウサギのように跳ねて森の奥へと誘う。森の中での彼女は不規則な木々の仲を迷うことなく駆け抜けていった。ぬかるみを避け、木々の根を足場に跳ねていく。巨大な木の根を跳ねて、太い木の枝を両手で掴んでは遠くの枝まで勢いをつけて掴みに向かう。それはさながらアスレチックのようで、見ていて楽しさが伝わってくる。そして、時折思い出したかのように木の枝に登り、振り返る。


「まだー?」


 僕はというと彼女の早さについていけず息切れを起こしていた。体自体は鍛えていたし、魔人という種は体力も秀でているものの前世も今生も舗装された道ばかり歩いてばかりいたからか、大自然に相対したことがなかった。ゆえにぬかるみには足を取られ、木の枝を踏み外して泥に顔面から顔を突っ込んだ。その久しぶりに感じるあまりの不甲斐なさに、笑みがこぼれてくる。「だいじょーぶ?」と身を案じてくれるキャスの顔でさえ、どこかほくそ笑むように感じられる。


「ああ、大丈夫だよ。ちなみにあとどれぐらいで着くのかな」


 だが顔には出さない。伊達に前世も合わせて四十近くは生きていない。もっとも泥塗れで表情はわかったものではないが。


「まだしばらくは歩くよー」


「しばらくっていうのはどれくらい?」


「さっきまで走ってたのと同じくらいかな」


「……空飛んじゃ駄目かな?」


「それだと結界に邪魔されて絶対に着かないよ」


「結界なんてあるのかい?」


「うん。ジーちゃんが作った結界があるの」


「結界かぁ。結界なら仕方ないかぁ」


 きちんとしたルートを通らないと目的地にたどり着けない類の結界だろう。この磁場やら魔力溜まりが酷いこの地でよく結界なんて作り上げられたものだ。少数派だからと、人間だからと選んだだけなのに、えらく実力派だったもんだ。


 それから1時間ほど歩いて、道中で顔を拭き、けれど再び泥だらけになった僕はようやくの思いで里に辿り着いた。里と聞いていた僕は勝手にこじんまりとした集落があるものと想像していた。その予想は裏切られ、目を見張る光景を見せつけられることになる。誰がまさかツリーハウスが背の高い木々に並ぶ光景を考えるだろうか。ご丁寧に木々を繋ぐ廊下まで作られ、手すりは丸くヤスリをかけられ、それはそれは立派なものだった。


「とうちゃーく!」とキャスの大声をあげる。するとそれに呼応するように「キャスが帰ってきたぞ!」と頭上から甲高い男の子の声がした。


 見上げるとツリーハウスの窓から男の子が身を乗り出していた。


「そいつ誰だー!」


「おきゃくー!」


「嘘つけー! こんなへんぴなとこに客なんて来るわけないだろ!」


「それがびっくり! おきゃくがあらわれたのだ!」


「まじかよ! ジジイ呼んでくる!」


 そう言って男の子は首を引っ込める。ドタバタという音の後、ギシギシと木がしなる音を響かせツリーハウスの渡り廊下を走っていった。


「じいじ、今いないのに」


 男の子を見送りながら、そう横で呟かれた。


「プロントは留守かい?」


「おねえを鍛え直しに行ってる。おねえ逃げたけど」


 キャスが上を指差す。それが示す先に視線を沿わすと大樹の上で息を潜めるキティの姿が視界に入る。半袖でズボンを膝上まで捲り、こちらに人差し指を唇に添えて静かにするように指示を出していた。隣のキャスは得意げに口角を上げていた。


 どうやら、わさとバラしたみたいだ。


 居留守が使えなくなっなキティはピョンと木の上から降りると、僕の目の前で片膝をつく。


「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません。これには深い事情があるのです」


「気にしなくていいよ。僕が突然来たのが悪い」


「ありがたきお言葉。……ところでどうしてこのような辺鄙な土地へ? 皇太子殿下が足を運ぶような土地ではないと思うのですが」


「君に会いに来た」


「わ、私ですか?」


「ああ、先日は横やりが入って真意を聞けなかったからね」


「真意ですか?」


「そう。君が氏族入りしたくない理由だよ」


 黙りこくってしまうキティは震えていた。


「ここにいるのは皇太子ではなく、一人の子供だと考えてくれていい。なんと答えようと何かに処することは決してない」


 それを聞いて、彼女はようやく重い口を開く。


「あたしは誰かを率いるなんて器じゃないです。考えるだけで怖くて夢にまで出てきます。子供らに文字や算術、あと魔法を教えてるぐらいが性に合っています。ですから……私は八大氏族になることはできません。いえ、なりたくないです」


 そう震える声でそう言い切った。きっと一世一代の決心だったのだろう。僕の立場ならその決心をへし折ることぐらい簡単だ。無理矢理、八大氏族に仕立てて将来の遺恨として残すのも悪くないが、正直なところやる気が起きない。この娘のことを、気に入ってしまっている自分がいるのだ。前職、この場合前世の職業が似たようなものだったため、頑張って欲しいと願う近所のお兄さん的な心持ちだろう。


「好きにしなよ。プロントには言い含めておく」


 つくづく甘い。砂糖をまぶした焼き菓子のように甘い。あの神に中指を立てられるため生きると決めたのに、これではニヤケ眼で空の上から見守られてしまいそうだ。


「感謝申し上げます!」


 そう声を張り上げるキティとは対照的にキャスが間延びした声で割り込んでくる。


「おわったー? そろそろお昼にしよー」


「食べていかれますか?」


「それじゃお邪魔しようかな」


「腕によりをかけさせていただきますね」


 キティは腕まくりして見せる。子猫の首につけた鈴のように元気な姿だった。


「あ、でもその前にお召し物を変えられた方がいいかもしれませんね……」


 水浴びし、代わりの衣服を貸してもらった後、僕はムーンラビットの肉野菜炒めに舌鼓を打っていた。ブロック状に切られた肉から滲み出た肉汁が野菜とよく絡んでいた。宮廷料理とは趣が異なる家庭料理のようだったが、前世で培われた貧乏舌のせいかこちらの豪胆な味付けの方が好みだった。


「お気に召したでしょうか?」


 キティは憑き物が落ちたように、同じ席で食事を摂るキャスに「肘ついて食べない!」とお姉さんらしく小言を挟んでいた。


「ああ、毎日でも食べたいよ」


「社交辞令でも嬉しいです」


「おかわりっ!」とキャスが皿を付き出す。キティはおかわりを要求したキャスの皿に盛り付けていると、ツリーハウスの扉が開かれる。


「じじい連れてきた!」


 息を切らした男の子と、同じく息を切らした白髪の老人がぐったりしていた。


「水をくれんかのう……」


「どうぞ」と俺はまだ口をつけていなかった自分のコップをプロントに渡す。勢い良く飲み干すとようやく落ち着いてきたのかコップを手渡した人物が誰なのか把握できたらしく、目を丸くする。だがすぐに僕が独断決行癖があるのを思い出したのか、落ち着き払ってコホンと咳払いをする。


「えー何故殿下がここに?」


「弟子に先日のあの件で用があってね。もう用は済んだから、ご馳走になってるんだ」


「いかほどでしょうか」


「うん、彼女の意向を汲み、採用は見送らせてもらうよ」


 そう言うと明らかに気落ちした様子で肩を落とした。


「もう他の候補者はいらっしゃるのですか?」


「まだいないね。誰か他に優秀なお弟子さんはいないの?」


 プロントは横に首を振る。


「気にしなくていい。正式に皇帝となるまで気長に考えようと思っていたからね。もしかするとそれまでに彼女の気も変わるかもしれない」


 


 


 


 


「本日はありがとうございました」


 森の入口でキティが頭を下げる。見送りにきてくれたのは彼女一人だった。プロントは他の用事があるからと見送りに来れず、他の子供たちは大人数の引率はこの森の中では難しいとのことでキティ一人だった。


「いや、礼を言われることではないよ」


「いえ、それでも私は救われましたので感謝致します」


「……そうだな、それじゃ一つ教えてほしいことがあるのだけれど」


「私に教えられることならばなんでも仰ってください!」


 そう胸を張る。胸を借りるわけではないが、あるわけがない疑問を投げかける。


「キティって名前だけど、由来は白い子猫だったりする?」


「違いますよ」と笑って返されるものだと期待していたが、どうも神様の気まぐれか狙ったものかわからないが、ある訳のないことが起きてしまう。


「……どうしてそのことを知ってらっしゃるのですか。誰にも話したことないはずなのに……」


 わなわなと震え、僕のことを何か恐ろしいものを見るかのような眼をした。


 どうやらこの子は察しが悪いらしい。この子呼ばわりするのも正しくないのだろう。


「タメ口で構わないよ。……君も転生者なのだろう?」


 目線が合う。ぼんやりとした焦点が合っていない眼をしていた。少しの硬直のあと、ようやく事の次第を理解したのか絶叫に近い声をあげた。それからさらにしばらくして「落ち着いたかい?」と声をかけると、「取り乱してしまい申し訳ありません」と頭を下げられる。


「タメ口で構わないと言ったろ。同郷かもしれない、そうでなくても同じ境遇かもしれないのだから」


「しかし、それでも今は皇太子殿下と下々の者ですから、やはりケジメというか立場を弁えた方がよろしいかと」


「誰も見ていないのだから別にいいではないか」


「……いえ、私は不器用な人間ですので公の場でタメ口で話すかもしれないので、敬語で話すことをお許しください」


「ああ、ならばそれで構わない。それで生まれ変わる前の君はどこの生まれだ?」


「日本です。殿下はどちらから」


「同郷だ。関東の生まれだ」


「私は北陸です。ちなみに転生した時ってどういうシチュエーションでした? 私は交通事故でグシャリと」


 あのとき僕は海の中だった。息が切れたと思ったら、四方が白の立方体の中にいた。相対するようにアイツ――神に出会ったんだ。


「――僕は心臓麻痺かなにかでポックリとね。君はアイツになんて言われたんだい」


「アイツ? ああ! 女神ルナ様ね!」


 ルナという名前には聞き覚えがなかった。それどころか僕が出会ったのは男神であった。それだけでも驚きだったが、続けて彼女の言う言葉に耳を疑った。


「まさか私達が世界を救うだなんて、今でも信じられない!」


 世界を救うなんて初耳だった。もっとも初対面で「おめでとう。今まで行ってきた全ての努力が水の泡になった気分はどうだい?」なんて下卑た笑顔で訊いてくる輩がそんな気の利くことをするわけがない。知っていてもやるはずがない。


「リオン様はルナ様からどんなお言葉をいただいたのですか? それにどんなお力を授けられたのですか?」


 きっと彼女はたいそう感銘を受けるお言葉を頂いたのだろう。そう考えると、年甲斐もない嫉妬心がメラメラと燃え上がる。こちとらファーストコンタクトが半裸のオッサンが股間のモアイを突き立てて「はい、こんにちは」だぞ。


「……うん、とりあえずその話はまた今度しようか。長くなりそうだ」


 このままこの話題を続けたら、思わず手が出そうなため切り上げる。


「それじゃ城に帰るよ。今度はイチ友人として会おう」


「はい、今度は前世でなにやってたかも教えて下さいね」


 踵を返し、転移のため乱れた磁場から離れようとしたところ、森の中から慌ただしく近づいてくる足音が追いついた。


「キャスが誘拐された!」


 ツリーハウスで出会った口の悪い男の子が息を切らしながら、叫んだ。

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