序章
空が青かった。
久しぶりに見た空は怖いぐらいに透き通り、飲み込まれてしまいそうだった。人に怯え、アスファルトばかり見て歩いていた僕に目を背けたいほど綺麗な空だった。明日からまた頑張ろう、そう思わせてくれる空だと、教育者ならそう言ってのけるような空だった。
「――ありがとう」
声にすらならなかった。ここは海の中で、泡となるばかりだった。
舞い上がった砂と、空から差す柔らかな太陽の日差しと、口から漏れる泡。
そこから覗く彼女の顔。
心臓の音が早くなる。
首を締め付ける力が強くなる。
もう時間がないと理解する。
眠たくないのにまぶたが重い。
そうして世界は暗転し、彼が現れた。
そして、僕たちは盟約を結び、再度世界は暗転する。
いくつかの夢を跨いだあとかのような気怠るさの中、再び世界に光が現れた。
自分の体が自分の体ではないような感覚。まったく勝手が効かないのに誰かに支えられるような感触。まるでまだ水中にいるかのようにぼやけた視界。しかし耳だけは遠くはあるが声は聞き取れるし、息もできた。
「はじめまして。リオン。可愛い可愛い我が子」
荒い息遣いで慈愛の言葉をかけられた。
それがこの世界で生を受けた瞬間だった。




