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Recollection-97 「躓いても」




(‼︎)


イェットは意外さと嬉しさから声を上げて名を呼びそうになったが、場を(わきま)えて直ぐに片膝を着く。


他の者達も同様、あの影の様な者もだ。



「皆、堅苦しいのは抜きにしよう。これから長い旅、訓練が待っている。今くらい気楽に構えてくれていい、な⁉︎がははははっ!」


オズワルド王が自ら数名の前に姿を現し労いにやって来てくれた。


それだけこの旅、双睛羇旅(そうせいきりょ)が重要な事だと表していた。


王は皆に言葉を贈る。



「さ、立ち上がってくれ。、、皆にも家族や恋人、友人がいよう。彼等と過ごすその大切な時間を国の為に使ってくれて有難う。心から礼を言いたい。、、、そう、この旅の時間は『通常ならば有る事が難しいこそ感謝』したい。」


そう言うとオズワルド王は深々と頭を下げた。


通常、王が頭を下げる事など言語両断、許されない。王とは絶対の権力者であり、弱みを見せれば謀反(むほん)に遭う事だってある。


しかしそれでも王は頭を下げた。これで足るならばと頭を下げる。皆を信じているからだ。それ程に王は来年に行う儀式の重要性、重大性を己の身に重く抱えている。



その場にいた10名は、その『何か』を知り始めている、気づき始めている者達。


そして長い間、アトレイタスとオーディンにより素行・性格・運動能力を確認され、信用出来る伸び代のある者達を選んだ。


勿論選ばれなかった者達の能力、伸び代、信用がない訳ではない。情報が漏れない様、最小限に留める必要があった。そして同時に双睛羇旅(そうせいきりょ)中の国を護れる力を残す必要もある。


以前は敵であった者の力、知恵を借りてまで残る者に技術を叩き込む。


それ程の『何か』が、近い将来に待ち構えているのだ。



皆は立ち上がり、王を見つめる。この場に彼を悪く思う者などいない。王も何かと戦っている事を彼等はひりひりと感じている。



「いい瞳だ。心強い。俺も君達同様、心技体を鍛え直しておこう。、、、皆の無事を心から願う。以上、皆頼んだぞ!」


「はっ!」


その場にいた者達が皆一同に頭を下げる。 



「俺の娘からも皆に言葉がある。耳を傾けてやってくれ。」


オズワルド王がそう言うと、王女のシーヤが1歩前に出る。


その佇まい、一挙一動は王女の振る舞いとして申し分ない。


半黒半銀(はんこくはんぎん)の髪を美しく結い、美しさを際立たせる刺繍の施された白い着物。その胸には翡翠の首飾りが見受けられる。



双睛(そうせい)、、、目の中には瞳が2つあり、猛獣や災害から護ってくれる異国の伝説の鳥。招き入れるには巣を作ってもらう為に家の前を綺麗にしていたと言われています。、、、この広さ、掃除が大変です。」


皆は笑顔になり、シーヤから発せられる美しい音色の言葉に聞き入る。



「それでも、私は双睛(そうせい)を招く為に自らが動き、巣を作って貰える様尽力しましょう。、、、私は待ちます、あなた達が双睛となり再度ここへ集ってくれる日を。」


そう言いながら、シーヤは首飾りを握りしめる。



「、、、待ちます。必ず再会出来ると信じて、、、私はここにいます。どうか息災で、、、。」


シーヤはイェットを見つめた。そして上を向く。その唐紅(からくれない)色の瞳は少し滲んだ様にも見えた。


思いが溢れない様、落ちてしまわない様、泣く事は我慢した。これは彼女自身の哲学、泣く事は悪い事ではない。


彼女はただ、全てを身に残しておきたいだけ、何も失わない様、無くさない様、、。



シーヤは再度皆を見つめながら言葉をかける。



「私は『経験』こそが大切だと思います。どれだけの文献、本を読んでも経験には勝りません。どうか双睛羇旅(そうせいきりょ)があなた方にとって良い経験になります様、毎日願いましょう。」


シーヤの王女としての言葉は、それだけで皆にとって最高の(はなむけ)になった。


彼女も父同様、深々と頭を下げる。


それを見た一同も深く頭を下げた。



(シーヤ、ありがとう。沢山経験を積んで帰って来る。)


シーヤの言葉は言霊となりイェットの胸に届く。それは彼に生きる動力たらしめた。




アトレイタスが双睛羇旅(そうせいきりょ)に出る合図をだす。


「では皆、今以上の心技体と経験を得て此処へ帰ってきましょう。出発です。」


全員が王と王女に頭を下げ旅路に着く。



イェットはシーヤの方を見る。シーヤもイェットを見ていた。


彼女の表情には明らかな淋しさが伺えた。しかし気丈に笑顔を作ろうとし、両手は胸の前で強く握られている。まるで祈るかの如く。


イェットはその不言(いわぬ)色の瞳に魂を宿し頷く。


大丈夫、君を護れる様強くなって帰って来る、と。



シーヤも頷く。


待ってる。あなただけを想い待ってる。



イェットが外したくない視線を外し、皆と同じ方角へ進もうとした時だった。



アトレイタスがイェットの肩をポンと叩き、笑顔で一言伝える。



「行ってあげて下さい。王様も了承済みです。」


トン、、、


アトレイタスはイェットの背中を優しく押した。



1、2歩とシーヤに歩み寄る。


オズワルド王も娘の背中を優しく押し、しばしの別れの挨拶の猶予を与えてくれた。





「、、、シーヤ、首飾りしてくれてたんだ。」



タッタッタッ、、


トン。


シーヤはイェットに駆け寄り、両手は胸の前で強く握ったまま頭を彼の胸に預けた。そのまま言葉を伝える。





「この首飾りがイェットとの繋がり、、外さないよ絶対。ずっと待ってるよ?必ずまた会おうね?」


「うん、必ず!」


イェットはポンポンとシーヤの肩を優しく叩いた。



「シーヤ、行って来るよ。」


イェットは名残惜しかったが、この旅の己の目的は目の前の彼女を護り抜く事。行かなければ成就出来ない。



シーヤは少しイェットを見上げた。


唐紅(からくれない)色の瞳は少し(にじ)んでいたが涙は流していなかった。そして再会を胸に誓い最後の言葉と行動をとる。



「、、、おまじない。」



そう言うと、シーヤはイェットの胸に、優しく口づけをした。父には見えない様に。



そうしたつもりだったが、父もアトレイタスにも見えていた。2人は何故か斜め上方を見上げ、気づかないフリをする。



イェットに背を向け、父に駆け寄るシーヤ。



イェットは『おまじない』に頬を紅潮させたが、それ以上に力をもらった。口づけをされた場所は、見えないが彼女と同じ首飾りがある。



「行ってくる。」



イェットは小さく呟いたが、声の小ささとは反対にその不言(いわぬ)色の瞳には強い意思が宿されている。




迷いなんてない。


朝日は昇り、雲ひとつない青空が降り注ぐ。


この空の様にイェットの胸内は澄み渡る。





そして彼は自分の意思でその一歩を踏み出す。



(つまず)いたっていい、それは先へ進んでいる証だ。何度(つまず)いても、僕は必ず立ち上がり先へ進む、、先へ!)














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