Recollection-95 「旅立ちの朝」
時は経つ。
刻々と進む。
誰にも止める事は出来ず、世界中の人間に平等に1秒を与えてゆく。
それは生命の始まりの時も。
終わりの時も同じ1秒。
地は草木花を芽吹かせ、少しずつ春の訪れを背伸びをして伝える。
3月1日。
「では、オズワルド王とシーヤ様を宜しく頼みますよ。オーディンと四神のあなた達がいれば大丈夫です。何かあれば『蝙蝠』の1人、アーリマンを遣わせます。」
アトレイタスは普段から愛用している鎧と天無絶・星屑、鞄に必要な衣類のみと軽装だ。
必要な物は現地調達、それも訓練の一環とする。
アトレイタスは「あなた達なら大丈夫です。」と、はっきり言い切った。曖昧な表現はせず、彼等なら出来ると信じている。
「成程承知しましたアトレイタス様、息災でおられます様毎日祈ります。例の件も含め、こちらの事はお任せ下さい!」
護衛団副隊長オーディンはそう言うと片膝を着き深々と頭を下げる。
「1年以上とは淋しくなりますな、、、何卒、、ご無事で任務に、、、就かれます様、、、。」
玄武のゼンは少し泣き声で声を詰まらせ片膝を着きつつ頭を下げる。
「アトレイタス様が居なくなるのはオズワルド王もシーヤ様も滅法淋しくなるのでは?勿論、我々も同様ですが、、。」
朱雀のゴウも同様に片膝を着き頭を下げる。
「しかし、アトレイタス様が私達に任せてくれた事は誇らしく思えます。皆もそうだ、な?」
白虎のサイも皆に同意を促しつつ片膝を着き頭を下げる。
「その通りだな。我等が何があってもオズワルド王とシーヤ様、そしてコルメウム城を護ります。ご安心して下さいな。」
青龍のユウも片膝を着き頭を下げる。
「ありがとう。あなた達のその言葉で私は何の躊躇いも無く旅に赴く事が出来ます。私達が帰ってきた後、やるべき事は決まっています。皆も備えだけは怠らぬ様、心掛けておいて下さい、、、と、偉そうに言ってしまいましたね?さ、皆堅苦しいのはなしで立ちなさい。」
アトレイタスがそう言うと、片膝を着いていた5人はまるで打ち合わせをしていたかの様な返事をする。
「はっ!鳳凰守護ノ八咫烏、アトレイタス総隊長!」
5人はそう言うと立ち上がる。
「ふふ、息もぴったりですね。、、、では、私は双睛羇旅に赴きます。皆、幸運を、、、。」
5人は頷き総隊長を見ている。
アトレイタスは普段通りの笑顔を見せつつ皆に背を向けてコルメウム城を後にしようとした時だった。
、、、同時刻。
早朝日の出と共に城に召集がかけられた雛達と、雛あらざる者達。
その中の1人、前日までに親友達とは挨拶を済ませた翡翠色の髪に不言色の瞳のイェットは両親に言葉を向ける。
「じゃあ父さん、母さん、行ってくるよ。」
「ああ、お前なら大丈夫だ。、、、俺とユイも大丈夫、安心して鍛えてこい。」
父、オルブライトノットは妻のユイの震える肩に手を置く。
「、、、イェット、、、あなた、いつの間にか立派になって、、。私、、私、、。」
ユイは初めての息子の長期不在が流石に心配なのだろう、涙ぐんでいる。
「ありがとう母さん、立派になるのはこれからだよ。2人に心から立派になったと、、一人前になったと思われる様、頑張ってくる。」
イェットの眼差しには濁りがなかった。ただ純粋にやり遂げる事を、その瞳で意思表明していた。
「お前の帰り、楽しみにしてるぞ!無事に戻ってきたら、1杯やろう。」
父は片眉を上げ笑顔で言う。
「、、、イェット、あなたの帰る場所はある、、ここよ。待ってるからね⁉︎」
そう言うとユイはわぁっと泣き出した。
「か、母さん何も今生の別れって訳じゃないんだからさ、、大丈夫、無事に帰ってくるよ。」
息子は意外にも冷静に、苦笑いを見せ母を慰める。
「うん、、、うん、、、そうね、あなたにも私の血が継がれている、、繋がっているから、きっと大丈夫!、、、いってらっしゃい!」
(あぁ、、暖かいなぁ、、僕には帰る場所がある。)
初めて見る母ユイの泣き顔に、息子も少しだけ淋しさが込み上げてしまう。
しかし一度決めた事、やり遂げるのだ、強くなり護る為に赴くのだ。
イェットほ歯を食いしばり、2人の瞳を見つめ頷くと背を向け、朝日に向かう様に歩み始めた。
逆光の中に消えてゆく息子の姿。
「あなた、、あの子、強くなった。あなたの若い頃に少しずつ似てきたわ。」
「、、、そうか?俺から見ればあいつはまだまだだ、、が、それは伸び代がある、成長する可能性があると言う事。、、帰りを楽しみに待とう。」
「、、、そうね。」
オルブライトノットとユイ、父と母は息子の背中を見つめ願う。
どうかやり遂げて。
挫けるな。
未来に紡げ。




