Recollection-93 「痛み」
14年前。
まだ日の上りきらぬ春の早朝。鳥の囀りが心地よく響く。
町外れにある、本当に荒屋と言っても過言ではない家があった。
その家の玄関を開けた先の部屋に横たわる血溜まりの中3つの屍。
1つは愚母。
1つは愚父。
時は僅かに遡る。
ハァッ! ハァッ!、、、
8歳のハイオーンは両親を短剣で殺害した後、近所で一人暮らしをしていた男性宅に駆け込み助けを求めた。
血塗れのハイオーンを見た男性は少年に何があったかを問うも、少年は想像を絶する恐怖に慄き震え動揺のせいか話せない様だ。
男性は急いで少年の家に向かい、血溜まりの中横たわる少年の両親の惨状を目の当たりにする。
「な、何故こッ⁉︎、、
悲鳴を上げる間も無く、その男性の背中に短剣が振り下ろされた。
心臓を一突きだった。
「何故」を聞く事も出来ず背中から血を吹き流し、どちゃりと嫌な音を立てて同じく血溜まりに倒れ込む名前も知らない男性。
この間、ハイオーンの表情は先程の動揺が嘘の様に眉一つ動かなかった。
こうして築かれたもう1つの屍。
「やれば出来るね。」
「あんまり悲しくないな。」
「だって、ゴミでしょ?」
「あ、そっか。ゴミは捨てるものだものね。」
「ははは!さ、次次!」
独り言を呟く。
ずぼりと音を立てて男性の背中から短剣を抜くと、ハイオーンは手拭いで刃を拭いた後、自らの左手を切りつけた。
防御創を自ら演出した。逡巡創、躊躇い傷に見えぬ様に深く切りつける。
「、、、痛いな、血も出る。生きてんだな俺、、。」
「僕だって痛い。生きる事は痛いって事だね。」
独り言を呟く。
そして、その短剣を父親に握らせ、名も知らぬ男性には家にあった包丁を握らせた。
そして叫ぶ。
「誰か!誰か助けて!、、、強盗が!強盗が僕の父ちゃんと母ちゃんを!うわあぁぁぁっ‼︎‼︎」
突然涙を流しその場に蹲り泣きじゃくり始める。
早朝から何事かと大人達が集まり惨状を目撃して立ち竦む者、悲鳴を上げる者、嘔吐する者、、、。
この時代に、指紋やDNA鑑定、刺創の確認、監視カメラなどはない。如何にして惨劇が起きたのかなど分からない。
全ては彼の手の内、闇の中で行われた。
それから彼は孤児院で過ごす様になった。
両親のいない境遇の子供達がいたが、彼は誰とも仲良く出来ない。何故だか分からないが、周りが馬鹿に見えてしまう。何故なら彼は似て非なる存在だからだ。
余りに壮絶な人生が故に周りが幼稚に見え達観してしまうのだ。
唯一の楽しみは、周りに咲く花々だった。花々だけは、常に美しい表情で彼を分け隔てなく受け入れてくれる様に感じた。
物言わぬ花々は決して彼を裏切る事はない。彼は毎日の様に花々を愛でる様になる。
しかし彼が12歳の時の『エトナ祭』にて、向日葵の様な、太陽の様な女の子に出会う。正確には遠目から眺めていたに過ぎない。
4人の鎧を纏った大男が、1人の少女を中心に約2m間隔で立ち、四角形の領域を作っていた。
その少女を見た時に、胸が高鳴るのを感じた。その眩しさが心の闇を照らし、内にある黒を薄くする様な気さえした。
「何だこれ⁉︎」
「不思議な感じだね⁉︎」
「あの女の子、欲しいな。」
「どうやって?」
「あの4人の大男の中の1人になればいいさ!」
「いいね!なろう!」
「うん!なろう!」
独り言を呟く。
そして彼は護衛団に入団する事になる。
…そして現在。
ハイオーン・メディウム・エトナが行方不明になってから3日が経過した。
元々ハイオーンは丁寧な口振りとは裏腹に素行に問題があり護衛団の中でも疎まれ浮いた存在だった。
シーヤの愛が手に入らないと解った今
もう誰もハイオーンの胸の内にある『黒の濃度』までは変える事は出来ない。
それこそがハイオーンを彼たらしめる個性、、、
いや、彼等か。




