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Recollection-92 「彼等」




この日、ある男は内にある「欲求」が臨界点を超え始めた。



カッカッカッカッ、、、


城内を早歩きで移動する。



カッカッカッカッ、、、


真っ直ぐに王女の部屋へ向かう。



カッカッカッカッ、、。


「君、そろそろ時間だよ。交代だ。後は私が警護にあたるから休息を取るといい。」



「えっ⁉︎、、ハイオーン様、本日は私が王女様の


「、、すぞ、、、。」


「えっ⁉︎」


「、、、いや、何でもない。大丈夫、俺が警護にあたるから、君は行きなさい。ね?」


そう言うと何かを右手に握りしめた黒い右目と赤支子(あかくちなし)の左目の三白眼の男ハイオーンは明らかにその眼が笑っていない笑顔を見せる。



ぞくっ、、、


「わ、分かりました!私からオーディ


「何も、言うなよ?」


ハイオーンは薄気味悪い下手な笑顔のまま言う。



「、、、はい、、では、、。」


(、、、あの人、少しおかしいよな?念の為報告しておこう。)



「ふぅー、、、、。」


乱れ髪の半エトナの民は大きく息を吐き、何とか自分を落ち着かせようとしていた。



ブツブツと独り言を言っている彼は入り口をノックした。



コンコンッ



、、、、、、、。



返事がない。


王女は確実に部屋の中にいる筈。



ドガァッ!



ハイオーンは右腕で入り口を殴った。




「、、、?、、誰ぇ?、、、んん?」


どうやら少し眠っていたのであろうシーヤは聴き慣れない異音で目を覚ます。


直ぐに首元を右手で触り、大切な人がくれた首飾りがある事を確認すると再度声を出した。


「、、、誰かそこにいるの?」


「、、、ハイオーンです。王女様の護衛を(おお)せつかりまして、今就いたところです。」


入り口の向こうから聞こえてくる彼の声は優しく礼儀正しさを感じる。



「あ、ハイオーンか。今日はネチュアが護衛の筈じゃ、、、。」


「はい、彼は先程体調を崩したと報告をしておりました。急遽お、、私が替わりに馳せ参じた次第であります。」



ハイオーンはまるで呼吸をする様に嘘をつく。



「そうなんだ、、。ネチュア大丈夫かな、、。後で『しょうぎ』でもしようと思ったのになぁ。」


「!では!私めがお相手(つかまつ)りましょうか?」


入り口のから聞こえてくる彼の声は嬉々としている。



「、、、んー、大丈夫。ありがとうハイオーン。、、、また今度ね?」


「承知しました。では後日改めて。」


幾分低くなった様に感じる彼の声が聞こえた。続け様に口を開く。



「、、、あの、実はお渡ししたい物があります。少しだけ、入り口を開けてくれませんか?」


「えっ?私に?何かな?おやつかな⁉︎」


「では、鍵を開けて構いませんか?」


「ちょっとだよ!いしし!」



にたぁ、、、


その笑顔は既に一般のそれとはかけ離れていた。目は三白眼のせいか白目となり、口元はだらしなく開かれている。




ガチャリ、、、


ハイオーンは左右を見渡して誰もいない事を確認し、外側の鍵を開けた。




ギイイィィィィ、、、ッ


ゆっくり開けられた入り口から、ハイオーンの左半分の、エトナの民側の姿が見える。


にこりとした表情だが、少し息が荒い様にも感じる。



「、、ハイオーン?」


グリッ


ハイオーンは入り口が閉められない様に右足を入り口の開閉部に押し当てた。



その時だった。



ダッダッダッ!


「成程ここにいたんだねハイオーン!ありがとう、でも今日はネチュアが頑張ってくれるとの事だから、君はゆっくり休みなさい。ね?」


ネチュアから報告を受けた副隊長のオーディンが駆けつけてハイオーンを(たしな)める。勝手な行動はいくら善意でも規則違反だ。


オーディンは先の戦いでの彼の功績を(かんが)みて、今回は勝手な行動を「お(とが)め無し」にする。


通常であれば王女様の部屋へ勝手に訪問、尚且つ鍵を開け中へ入ろうといていたのならば重罪だ。



ハイオーンの赤支子(あかくちなし)の左目が副隊長を捉え、少し安心した表情を見せる。



「オーディン副隊長、わざわざご足労申し訳ありません。王女様にお渡ししたい物がありますので、あとほんの僅か、宜しいですか?」


ハイオーンは深々と頭を下げて懇願する。



「成程、では少しだけですよ?私も一緒に入り横で待っていますから急いで下さいね?」


オーディンは仕様の無さを表した笑顔で両腕を腰に置き、ふぅっと息を漏らす。


ハイオーンはにこりと笑顔を見せて思う。


(ミカミめが、、、いい所で現れやがって、、それにさっきの男、、覚えておけ、、。)



「シーヤ様、あなたに似合う花をお持ち致しました。お一人で寂しかろうと思いまして、、。」


そう言うとハイオーンはピンク色の花を渡す。


「綺麗だね。これはなんて言う花?」


「はっ、これは『胡蝶蘭(こちょうらん)』と申します。王女様にとても合う花にございます。」


「ありがとうハイオーン。嬉しい。いつも貰ってばっかりで悪いなぁ、、。⁉︎」



シーヤは彼の三白眼と目が合わない事に気付く。その鋭い目が捉えていたのは、シーヤが身につけていた首飾りだった。



「、、、美しい首飾りだ。良くお似合いですよ王女様。」


「!本当⁉︎、、ありがとう。これは私にとって唯一の大切な、、大切な『幸せのかたち』なの。」


シーヤは今までに見せた事のない、誰かを心から想う大人の表情をみせた。


傍で見ていたオーディンは、シーヤが大人になりつつある、一歩ずつ約束の時へ向かっているのを思い複雑ながらも、その成長を心から喜んでいた。



「王女様失礼いたしました。私目に貴重なお時間を割いてくださり有り難き幸せでした。では、これにて、、、。」


ハイオーンは普段より更に鋭い三白眼を見せると、振り返り、オーディンを無視する様にしてシーヤの部屋から出て行く。


カッカッカッカッ、、、



(、、、あの首飾り、去年末迄はしていなかった筈、、、、、リヴォーヴ、、、。あいつが、、、アイツがシーヤを(たぶら)かしていたのか⁉︎)



ゴガアァッ!



いつの間にか城壁まで来ていた彼は気付いた時には右手で壁を殴りつけ粉々としていた。


壁は厚みがあり穴こそ空かないが、それでも常人の膂力ではなかなか出来ない。



出血し始めた右手を、優しく包む様に左手が触れる。



「、、、触るな。」


「痛むだろ?」


「、、黙れ、、、そうか、リヴォーヴか、、、。シーヤ、俺のものにはならぬのなら、、、ククク、、クククククク、、。」


「やめておけよ。そんな事したらここに居られなくなる。」


「、、、黙れ。」



ブツブツと独り言を言うハイオーン。



幼少期、貧困な両親から暴力や罵り、食事を与えられない等の虐待、ネグレクト(育児放棄)を受けて育った彼。


4歳のある日、彼は父親に首を絞められつつ言い放たれる。



(ごく)潰しが、、、お前さえ産まれてこなきゃ、俺たちのメシも生活もちったぁマシになるんだ。、、お前、疫病神なんじゃねぇか?、、だから死んでくれよ、、なぁ⁉︎」


その時、突発的に起きた『クワイレーレ』により選ばれたハイオーンの髪は全てが翡翠色になる「筈」だった。


首を絞められて意識を失い死の淵を彷徨(さまよ)った所為なのか、彼は左側だけが『エトナの民』となる。


それから、彼の中で『声』が聞こえる様になった。


それは自分であり、自分ではない誰か。




『解離性同一性障害』




現代での精神医学ではそう位置付けされるであろう病。


もう1人の別人格を内に作り出し、虐待される自分を客観的に見る様にし、自分ではないと思い込もうとする心理状況。


更に、そのもう1人の自分だけが己を慰め、理解してくれる。


幼少期の彼が、内にあるもう1人の自分の声を(まが)う事なく信じる様になるのに時間は必要なかった。


何故なら見た目も同時にそうなったからだ。自分は特別な存在なんだと理解、思い込むには十分な判断材料だ。




そして4年後、もう1人の自分が囁く。




「要らないなら、殺しちゃえよ。」






そして8歳の時、






彼は両親を殺害した。





それから、彼、いや、()()が長く永く探し求めるものがある。



「愛情」だ。



こんな事を普段、普通に暮していれば考える事は殆どない筈。


しかし彼等は愛された記憶がない。


1番両親に必要だった「愛情を注ぐ」という行為が欠如していた。逆に向けられたのは「憎悪」と「無関心」だった。



彼等は今日も愛情を探し求める。



しかし、それが叶わない事、他に向けられている事を知る、、、、。




城壁外の公園の様な、冬でも色々な草木が生茂る不思議な場所に来たハイオーン。



その足元には



ハナズオウと、クローバーが咲いていた。





その花言葉は、、、。

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