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Recollection-83 「故郷」




あれから1週間。


コーポリス国は例年通り平和な年明けを迎えている。


そんな中、草木よりも早く己を芽吹かそうと足掻く若人達がいた。



ハァッ、ハァッ、ハァッ、


ザッザッザッザッ、、、



各雛隊訓練開始は2日後の1月10日からだが、1人黙々と走り込み足腰と心肺を鍛える者がいた。


(皆の足だけはひっぱりたくない、、。足手纏いだけはごめんだ!、、。俺も強くなるんだ、、、!)



まだ雪の残るディギトゥス・ミニムス山の腹部を走り込む、年齢の割には一際背の低い青年。


彼は父の言っていた事を思い出しながら走っていた。




(「いいかドルチス。戦場では生き残る為に逃げる事も必要だ。しかし、もし仲間が戦っている最中なら流石に逃げてはいけない。可能な限り戦い仲間と共に帰還できる様、活路を見出せ。、、ま、そうなる迄にはそれなりの修練が必要だがな⁉︎、、、それから、この間の戦い、良くやったな。」)



前髪で片目が隠れている、黒髪で栗皮(くりかわ)色の瞳のドルチス・モルテンは父であり、(フクロウ)ノ雛隊隊長のドナテロ・モルテンの言葉を思い出していた。



ハァッ、ハァッ、ハァッ、


ザッザッザッザッ、、、



(父さんの為にもだけど、俺自身の為に強くなるんだ。皆より背が低いから弱いなんて事はない。努力は必ず結果をもたらす。俺も、、、やる。やってやる!)


ドルチスは普段はふざけているが、それは父の存在を忘れようとしていた、反抗期に近い感情だったのかもしれない。


しかし去年の戦いにより、父が怪我を負い命辛々帰還した姿を見て、恐怖よりも誇りを強く感じた。


父も戦い生き残り、今また共に生きていける。



ハァッ、ハァッ、ハァッ、


ザッザッザッザッ、、、、



(俺も流石にいつまでも子供じゃいられない、、強くなって護衛団員として飯を食って行ける様、、、やってやる!)




時を同じくして、城内の1室にて体格の良い金髪、青い瞳で白髪混じりの髭を蓄えた隻腕の中年男が身体を鍛え直している。



ふっ、、、ふっ、、、



左腕だけで腕立て伏せを既に70回を超えて行う男。


その部屋はギリギリ1人通れるくらいの窓に鉄格子が施され、常に監視出来る様になっていた。しかし牢屋や懲罰房といった類の部屋とも違う。



ふっ、、、ふっ、、、



ドンドンッ!


「!」


エリーナ・ゴメスは腕立て伏せを止め、鉄格子のされた窓を見た。


そこには翡翠色の髪を短髪にした、目が開いているか否かわからない、口を一文字にしたエトナの民にして(トビ)ノ隊隊長のダンケ・オポジッツ・エトナが佇む。


「エリーナ、食事だ。それから食事後、前に話をした件で総隊長殿がお呼びだ。」


ダンケはそう言うと、壁の下に空いた穴からエリーナに食事の乗った膳を渡す。



「、、、ありがとうございます。」


エリーナは深く頭を下げた。


何度下げても足りないが、それでも下げた。



「ム、では後ほどな。」



ダンケは(トビ)ノ雛隊隊長の傍ら、囚人達の監視役を主たる職としていた。


この国では犯罪が少ない。ましてや殺人など起きた事は殆どなかった。ただ、それでも人が集まれば悪事は起こる。


盗み、詐欺、強姦、、、悲しいかな、人間とは一定数の「本能のまま生きる動物に近い側」が存在する。


現代の様に警察といった職業はなく、護衛団がその役を担っていた。それらの悪事を裁き罰するべくある護衛団。その延長がダンケの職でもある。



(麦パンに牛の干し肉に牛乳、、、。故郷でもこんな贅沢、できなんだな。)


エリーナは膳の前で会釈し、食事を始める。


彼はいつも食事の一口目で、涙が出そうになる。


(ありがたい、、、。咎人(とがにん)の俺にこんな贅沢な食事を、、、ありがたい、、。)


左手で麦パンを掴み、口に含みかじる。


もうきっと帰る事のない、変わり果ててしまった、変わり果てる前の故郷(ふるさと)を思い出し感慨にふけりながら味わう。


「、、美味いなぁ。」


エリーナは天井を見上げた。


そこは岩を綺麗に敷き詰めて、隙間を石灰の気硬性を利用して埋めたのであろう天井。


それを見上げて尚、彼の胸中は穏やかだった。



(何故だろうな、、。何故俺はこんなに心穏やかにいるのだ、、。罪深い筈なのに、、。)



そして彼は決心する。


(総隊長殿に会えた際、懇願してみよう。それが罪滅ぼしになる様、尽力出来れば、、。)


その古豪の瞳に光が宿り始めた。


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