Recollection-78 「大晦日」
12月30日。
5日前から雪が降り続き、コーポリス国を白一色に染める。
今日は一年の最終日、大晦日となる。
この時代は「太陰太陽暦」が使われていた。その為、30日が大晦日となる。
太陰は月を、太陽は字の如くを表す。
太陰暦では、1ヶ月が多くて30日(大の月)、短くて29日(小の月)を交互とし計12ヶ月を数え、1年が354日となる。太陽暦からすると年間で11日も短い。
なので「閏月(約33日)」を設け、3年に一度は1年を13ヶ月とする事で季節のズレを修正して太陽暦に合わせていた。これが太陰太陽暦である。
余談ではあるが、我々現代ではグレゴリオ暦を用い400年の間に「閏年(4年に1度、366日とする)」を97回設ける事で、1年間の平均を365日にし、季節のズレを最小限にしている。
イェット達が生きている時代で閏月が適用されるのは奇しくも2年後になる。
城下町に住む人々は大晦日は自宅で家族と過ごし、共に元日を迎えるのが通例になっていた。
そんな中、例外の者達もいる。城に従事している護衛隊や給仕達だった
「おや?オーディン、あなたはもう休日で帰ったものと思ってましたよ。もう大晦日ですよ?ご家族はいいんですか?」
アトレイタスは副隊長のオーディンを労いつつ、就業に勤しむ彼の家族の心配をしている。
「はい。これが終われば妻の実家に帰る予定です。もし妻の実家が『エトナの呪縛』外にあるのならば帰りませんけどね?」
前髪が綺麗に整った翡翠色の髪に小麦色の瞳、視力が弱く少々目つきの悪い「若き生き字引」こと護衛団副隊長、オーディン・ミカミ・エトナは洒落にならない冗談をブチかます。
「それは言い得て妙ですね。奥さんが待っている筈ですから、今日位は早く帰宅してあげなさい。」
「承知しました!、、、有り難きお言葉、誠に恐縮です。」
作業中だったオーディンは立ち上がり、アトレイタスの方を向き深々とお辞儀をする。
「あの、僭越ながら、アトレイタス様はご帰宅されないの、、、ですか?」
オーディンは以前より気になっていた質問を、総隊長の優しさに甘えて質問した。
「そうですね、私は護衛するのが趣味みたいなものですからね、変わっているでしょう?それに私は天涯孤独の身。自由気ままなのでね。」
笑顔でアトレイタスはそう言ったが、副隊長は尊敬の念を抱きつつも呆然としていた。
(成程そうだったのか、、、。総隊長、ご家族は既に、、大変失礼な事を伺ってしまったな、、。)
「成程、護衛がご趣味とは、護衛団の鑑ですね!流石は『鳳凰守護ノ八咫烏』ですね。」
「そう言って頂けると聞こえは良いですね。一歩間違えれば、暇を持て余した悲しき独身男性の時間潰しですよ?」
(おぉ、、何て自分に対して辛辣な物言いなのだ、、。自分を律する為に敢えて人前では自分を卑下し、相手に心のゆとりを持たせる、、、成程、勉強になります総隊長!)
オーディンは残像が残る程首を横に振り、再度お辞儀をする。
一体何が勉強になったのか問いただしてみたい気もする。
オーディンは博識で真面目、頭の回転も良い。しかし故に、おかしな所でも深く考えてしまう癖があった。
アトレイタスは冗談のつもりで言っていたが、一字一句を生真面目に受け取るオーディンには通じなかった。大きな声では言えないが、自虐的過ぎたのもある。
(オーディンの悪い癖ですね。私が下手なのもありますが、、、。やはり、エトナ祭には何も起こらなかった、、それは我々に2年の猶予があると言う事、、。来年は1月から忙しくなります。残る2人を選抜しなければ、、。)
コーポリス国護衛団総隊長・鳳凰守護ノ八咫烏という称号を持ち、他国より『コルメウムの悪魔』の二つ名で知られるアトレイタスは雪を降らせる空を見上げた。
地平線まである、どこまでも続く白い雲は、明日もきっとこのままだろう。
(シーヤ様も祭の日以降、気が沈みがちでしたが、イェットが期待通り立て直してくれました。感謝しますよ。、、、しかしいつか、2人には話さなければいけませんよね、、、2人が何をしなければならず、何が起こるのかという真実を、、、。)
アトレイタスは空を見上げ考えていた。
『六合紡文書』、敢えて言えば『正典』に記されている、先の2年後10月19日、未来に為すべき予言。
先日イェットに伝えた「君は君が思う以上にこの世界の重要人物になりつつある」という言葉、、。それには自分も含まれてしまっている事実。
それを考える度、アトレイタスは何故それが自分だけではなかったのかと罪の意識に囚われてしまう。
きっとオズワルド様も同じお気持ちなのだろう、、。
(、、、すまない。だが、今だけは、、、。)
今日は、今くらいは任務や不文律、責務等、先の事を忘れて雪の様に真っ白な気持ちになりたい。今一瞬、この瞬間だけでもいい。
そんな風に、アトレイタスは思っていた。
各々が年が明けるのを静かに待つ。
勉学に勤しむ者。
眠り、唯只管に待つ者。
鍛錬に励む者。
色欲に溺れる者。
愛しき人を待つ者。
犯した罪を後悔する者。
恋しき人を想う者。
生命を奪いながら射精する者。
亡き者を偲ぶ者。
裏切りに心痛める者。
新しい生命に歓喜する者。
この世の理に準ずる者
真実を追い求める者。
其々が其々の想いを心に、時間という不可視の共有物を刻みながら。




