Recollection-76 「贈り物」
「イェットォッ!」
舞い降りる儚く白い妖精達の様な雪の中、シーヤは半黒半銀の髪を靡かせ、自らが叫んだ名の元へ駆け出す。
(、、‼︎、、、。)
しかし彼女はある事を思い出し、走る事を止めて立ち止まった。
そして、俯いてしまった。
ザッザッザッ、、、
イェットはゆっくりと彼女に歩み寄る。
「久しぶりだねシーヤ。少し、背が伸びたね。」
「、、そう、、、かな、、。」
シーヤは急に先程までの情熱と覇気を失った様だ。
「?、、元気がないね。寒かっただろ?ほら、、、。」
そう言いながら、イェットは外套をシーヤにかけてあげる。
「‼︎、、あり、がとう。」
シーヤは本で読んだ事のある、いわゆる「ベタ」な展開というヤツだったが、こうも然りげ無く行われるとこんなにも嬉しのだと知った。
「うん。ちゃんと話すのは学び舎で会った時以来だね。エトナ祭の日、もしかしたら会えるかもって、探したんだよ?でも、見つけられなくてさ、、シーヤ、来てなか
「行ったよ⁉︎、、行った。、、、イェット、、、いたもん。」
「、、、え?、、本当?、、本当に⁉︎」
イェットは彼女が冗談を言い始めたのかと思ったが、直ぐに違うと分かった。
「イェット、マリーと、、、抱き合ってた、、、。私見たもん。」
シーヤは俯いていたが、少し怒って言っているのが分かる。
どうも酷く誤解をしている様だ。
「信じてもらえないかもしれないけど、あの時マリーが転びそうになったん
「嘘!そんなの嘘、、、あ、、。」
シーヤは嫉妬心から少しだけ怒りを露わにしてイェットを睨もうと顔を上げた。
その、睨もうとした先の不言色の瞳は、嘘をついていなかった。その瞳は真っ直ぐ、真実を伝えていた。
「、、、本当?」
「本当だよ。またマリーに会う事があったら聞いてもらってもいい。マリーは運動神経は凄いけど、あの日は履き慣れない履物で走ってたからね。」
「、、絶対?」
「うん、絶対。」
イェットはにこりと笑顔を見せて、嘘偽りない事だけをシーヤに伝える。
「、、、そっか、、そっか!ごめんなさい!何か勘違いしちゃってさ!あははは、、、。」
「勘違いしちゃっても仕方ないよ。僕もあの時は驚いた。いきなりだったからね。」
この時、シーヤは久しぶりに再会したイェットを漸くしっかりと見つめられた。
7月に会ってから約5ヶ月。彼は驚くほど逞しく、大人になった様に感じ、彼に会えた実感が今になって湧き始め高揚感に包まれた。
「あのさ?、、今日はどうしてここに?」
シーヤは思い出した様に質問した。
「うん、、僕が、、、シーヤに会いたかったんだ。渡したい物もあってさ。前に一度ここに来、た、、あ、、」
イェットはしまった、喋り過ぎたと思ったが、時既に遅しだった。
しかし、シーヤの胸には違う言葉が響いていた。
『会いたかった。』と言ってくれた彼に、抱きつきそうになった。
「えっ⁉︎来てくれてたの⁉︎いついつ⁉︎ねえいつー⁉︎」
思いの他食いついてきてしまったシーヤに真実を話す。
「確か、、エトナ祭の2日前だったかな、、。その、、シーヤと、、、エトナの民?みたいな人が、花を、、。」
イェットも正直気になっていた事を吐露した。
「あー!ハイオーンが花をくれた日だ!声かけてくれればよかったのにぃ⁉︎アイツ目つき悪いから怖がられ易いんだよねぇ。」
シーヤは白い歯を見せながら言う。どうやら気にする様な仲ではない様だ。
「ね、渡したい物って、何何⁉︎」
シーヤは矢継ぎに質問してくる。先程とは違い、唐紅色の瞳は輝いている。いつもの可愛いシーヤだ。
「その、、、13歳の誕生日の、贈り物。ほら。」
気にいるかどうかはわからないけど、と、言いそうになったが止めた。身につけてくれなくていい。いつか仕舞い込んでいた引出しを開けた時、これを見て、こんな事もあったなと思い出してもらえたら、それでよかった。
そしてイェットは翡翠石の首飾りをシーヤに見せた。
「‼︎、、、凄く綺麗‼︎、、私に?」
シーヤは信じられなかった。これまでいくつもの贈り物を貰ってきた。どれも凄く嬉しかった。なのに、この贈り物の嬉しさは心から嘘偽りない笑顔をくれる。こんな僥倖は初めてかもしれない。
「うん。どうぞ。ほら、僕も同じのしてる、、けどね。」
イェットはこの時もしまったと思った。今日は寒いせいか、口が良く滑る。頬が紅潮するのが自分でも分かる程恥ずかしい。
「‼︎、、、イェット、着けて頂戴?」
「、、、えっ⁉︎」
「イェットに私の首に着けて欲しいの、、駄目?」
シーヤは自分で言っておいて顔が紅潮するのが分かる程恥ずかしかった。
ドキン、、
「ううん、着けてあげるよ。、、じゃ、後ろ
「前から。」
「‼︎、、はい。」
イェットはシーヤの正面から首飾りを着ける。
彼は震える手を雪の寒さの所為にしたかった。
そんな事には気付きもせずに彼女は唐紅色の瞳でイェットを真っ直ぐ見つめていた。その頬は艶やかで紅潮している。その頬に雪の結晶は口づけをして、消えてゆく。
ドキン、、、
イェットは目を合わせる事が出来なかった。
女の子特有の良い香りがして、気持ちが抑えられるか心配になった。
比べられないが、人生でこれ程緊張するのは戦以外では初めてだった。
「はい。着けたよ、、っ‼︎」
トンッ
シーヤは額をイェットの胸につけた。
「ありがとう、イェット、、、私も、、転んじゃった、、、なーんて。」
ぎゅっ
シーヤは大好きな人が目の前にいて、尚且つ自分の為だけに贈り物を届けに来てくれた事に思わず、イェットの背中に両手を回し、抱きしめていた。
(‼︎、、、イェットの身体、、見た目より凄い、、。あぁ、、時が止まればいいのに、、。)
シーヤは心からそう願い、勇気を出して言葉を続ける。
「、、、寒いから、、、あと少しだけ、こうしてていい?」
「うん、大丈夫だよ。、、寒いからね。」
こんな言葉しか出てこないイェットは、それでも精一杯、今出来る限りの精一杯を振り絞り頑張った。
不言色の瞳は、本当の気持ちを伝える勇気がなかった。でも、伝えたい事はある。
降り頻る雪は祝福の様だ。
イェットは、
シーヤの背中に優しく両手を回した。
そして希望を込めて呟く。
「ずっと、、雪が止まなければいいのにね?」
「なぜ⁉︎」
「、、ううん。」
(ずっと、こうしていられるからだよ、シーヤ。)
この日は12月25日。
降り頻る雪の中、同じ翡翠の首飾りを胸に2人は同じ事を考えていた。
((もう少しだけ、このままでいさせて下さい。神様、、、。))
『約束の時 ムータレストリートゥス』まで、後1年10ヶ月。




