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Recollection-75 「そして僕は、その名を叫んだ」





ザッザッザッザッ!


ハァッ、ハァッ、ハァ、、、


全力疾走した。


家に取りに行ったのは忘れ物なんかじゃない。


大切な、君への、、、。




イェットは雪の中、無我夢中で走った。自分でもわからない程、必死に走った。


ドルチスに間違えられ、毎朝ディギトゥス・ミニムス山の(ふもと)を走ったのが功を奏している。


夕暮れ、宵闇(よいやみ)前には間に合う。



イェットは白い息を後に、必死に両手を振り両足を前進させ、一分一秒を無駄にしまいとしていた。


少しだけ積り始めた雪の上には、足跡が残る。


足跡が向かう先が重要で、大切で、生きる理由、護りたいんだ。



(もう少し!)



ハァッ!ハァッ!ハァッ!、、


イェットは城門前迄の一本道を駆け上がってゆく。


息を切らしているにも関わらず、彼の瞳は輝きを忘れず、口元には笑みさえ見え隠れしていた。



(もう少しだ、、!)




ハァッ!ハァッ!ハァ!、、




城壁外東側。  


以前来た事のある場所。


この区画だけは不思議だった。


雪の中、何故か草木が生い茂り、花までその美しい表情を覗かせている。



ハァッ、ハァッ、ハァ、、



(‼︎、、、いた。)






時は約1時間前に遡る。


「実は、、、君に頼みと言うのは、、王女様に会ってやってくれませんか?」



「、、、、はい?」


イェットは先生隊長が何を言い出したか理解出来ずにいた。何故急に王女様が出てくるのか、、。


「私にも得手不得手がありまして、、、。恥ずかしながら、君にしかお願い出来ない事、、今日の宵闇(よいやみ)前に城壁外東側の公園に来て欲しいのです。その、、王女様の為に。」


「先生隊長、どうして僕、、、なんですか?」


それは当然の質問だった。


「、、、そうだね。確かに疑問に思うだろうね。でもイェット、君は君が思う以上に()()()()()()()()()になりつつあるんだよ。」


「⁉︎」


そう先生隊長は言いながら、片膝を着こうとした。


「ちょ!先生隊長⁉︎急にどうしたんですか⁉︎何を


「イェット、頼みます。王女様に会ってあげて下さい。本当にすまないが、どうか、、、。」


先生隊長は片膝を着きイェットに懇願する。


「先生隊長⁉︎ちょっと止め、え⁉︎分かりました!行かせて下さい!お願いします!」


イェットは両膝を着き、兎に角低く頭を下げる事で先生隊長の懇願を「()()」として受け止める様に徹した。



「本当かい⁉︎ありがとうイェット。心から感謝しますよ。、、、それにしても、なんでしょうね、この状況、、ふふふ!」


先生隊長は必死になる自分にも、イェットが必死に自分よりも身を低くし立場を(わきま)える様振る舞う姿に思わず笑ってしまった。


「先生隊長、、、その、ありがとうございます!僕は、、、。」


「そこから先は君自身で決めて頂いて大丈夫ですよ。オズワルド王のお許しも出ています。、、、頼まれてくれますか?」


「、、、承知しました!、、その前に、王女様に渡したい物があります。直ぐに戻りますので、少しだけ猶予を頂けますか?」


「分かりました。時間だけは気にしておいて下さいね。」


ザッザッザッ、、、


走り去るイェットの背中を見送る先生隊長の顔は、何故か悲しみを滲ませていた。


(、、、すまない、イェット。私は残酷な人間だ、、、。許してもらおうなんて、、、虫が良過ぎますね、、。)








そして時は戻る。


ハァ、、、ハァ、、、 


(‼︎、、、いた。、、、けど、、、。)



「ううぅ寒い、、、アトレイタス遅いなぁ、、何してるのよ呼び出しといてさぁ?あーぁ、つまんないーっ!」



半黒半銀(はんこくはんぎん)の髪は少し長くなり、身長もほんの少し伸びた唐紅(からくれない)色の瞳の天使の様な少女が舞い降りる雪の中、独り言を呟いている。


その瞳にはあまり気力が感じられない。


「うー、、寒過ぎでしょ⁉︎私の両手冷たくて凍っちゃうよ絶対、、、。」


きっと1人でいる事が長かったのだろうか、独り言を話すことで無意識に誰かと対話している様な心理状態とし、自分自身を納得、安心させているかの様だ。


ハァー、、ハァー、、


寒いのだろう、両手に白い吐息をかけている。



(僕が最後に見たのはこの場所で変わった風貌の男の人と一緒だったっけ、、。先生隊長の願いではあるけど、それは言い訳だ、、。本当は僕自身が、、。)




「シーヤァッ!」


イェットは夢の左手の感触を思い出しながら呼んだ。




「!⁉︎」


シーヤは顔を上げ、周りを見渡し始めた。


(今の声!、、、まさかね。こんなトコに、、。)




「シーヤ!」




「‼︎、、、あ、、。」



冷たい風を切り裂いて温かい声が届いてくる。  


大好きな、あの人の声が聞こえてきた方角を見る。




ドキン、、、




「、、、イェット、、⁉︎」


唐紅(からくれない)色の瞳が彼を見つけた。その瞳にみるみる光が宿る。




ドキン、、、




(本当は僕自身が、君に会いたかったんだよ。シーヤ。)











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