Recollection-74 「頼み事」
エリーナと言う隻腕の男性と会った日、学び舎での彼等にとっては少々退屈な勉強も終わり、皆帰り支度を始める。
「皆さんに次に会うのは年明けからですね。雪深くなる事もありますからくれぐれも無茶しない様に。」
先生隊長が今年度の学び舎終業を口頭で伝える。
(やったぜ!当分休みだな、何やろ?)
(やる事そんなにないだろ?魚は獲れないし川も寒いし、、、芋焼く位だろ?)
(冬は退屈よねー!やる事ないもんね⁉︎)
先生隊長の前で遠慮ないコーポリス国の冬の退屈さを皆口走る。
(やれやれ、確かに彼等にとっては退屈かも、、しれませんね?)
彼は腰に手を置き、笑顔と困り顔の間の表情をしながら溜め息をついた。
「イェット、シン、わりぃ!そう言えばイオが風邪引いちまっててよ、、、。俺、先帰るからよ、また明日なぁ!」
「そっか、何かあったらサニカ先生の所行きなよ!」
「おう!、、イェット、今日はありがとな、、、。シンもまたイオに会いに来てやってくれよ、アイツ喜ぶからよ?じゃな!」
「うン、お見舞い持って伺うヨ。イオちゃんに宜しく伝えておいてネ。」
イェットはイグナが妹想いな事を知っている。引き留めずに見送る。
先に走って帰るイグナを見送る2人。
「イオちゃん、イグナとはは正反対で賢いし可愛いんだ。ただ少し身体が弱くてね、、。そういえばこの間イオちゃん、シンの横にずっといたよね?、、もしかして、、。」
イェットはシンに意外な話題を振った。
「ナ、何を言ってるんだヨ⁉︎イグナの妹さン、まだ10歳かそこらでショ?、、ア、イェット酷いナァ、『正反対で賢くて可愛い』って事ハ、イグナガ、、。」
虚を突かれたシンは珍しく目を見開き少し動揺したが、イェットの語弊を逆手に取り切り返す。
「シン君?言葉には『綾』ってものがあるでしょ⁉︎、、、そこは忘れてくれ⁉︎頼む!ははは!」
「どーしよっかナー?、、イェットの母さんが作ってくれるペイストリで手を打とウ。ハハハ!」
2人はいつの間にか自然に、普通に仲良く親友になっていた。
数ヶ月前迄は口を聞いた事もなかった彼等は紆余曲折を経て、今こうして笑い合えている。
エリーナと会った時にシンが言っていた様に、本当に少しの理解の仕方の違いだった。
「シンも途中まで帰り道一緒だから、マリーとノーアを送って帰ろう。おーい!マリー、ノーア、帰ろう?」
「あ、イェット君、シン君。今日は帰りの訓練はないんですか?」
マリーは空五倍子色の瞳をイェットとシンに向けて伺う。
「うン、雪も降ってきてるシ、明日から冬休みだシ、今日は休みなんだヨ。家に帰って年末の支度もあるからネ。」
シンがそう言うと、ノーアが切り出す。
「そーなンだよなぁ、、1年なんて早いよなぁ⁉︎もしかしたら年内、皆で顔合わせらンないかもだからな、、。また来年の冬明けってコトもあるよなぁ、、、。」
そう、コーポリス国は冬は厳しい寒さから雪もかなり降る地域だ。雪深くなると皆外出を控えて冬が明けるのを静かに待つ者が殆どだ。
現代の様に移動手段も娯楽も極端に制限されている彼等にとって、冬はあまり好ましくない季節だった。
「じゃあ、行こうか。」
イェットが皆に帰ろうと促した時だった。
「イェット、ちょっといいかい?少しだけ話があるんです。」
先生隊長がイェットを呼び止めた。
「!、、はい!直ぐ行きます。シン!ノーアとマリーを送ってあげなよ!じゃ!」
「うン。エッ⁉︎」
シンはみ空色の目を何度も見開きイェットとマリー達を交互に何度も見る
「2人で話をしよう。皆、またね?」
先生隊長はそう言うと、神妙な面持ちでイェットの背中に手を当てて少しだけ力を入れて人のいない方へ導く。
学び舎から離れた、人通りの少ない小屋裏まで促されやって来ると、先生隊長は正面に立ち、両手でイェットの両肩を掴む。
「せ、先生隊長⁉︎どうしたんです?」
「君だけにしかお願い出来ないんです、、。聞いてくれますか?あと、この事は他言無用でお願いしますよ?」
いつも和かな先生隊長にしては、少し変だ。イェットは違和感を覚えつつも頷く。
「実は、、、」
…
「うー、、、寒いなぁ、、おいシン、今日はイグナどうしたンだよ?何か急いで帰ったよな?」
羊毛をふんだんに使った外套、ポンチョやマントとも言えるが、それを着ていても寒い。ノーアは震えながら手を摩り暖めている。
「あァ、イオちゃんが風邪引いてるみたいでサ、それで急いで帰ったヨ。、、、あレ?その右手の紐みたいなノ、なニ?」
シンはノーアが身につけていたミサンガを目敏く見つける。
「え゛っ⁉︎こっこれはアレだ、、えぇーっと『みさんが』っつってよ?ホラ、2ヶ月位前の祭ン日に買ったンだよ、、、とぉっ!所でイオちゃン風邪引いちゃったンかー!近々お見舞い行かなきゃなー?」
ノーアはキョロキョロしながらしどろもどろになるも、何とかその場を凌ぎ話題をすり替える。
シンはイグナの左手首にも着いているのに気付いていたが、敢えて聞かなかった。きっとノーアは強がってしまい、ミサンガを外してしまうかもしれないから。
「そうだネ、お見舞イ、行こウ。」
(うン、お見舞いに行こウ。俺の事、何の疑いも無く普通に接してくれタ、君達と同じ様ニ、、。)
「シン君も護衛団の訓練頑張ってるみたいですね。辛くないですか?」
マリーアンナがシンに質問する。
「辛くはないかナ。イェットとイグナもいるしネ。たダ、『尻羊毛棒』ってのがあっテ、、、
ザッザッザッザッ!
「きゃあっ⁉︎あれ⁉︎」
「ンっ⁉︎おいっ⁉︎」
「イ、イェット⁉︎」
歩いていた3人の横を疾風の如き速さで駆け抜けていったのはイェットだった。振り返りもせず、兎に角急いでいる様だった。
イェットが走り去って直ぐ、3人の外套がバタバタとまるで生きているかの様に靡いた。
「今のイェット君だよね、、。どうしたんだろう?」
「わかンねえなぁ、、。先生に呼び出されてたみてーだから、何か忘れてたンじゃねぇの⁉︎」
(イェット、どうしたんだろウ、あんなに急いデ、、、。後で詳しく聞けるといいナ。)




