Recollection-64 「深酒」
町外れにある少し大きな家。そこがサニカ・インブルーリアが営む診療所だ。
入口には現代でいう所のドアベルが付いている。
カランカランッ
「、、、んぁ、、?誰らぁ?、、、今日はもう、、休診れぇーす、、。」
患者用に据えてある横に長い椅子の背もたれから、日焼けした左足がだらりとぶら下がっている。
「サニカ先生、シン・テナでス。今日は約束していた母の薬を貰いに来ましたガ、、、飲んでますヨ、、、ネ?」
シンが苦笑いしながらそう伝えると、サニカは身体を起こした。
ボサボサの茶髪に花色の瞳で日焼けをした、少し筋肉質なマヌスデクストラ国出身の女性。27歳で、胸元ははち切れんばかりの谷間が見える、いや、見えてしまう。
トーラなら高得点をつける筈だ。
今日は右手に麦酒だろうか、常に何か酒を飲んでいる。
「んぉ、、おぉー、、シンか、待ってらぞぅ、、ほら、薬はこれだぁ、、。持ってきたbdれェ、リンゴ酒買ってきれくれるぅ?」
ポスッ
そう言うとサニカは母用の薬と、オルブライトノットから頼まれたシン用の薬草を擦り潰した物を投げた。
「いやあノ、ありがとうございまス。そう思って念のため買ってきましたヨ、リンゴ酒、、。あト、呂律がもうヒドイですヨ!」
サニカは立ち上がり、フラフラとシンに近寄る。
シンの肩に腕を置き、リンゴ酒を奪い取る。
シンは172cmで、サニカもほぼ同等の身長だ。
「サニカ先生、飲み過ぎですヨ!」
「ッキャロウ、お前ぇー、昨日は大変らったんらぞぅ⁉︎怪我人多くてぇ大忙しだったんれぇ、、。飲まなきゃやってらんねぇってのぉ⁉︎おーい!ファンフィルザいるー?ファンフィーぃ?」
サニカが誰かを呼ぶ。奥からパタパタとやってきた人物。
黒髪が顎まであり、顔半分が前髪で隠れている、黄褐色の瞳の女性、17歳の看護助手のファンフィルザ・フェリロス。
「は、はい!なな何か、よ、呼び、呼びましたか⁉︎」
彼女は普段から少々吃り気味だ。
「ファンフィ、これ、暗室に保管しろいて?、あとぉ、いつも思うけろ、、アナタの名前、ラ行とファ行多すぎ!もうあだ名決める!」
「すみ、すみ、すみません!でもでも、父母がくれ、くれ、くれた名前で大切です!あ、あと、先生飲み過ぎです!はい!」
「よしあだ名決めらぁ、、アナタ今日から、、
薬は1日2回朝晩に服用させなさいね。」
「いや決めんのかイッ⁉︎」
「!、、シン⁉︎」
「!、、し、し、シンさん⁉︎はい⁉︎」
、、、、、、、、、、。
「、、いやあノ、ありがとうございましタ!また来まス!」
カランカランッ
そう言うとシンは足早に帰って行った。
「せ、先生、シン君のおか、お母様の身体は、、。」
ファンフィルザがサニカに問う。
「ん、、、今の私達の医学では、食い止めるので精一杯ね、、。やれる所まではやるけろ、、恨まれる覚悟、、しとくよ?」
サニカは横長の椅子にどかりと腰を下ろして頭を掻き毟る。
「い、い、いつかきっと、もっと勉強して、たく、たく沢山の人を救えたら、、いいですよね?はい、、。」
ファンフィルザはリンゴ酒を抱えて少し難しい顔で言う。
「そうらな、、、。いつか、、、そんな日が来るといいね、、。あ!アナタのあだ名、決めたわ。アナタ今日から『吃り上手』ね?これからも宜しくねぇ。」
「は、は、はい?ひ、ひひ非道くないですか⁉︎こここのこの、『ヤブ医者』サニカ先生⁉︎」
「ちょ⁉︎ヤブ医者とは何よ1番言っちゃいけないヤツらよそれぇ、、、あ、、、、、、、ファンフィ、、、、、悪い、、、
吐く。ヴェロロロロ、、」
「ぎゃあ⁉︎さささサニカ先生⁉︎ヤブ医者サニカ先生ェッ⁉︎」
こんな感じの2人だが、整形外科医としては確かな腕を持っている。
脱臼や骨折までなら綺麗に治す事が出来た。
この時代に難しかったのは内臓疾患だ。麻酔も無く、患部を切開して取り除く事など不可能に等しい。古くから内科学は存在し、疾患部位が把握できても、手の施し用がない、、、。
サニカは全力を尽くして病気に立ち向かった。それでも助けられなかった命の方が多かった。
これは彼女の所為ではない、病気に時代が追いついていなかった。にも関わらず、一部の遺族はサニカに暴言を吐いた。
「マヌスデクストラ国のインチキヤブ医者が!」
「口だけで金をむしり取る青い目の悪魔が!」
「アナタが殺したのよ、、。」
「俺の大切な人を返せよ。」
酒を飲む様になって当然だったかもしれない。そんな罵詈雑言と日々闘ってきたのだ。
遺族は自分には何も出来ないからサニカに縋り、頼り、任せる。上手くいかなければ他人の所為にすれば気が楽なのだろう。
でも、いつかきっと報われる。私は間違った事はしていない。1人でも多く助けてみせる。
、、、死んだ弟の為にも。
「うへぇ、、、飲みすぎたぁー、、ファンフィ、すまないが水を1杯くれぇ、、、それから、シニスタラムのアイツはまだうなされている?」
「は、はい、、きき昨日の今日ですからね、、。ね、ねつ熱がまだありますし、出血も酷かったので、、はい。」
「右腕の幹部の縫合はあれで大丈夫れしょ。水分と薬草と、リンゴ擦ったのを無理やりでいいから飲ませておいて。後、城下町で今日は料理出てるから、多分棄てる筈の牛の肝臓貰ってきて炙って食べさせて。あの身体つきなら体力勝負よ。」
「はい!しょ承知しました!私、炙った牛の肝臓、好きぃー、、。くく黒胡椒かけて、、食べたぁい、、。」
ファンフィルザはにへらとうすら笑みを浮かべる。
「アナタが食べてどうするのよ⁉︎あー、酔いも醒めてきたわ。私も食べたい、、急いで!鮮度が命!ついでに麦酒も買ってきて!」
「はいっ!サニカ先生!」
2人は今日も、誰かの命を繋いでいる。




