Recollection-59 「現れる真実」
その空間には、8人の男がいた。
1人を除いてエトナの民である。
城内地下、詳しくはわからない特殊な空間。
そう広くはないであろう空間の中央には、細く低い灯籠があり、蝋燭が灯されている。
その空間は、触れられる壁はあるが、全く光は反射しない完全な黒を有していた。その為、入り口を閉めれば完全なる「闇」が訪れる。
其々が座禅の様な格好で一本の蝋燭を囲む様に、円を作り座している。
皆、目の部分だけが僅かに開いた漆黒の仮面を着け、上半身も同色の半袖の衣類を身につけている。
白く塗られた腕だけが蝋燭の灯りで橙色となり目立つ。まるで腕だけが空間に浮いている様だ。
8名の内、6名は喉に大きな傷痕がある。声を発する事が出来ない様にワイトキング一族により予言通り課せられた儀式の際にできたものだ。
10月19日、エトナ祭と時を同じくして『それ』は始まる。
『腕言』と言う、ワイトキング一族に伝わる固有の手話術を用い意思疎通、会話が行われる。発声は一切許されない。理由は内容を外部に知られない、漏らさない為だ。
腕言を使い意思疎通が可能なのは、現在ここに居る8名の他、外部に居る2名のあわせて10名のみとなる。
ここからは、腕言による内容を記したものになる。
八の腕
(それでは後世に伝承する為の『六合紡文書・外典』に議事録を残しつつ進めて参ります。本日を以って、王女様も13歳となられました。よくここまでご無事に。)
一の腕
(ありがとう。礼と受け取り娘には私から伝えておこう。続けてくれ。)
五の腕
(本当に元気に迎えてくれて何よりだね。それより昨日、「エトナの秘宝」なる、存在しない物の為に戦争が起きたそうだね。)
二の腕
(はい。言葉とは恐ろしいものです。本当に些細な事、語弊から人々は想像力を働かせ、物事を大きく湾曲させ捉えていきます。)
三の腕
(まだ文字が読めない者の方が多いからかもな。「音」だけでは、頭の中で自分の都合の良い別のものを想像するのだろうな。)
二の腕
(はい。「エトナの秘宝」など存在しません。音では前者の様に頭の中で字を充てる者も多く、間違えて受け取られる様です。それが誤伝により無益な戦争も起こってしまっています。)
七の腕
(嘆かわしい事だ、『エトナの秘宝を手にする者は、世界を手にする。』と言う話が本当だとして世界を手に入れても、その者達の手に余る代物だろうに。)
四の腕
(しかし問題はそこではないぞ。「エトナノヒホウ」と言う言葉、「音」が外部に漏れているのも事実。勿論、漏れたのではなく、遥か昔に起きたクワイレーレが他国で口伝、噂されていたのと同様に、その時代に既に外部に漏れてしまい、今に至る可能性は往々にしてある。)
六の腕
(確カニ。此度ノ戦争ノ原因ハ流言飛語、噂ガ立タナケレバ起キナカッタ。早ク芽ヲ摘ミタイトコロダガ、コウ人間ガ増エテハ、ソレモ難シイ。秘事モ簡単デハナイ様ダ。)
五の腕
(そうだね。人口が増え、同時に噂も国中から世界へと広がる。また噂を信じた者が現れる可能性もあり、もう戦争が起きないとは言い切れないよね。それに、噂の一部の『世界を手にする』ってのも、強ち間違いじゃないからね。)
七の腕
(如何にも。一番危惧すべきは秘宝と誤解されたシーヤ様がそれにあたると思い込まれ拉致や誘拐される事が懸念だ。)
三の腕
(そうだな。秘宝ではないがムータレストリートゥスの要、『ディチェーテヴィータ』だからな。封命の光輪外に出られたら全てが終わる。)
六の腕
(ソノ言葉ノ通リ、本当ノ意味デ「全てが終わる」カラナ。私トシテハ約束ノ時マデハ外出ヲ控エテ頂キタイノダガ。ソレモ人トシテハ難シイネ。王女様ニハ少シデモ楽シイ人生ヲ送ラセテアゲタイ。)
一の腕
(うむ。娘にはもっと自由にさせてやりたい。『六合紡文書』の予言通りならば、あと2年しか娘には残されていない。君達にはワイトキング一族の側近という理由で喉に『守護痕』をつけ声を奪い、尚且つ幽閉生活を強いている私が言える立場ではないかもしれない。が、それでも、頼む。)
七の腕
(王の言う通りだ。四神がついていれば多少の自由は許される筈だ。私はこの痕を誇りに思っている。私は選ばれ、2年後のこの日のムータレストリートゥスの生き証人となれるのだ。本当に光栄だ。)
四の腕
(その物言いは少々、王に対して気配りが足りないぞ。六合紡文書に記されている者の小さき1人として気持ちは重々解るがね。)
七の腕
(確かに。大変失礼な物言いだった。王の気持ちも考えず、申し訳ありません。)
一の腕
(いや、いいんだ。君達までこの因果に巻き込んでいる。こちらこそすまないと思っている。それから、こんな言い草は伝わらなかいかも知れないが、君達で良かった、本当にありがとう。)
八の腕
(王様、有難きお言葉です。では、ここで確認をしておきましょう。『六合紡文書』に記されている通り、喉に黒斑のあった我々6人に与えられた『守護痕印の儀』と聖域なる籠に我々を据える『籠封の儀』により、実際に『封命の光輪、エトナの呪縛』が現れました。これにより我々と王の穢れは祓われた事になります。これによりクワイレーレが発現。同時にエトナの民達はこの城を中心に、光輪外に出れば穢れにあたり、その代償として絶命する。これは『鳳即ち皇たるワイトキングの名の元、エトナの民によるムータレストリートゥス』の口封じ、エトナの民をこの地に留める為の枷、そして国外に可能な限り、その存在が漏れない様にする事が目的でしょう。)
六の腕
(間違イナイト思ウ。過去ノ文献ヤ歴史ニ「えとなノ民」ガ出テコナイ理由ダト私モ考エル。正ニ呪縛ダ。)
四の腕
(こんな小さき国で、これ程大規模な事象が起こり得ているなど、この世界中で誰が想像出来ようか。私も正直、未だに信じられない。)
三の腕
(私達黒斑を持つ者、クワイレーレ、エトナの民の出現、封命の光輪まで、六合紡文書の予言は全て生起している。偶然ではなく、必然でな。)
五の腕
(我々の責務を全うする事が、今を先の未来へと紡ぐ唯一の方法だ。失敗は許されない。)
二の腕
(残す儀式は僅かです。無事に2年後の今日を迎えられる様、尽力しましょう。)
一の腕
(うむ。皆、あと2年だ。儀式を完遂するまで『六合紡文書』の予言通り頼む。)
皆が頷き、この腕言の儀式も終わる。
これまでに起きている事象は全て六合紡文書の予言通りに進んでいる。
2年後の約束の時、ムータレストリートゥスは確実に起きる。
我々は、その理から逃れる術はない。




