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Recollection-55 「想像力と恐怖」




「本日関所は各1人就けばよい。南側海岸線も大丈夫だ。シニスタラム国民の入国は断って構わないが素直に荷物検査を受ける者は入国させても良い。既にコーポリス国に永住している者は今まで通り他の国民と同等に扱え。絶対に迫害するな。これは王からの命だ。よいな!」


「「「はっ!」」」


「では、各々の持ち場に就く様に。交代の際は代わりの者がそこへ赴く事で、それを以て理解頂きたい。先日の戦いの疲れもあるだろうが、何とか今日だけは護り抜いてくれ。以上!」


「「「はっ!」」」


苦しいながらも生き残ってくれた護衛団達を鼓舞しつつ、今日の任務に就いてもらう様、口早く指示を出す1人の男。


前髪が綺麗に揃った翡翠色の髪に小麦色の瞳。優しい性格だが、視力が悪く目つきが悪いせいと護衛団副隊長という立場から畏怖される存在、「若き生き字引」の異名を持つエトナの民、オーディン・ミカミ・エトナ。


彼は今朝の一仕事を終えて、総隊長のアトレイタス・サイガ・エトナの元に報告へ向かう。



コンコンッ


総隊長がいるであろう指揮官部屋の部屋のドアをノックする。




、、、返事がない。


(、、あれ、いらっしゃらないのかな?)


コンコンッ


再度ノックをしてみる。





、、、やはり返事がない。


(!、、まさか⁉︎倒れたりなんて、、!)


「失礼します!」


ドンッ!


オーディンは一抹の不安を覚え、念の為入室の挨拶を強制的に済ませてドアを押し開けた。




いる。




「!、、アト、、、、。」




オーディンは名前を叫びそうになったが、止めた。



アトレイタスは、椅子に座り、右手の甲に彼自身の顎を乗せ頭を支えている。


長く艶のある翡翠色の髪は、彼の厳格でありながら慈悲深く、涼しげな山吹色の瞳を隠していた。



、、、スー、、、スー、、、。



(アトレイタス様、私には休めと言っておいて、朝まで警護を誰よりも怠らずにしていたんだ、、。成程、敵わないな。今は、、休んで下さい。)


オーディンは、その余りに無防備な最強を前に深々と一礼し、ゆっくりと、静かに動き、側にあった毛布を彼の肩にかけた。


実際、オーディンはアトレイタスが普段何をし、いつ眠っているかわからない程だった。それ程この護衛団の総隊長は常に誰かに寄り添っていた。




「誰かを護る」、から「この国を護る」。




しかし今は、本当に「この国を護る」のみに収まっているのだろうか?


一個人が、そんな大それた事が出来よう筈もない、ましてや有為転変なこの世を、、。


しかしオーディンは、アトレイタスのその振る舞いから、そう思わざるを得ない様になっていた。




(オズワルド様やアトレイタス様が背負いしものは、私の範疇を易々と超えている、、。エトナの民である以上我々は今、途轍もない『何か』の法則に飲み込まれている。)


人間は目に見えないからこそ恐怖し、寄せ付けない様に手段を尽くし抗う。


しかし、その見えない『何か』は確実に、




毎年




毎月




毎週




毎日




毎時間




毎分




毎秒




この瞬間も足音もなく忍び寄ってくる。


その『何か』には名前がある。




その名を



『ムータレストリートゥス』




その先は、1人しか知る事が出来ない。





オーディンが博識ながら、そんな荒唐無稽な事を考えつつ部屋を出ようとした時だった。



「、、待ちなさい。」



低くも温かみのある声で、オーディンは立ち止まる。


「はっ!アトレイタス様、お休みの所、勝手に部屋に入


アトレイタスは笑みを浮かべて左手でその美しく長い前髪をかき上げながら、右手の人差し指を口にあてた。


「、、、ありがとう。心配しなくて大丈夫。ただ、私が『居眠り』をしていた事は内密に、ね?」


「いいい居眠りだなんてそんな⁉︎だだだ誰にも言いませんよ⁉︎」


「、、声が大きいですよ。」


アトレイタスは笑みを絶やさずオーディンを嗜める。


「ななな成程確かにそうですねはい、、、。すみませんでした。」


ふふっと笑ったアトレイタスは立ち上がり、開口部の柵をあげる。


「気持ちの良い朝ですね。オーディン、朝食は摂りましたか?」


「いえ、隊員達には摂ってもらいましたが、私はまだです。」


「食べる事は戦う事にもそうですが、、ここ、脳には必要な事です。特にあなたにはね。」


アトレイタスは頭に指をさしながらオーディンに説く。


「成程、仰る通りです!」


「では、一緒に食堂に行きましょう。」


「はっ!」


(内密にする事など、何もない。誰がこの人を責められようか、、。もし責められる者がいるのなら、、王を除けば、、神のみかもしれない、、。)



オーディンはそんな風に思いながら、総隊長の背中を見つめ、後をついて歩く。



しかし、実際にはアトレイタスを責められる者は、いる。



それは「アトレイタス自身」だ。



彼も1人の人間、時々自分を責める事だってある。




それは過去然り、現在然り、そして、、、未来然りだ。




アトレイタスは食堂に向かいつつ、今日の「仕事」について考えている。



(また、、この日が来ましたね、、。少々苦手ですが致し方ありません、、。)


「、、オーディン、今日は私達の予想が正しければ『何も起こらない』筈です。私は祭時恒例の『アレ』に出席する為に護衛に回れません。四神と共に、シーヤ様を宜しく頼みますよ。」


「はっ!仰せの通りに!」


「、、、恩に着ます。」


2人は食堂へと消える。





人間は目に見えないからこそ恐怖し、寄せ付けない様に手段を尽くし抗う。


では、恐怖しない者は存在するのか、、。


「目に見えない」事は、「存在するかしないか」の二択となり得る。



もし、「恐怖」せず、


「存在する」を選んだ者がいるとすれば、、、。













いつの間にか55話まできていました。これも、読んで頂けるからこそです。


1人でも興味を持ってくれていたら、それだけで書く価値があります!


本当に嬉しい限りです!



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