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Recollection-52 「祭の朝に」




朝が皆に平等に朝日を与える。


空には雲一つない秋晴れ。


昨日の喧騒とは打って変わって静寂が皆を包み込む。


10月19日。


エトナ祭。


今回は天召式(ヴォーカヴィタド)も兼ねて行われる。


不思議な夢を見たイェットは今回の祭の警護にあたる予定だ。


警護と言っても、祭に参加させてもらえる為、前半・後半に分担される。イェットとイグナ、プロディテオにドルチスのいる雛隊は前半の部だ。


警護が終わり次第、マリーアンナとノーア、シンと合流して祭を楽しむ「予定」だ。


「予定」なのは、天召式も兼ねてなので、きっと大っぴらには楽しめない、、。


イェットは身体を起こし、台所へ向かう。


「あらイェットおはよー、早いねー。今日の警護、頑張ってねー!」


「おはよう母さん。」


そう言うと母は今日販売予定のペイストリの形の悪いものと、羊の乳を朝食に出してくれた。


「あれ?父さんは?」


息子ペイストリに舌鼓を打ちながら質問すると、母の表情がみるみる険しくなる。




「あの馬鹿、昨日調子にノリやがって、イェットが寝た後隠れてリンゴ酒、2本も飲みやがったんだよー⁉︎

2本もだよ⁉︎、、もう少しでブレッドの為の酵母ができたのにー! もう!」


母はカンカンだ。


ブレッドとは異国の食べ物で、現代で言うパンだ。リンゴから作った酵母で焼くブレッドは非常に甘味があり美味しい。


母の得意料理の1つだ。


「うわぁ、、父さんやりやがったね、、。







シバく?」



「うんシバくー!マジでシバくあいつ、、あー腹立ってきたーどんだけ酵母作るの大変だと思ってるんだ、、毟ったろかな髪の毛。」


母は怒ると口汚くなる。これだけの罵詈雑言を吐くと言う事は、相当怒っている。


「まあまあ、、。母さん、しかし毟るって、凄い字だよね?毛が少なくなるって書くんだよ?で、実際毟ると少ない毛になる、、凄くない?」


「、、、は?」


息子は何とか母を落ち着かせようと愉快なつもりで言った言葉が、どうも母の癇に障った様だ。


息子は羊の乳を一気に飲み干した。


「さて、と、、、





行ってきます!」


息子は逃げた。矢の如き速さで家を後にした。




(む、毟る⁉︎、、俺の髪をか?どうやって⁉︎、、こう、手で髪を掴んで、「グンッ」とか言いながら、か?やべぇ毛根死ぬじゃん。、、、よし、謝ろ。)


父は息子が起きると同時に起きていたが、台所から聞こえてきた2人の会話を聞いて戦々恐々とした。


、、、飲み過ぎて、覚えていないのだ。1番タチの悪い酔い方だ。


彼は息子の成長が嬉しくて、つい飲み過ぎてしまった。ユイが大切に保管しておいたブレッド用までも、だ。


昨日の状況からすれば複雑な心境ではあったが、息子は命を賭して戦い、勝利し、生還した、、、それだけ飲みたくなる程、父は嬉しかった。




イェットは仮宿舎に向かう。その途中、どうしても先生隊長に聞きたい事が頭に何度も(よぎ)った。


(、、『ディチェーテヴィータ』、、。あの時、女の人の声で頭に響いた、、初めて聞いた言葉なのに何故か分からないけど確信がある。きっとそれは、、、。)


イェットは翡翠色の髪を靡かせ目的地へと走る。



同時刻、イグナも護衛任務に向けて準備をしていた。


「じいさん、イオ、俺行くわ!夜はイェット達と祭いくからよ、俺抜きでのんびり楽しんでくれや!」


「ああ、わかった。気をつけて、、、と言うのも変だな。気をつけるのは勿論、楽しんでこい。」


イグナの祖父、オシアは笑いながら言う。


「兄さん元気だねぇ、疲れてないのぉ?昨日沢山喧嘩したんでしょぅ?」


艶のある黒髪は顎の辺りまでの長さ、下がり眉で榛摺色の瞳、おっとりした性格のイグナの妹、イオは少し心配そうだ。


イグナの男らしい風貌とは真逆の、女の子らしい見た目。こう言ってはなんだが、とても可愛く、彼の妹には見えない。が、紛れもなく彼と血は繋がっている。


「け、喧嘩じゃないよ、、。ほらイオ、口に乳がついてるぞ、このはんけちで拭くぞ?しょうがないな、、。」


兄は昨日、妹には言えない戦いがあった。今はハンカチで誤魔化すのが精一杯だ。


「ありがとぉ兄さん!えへぇ、、。」


口の辺りを拭いてもらいにこりと可愛い笑顔を見せる妹。


「おぅ!じゃあ行ってくるな。イオも祭行く時は1人で行くんじゃないぞ、いいな?」


「うん、わかったぁ!」


そう言って笑顔を見せる妹の頭を、兄は優しく撫でた。そして兄も、親友と同じ目的地へ向かう。





イグナがディギトゥス・ミニムス山にある仮宿舎に着くと、見慣れた顔が4人いた。


「グッモーニン、遅いぞイグナ?」


襟足で黒髪を結った、鳶色の瞳の護衛団の1人、プロディテオ・カートゥが笑顔で挨拶する。


「おはよう!流石に遅刻はないぞイグナッチ!」


黒髪の長い前髪で片目が隠れている、栗皮色の瞳の少し背の低い護衛団の1人、ドルチス・モルテンも普段通りの調子だ。


「イグナおはよう。昨日はありがとう。」


翡翠色の髪に不言色の瞳の親友、そして護衛団の1人、イェット・リヴォーヴ・エトナは、昨日イグナの叫びで命を拾った事に感謝した。


「おはよウ、ございまス、、イグナ、、、、先ぱイ。」


「なんだよシン先生よぉ⁉︎変な感じだしゃーがってっ、、、、て、、、アレ?、、シン?なんで?」


イグナはあまりにも普通にそこにいたシンに驚いた。


「イグナ、シンも護衛団に入るってさ!僕は賛成だ。」


イェットは真っ直ぐな瞳をイグナに向けて言う。


「今回の戦いで護衛団の総数もマイナスだからね、、。俺もシンの入団は大歓迎だ!な、ドリー?」


プロディテオも同調する。


「おいシュンちゃん、俺は流石に厳しいぞー?覚悟しとけよ⁉︎」


ドルチスも更なる後輩ができるかもと嬉々としている。


「シン!お前本当に、、、本当に一緒にやるのか⁉︎いや、やってくれるのか⁉︎」


イグナはシンに問いかける。


シンは頷く。そして口を開いた。


「俺モ、君達と一緒にこの国を護りたイ。だから今日は入団手続き願いに来タ。それト、嘘のままじゃ悪いしネ!」


そう言うとシンはイェットの方を見てにこりと笑顔を見せた。


「悪かったよシン、、あの時は僕の咄嗟の嘘が下手すぎた、、。ごめん!」


「いヤ、イェットは悪くないシ、いずれにしても俺は入団したヨ。俺も


その時だった。


2人の男が5人の前に姿を現す。




1人は黒髪に黒い瞳の無口な男。


もう1人は


翡翠色の髪に飴色の瞳の隻眼の男だった。
















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