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Recollection-45 「血の涙」



「おい聞いたか⁉︎夜中にシニスタラム国の奴等が攻めてきたンだってよ、、怖いよなぁ、、私全然気付かなかったよ。」


癖っ毛の黒髪を後ろで結った、榛摺(はりずり)色の瞳の一際背の低い女の子、ノーアが青ざめた顔で言う。


それを聞いている、長く艶のある黒髪に空五倍子(うつぶし)色の瞳で垂れ目、そばかすがある長身の女の子、マリーアンナは更に青ざめた表情で不安に駆られていた。


「、、、イェット君にイグナ君、、大丈夫かな?、、まさか、まさか、、。」


マリーアンナは、大きな胸を震わせて瞳を滲ませ今にも泣き出しそうだ。


2人はマリーアンナ宅前で夜中に起きた事を話していた。


「お、おいマリー、考えすぎだよ⁉︎ンな事ないよ、あるワケがないって!大丈夫!、、、大丈夫、、。」


ノーアも励ましながらも、不安が伝染する。


そこに1人の少年が汗を流しながら走ってきた。


「マリー!ノーア!大丈夫だったカ?町までは敵兵は来なかったみたいだけド、、。それニ、イェットとイグナは戻って来てル⁉︎」


金髪にみ空色の瞳の少年、シンが2人に駆け寄る。イグナ宅、イェット宅と彼等を心配し、帰ってきているか確認していた時に2人を見つけた。


「シン!お前こそ大丈夫か?、、今はここにいたら危ないンじゃないのか⁉︎」


ノーアは今朝の父の話から心配していた事を小声で伝えた。


シニスタラム国の侵攻。


シニスタラム国出身の少年。


「、、、俺は大丈夫だヨ、、。周りが何と言おうと思おうト、、俺はコーポリスの人間だヨ。」


シンはそう言いながらも少しだけ寂しそうな表情を一瞬見せた。


「あ、いやごめン、、そんなつもりで言ったンじゃねぇンだ、、その、、悪ぃ、、。」


唯でさえ小さい身体を更に小さくして謝るノーア。


「ふふっ、、分かってるヨ!ノーアはどこかイグナに似てるよネ。」


シンは苦笑いしながら言う。


「わ、私も、、時々そう思います、、。」


マリーアンナも同調する。


「て、てめェ等、何言ってンだよ⁉︎ンな奴に似てる訳、、ないでしょ⁉︎」


ノーアは何故か頬を少し紅潮させている。実に解り易い。





その時だった。



ヒソヒソ、、。



誰かが微かに聞こえる声量で話をしている。


(あいつ、シニスタラム出身だよな?)


(あの髪、間違いないって、もしかして、情報を流していたんじゃないか?)



「、、、、。」


シンは歯を食い縛り、拳を激しく握りしめて耐えた。


多少覚悟はしていた事態だ。


ここで何か言えば状況は悪化する、、。耐えろ、、耐えるんだ、、強くあれ、、。





ゴッ!


「ッ!」



「!⁉︎、、シ、シン君⁉︎」

「!おいシン⁉︎」


マリーアンナが驚きの余り声を上げた。ノーアも同様だ。





ポタポタッ、、、




誰かが投石したのであろう。それがシンの額右上部に当たり、鮮血が流れる。


その鮮血はシンの右目に入る。それでもシンは目を閉じず堪えた。血の涙を流しながら堪えた。


(俺ハ、、、俺ハ、、、強ク、、、。)





ドガァッ!


ググンッ!


「がハッ⁉︎な、何しや、、!あ、あんたは、、や、やめてくれ!お願いだ、、⁉︎」


「「「!!!」」」



少年少女3人は騒音の方を見た。



そこには見た事のある男が投石をしたのであろう馬鹿な男の襟首を両手で掴み易々と持ち上げている。




「やめてくれ、だと⁉︎ゴミの様な陰口を吐き、(あまつさ)えお前は石を投げ、俺の息子の友達に血を流させといて、やめてくれ、だと⁉︎」


「わ、悪かった!許してく、、下さい!」



「お前、、、謝る相手が違うだろうがぁ!!」


ブンッ

ズドァッ!


「カハッ!、、か、、ッ!」



そう言うと、体格が良く無精髭があり、やや長く癖のある黒髪を真ん中で分けた煤竹(すすたけ)色の瞳のその男は馬鹿な男をそのまま地面に背中から叩きつけた。




「おじさま!」


マリーアンナが声を出した。


オルブライトノット・リヴォーヴ、その人だった。



投げつけられた馬鹿な男は空を仰ぎ動けずヒュー、ヒューとおかしな呼吸をしている。


それを見て溜め息をついたオルブライトノットは少し足を引き摺りつつシンに歩み寄る。


そしてシンの顔に両手を優しくあて、傷口を注意深く見る。


「大丈夫か⁉︎吐き気等はないか?」


オルブライトノットはシンに優しい声で尋ねる。


「、、はイ、大丈夫、、でス。」


シンは俯いて答えた。まるで右目から血の涙を流しているかの様だ。




「誰か手拭いを持っていないか?あと薬草があれば、、。」


「あ!おじさン!私家が近いから薬草持ってくる!待ってて!」


ノーアはそう言うと全速力で駆けていった。


「おじさま!「はんけち」があります!使って下さい!」


マリーアンナは以前イグナから貰ったハンカチを手渡す。



「ありがとうマリー。彼は俺の家に連れて行くよ。ノーアにも伝えてくれるかな?」


「はい!分かりました!」



そう言うと、オルブライトノットはマリーアンナから借りたハンカチでシンの血を拭く。


「、、、馬鹿どもが。」


その血と傷口を見たイェットの父は、再度怒りが込み上げてきた。


こんな少年に石を投げ怪我までさせ、陰口を叩いた奴等が全員「大人」だったからだ。


そして彼は叫んだ。


「お前達は恥ずかしくないのか⁉︎この少年をお前達が侮辱する権利があるのか⁉︎髪の色、瞳の色が違えば敵か⁉︎状況が違うだろう!お前達がやった事は、今の不安から逃げたいだけの口実だろうが!、、、俺の息子の友達は俺の息子同然だ、、。もしこの少年に危害を加えるのなら、先に俺の前に立て!」



その場にいたほんの僅かな数人の馬鹿な大人は黙った。


何も言い返せない大人達を見たオルブライトノットは最後に彼等に言った。


「、、不安はわかる。しかしぶつける方向、昇華のさせ方が違うんだ。、、今は精一杯、戦死した者達を弔うのが先だ。頼む、行ってやってくれ。」


オルブライトノットがそう言うと、彼等は自分の非を詫びるようにシンに頭を下げ、慌てて天召式の準備へと駆け出した。


「シン、先ずは俺の家に行こう。止血と消毒だ。」


「、、、はイ。」




リヴォーヴ家についた2人を追って、ノーアとマリーアンナも家に着く。


「シン君、大丈夫⁉︎」


「かぁー!痛そうだな⁉︎消毒薬、効くといいンだけどな?」


心配そうな少女2人にイェットの父は優しい表情でお願いをした。


「マリー、ノーア、少しだけシンと2人きりにしてもらえるかな?男だけの話がしたいんだ。いいかい?」



「は、はい!じゃあ私達は外に出て待ってます!」


「お!じゃあ今の内に私達も天召式(ヴォーカヴィタド)の手伝いに行こうぜ⁉︎シン、また後でな!」


そう言うと、少女2人は外へ出て行った。



部屋に座る男2人。


消毒薬を傷口に塗りながら、ハンカチで押さえる。


「シン、自分で傷口をコレで押さえられるか?」


「はイ。」


「悪かったな、馬鹿な大人もいるんだよ、、。俺が替わりに謝る。この通りだ。」


そう言うと、イェットの父は深々とシンに頭を下げた。



「!そんナ!イェットの父さんは俺を助けてくれたのニ、、!」


「この国の人達も悪い人間ばかりじゃない。どうか、誤解しないで欲しい。」


「はイ。大丈夫でス。俺が1番分かってまス。」


傷口を右手のハンカチで押さえながらシンは気丈に答える。




「ありがとう、シン。君は強いな。本当に強い、、。俺の息子、イェットにも見習って欲しいモンだ!」


シンが謙遜しようとしたが、イェットの父は続けた。


「それから、謝りついでに聞いて欲しい。シン、君の事はイグナや息子から聞いたよ。」


「!、、そうですカ、、。」


シンは意外だった。イェットやイグナが自分の事を話している事が。


「今までよく頑張ってきたな。君は母さんを支えつつ学び舎にも通って、、イェット達の知らない苦労もあっただろう?辛かった時もあっただろう?俺は男として尊敬する、凄い事をやり遂げている。何かあればいつでも相談しにおいで。これからも一緒に頑張ろうな。」






「、、ア


ありがとうございますと言おうとした。




シンは今まで心を閉ざす事が多かった。




裏切られない様に。


父の様にならない様に。


そんな自分をイグナやイェットは受け入れてくれた。


それでも尚、14歳という年齢でありながら、シンにはシンの生きている、生きなければならない世界があった。


母と2人、貧しいながらも努力してきた。頑張ってきた。そう自負してきた。


しかし、心を閉ざしてきたが故に、他人を遠ざけてきたが故に、本当に自分が正しいのか分からない時もあった。







そして今日、イェットの父が与えてくれた3つの言葉がシンの心を揺さぶった。




「今までよく頑張ってきたな。」


「何かあればいつでも相談しにおいで。」



そして、



「俺の息子の友達は俺の息子同然だ。」




シンは長い間、、、長い間求めていたものに出会えた気がした。


「理想」と「渇望」が混ざり合った様な、誰にも言えなかったもの。


それは、自分の中にあった、自信に満ち溢れていた今は亡き「父の言葉」。


幼かったあの頃とはもう受け取り方が違う。


こんなにも、こんなにも生きていく力を貰える言葉がある。



「、、ク、、ウ、、、!」


シンのみ空色の瞳から大粒の想いが溢れてきた。


シンは涙した。心の底から湧き上がる感情が抑えられない。声を殺して泣いた。


大粒の想いが何度も何度も地面を叩いた。


ありがとウ、ありがとウ、ありがとウ、、、。


大粒の涙の分だけ感謝の念が込み上げた。




オルブライトノットはシンの震える肩にポンと手を置く。


「イェットとイグナを頼む。アイツら、ああ見えてまだまだ子供だからな!」



「、、はイ!」


シンは涙を右手で拭うとしっかりとオルブライトノットの瞳をまっすぐ見つめ答えた。




そして、彼は決心する。


(俺モ、、友達と同じ道を歩みたイ、いヤ、歩ム!)


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