Recollection-44 「天召式」
10月18日、「エトナ祭」前日。
いつも通りなら町の住人達も準備をほぼ終え、「前日祭」を楽しむ筈であった。
しかし、シニスタラム国軍による未明の襲撃により、コーポリス国北東は目を覆いたくなる様な惨状となっていた。
戦死者は、両軍合わせて凡そ1200名を超える。この内の6分の5がシニスタラム国軍兵である。
この数字が示しているのは、今までにも攻め込まれた事があったにも関わらず、コルメウム城が陥落しなかった理由に直結する。兵力、軍事力、地理的戦術、、その中でも特に長けている「兵力」が、その大きな要因だ。
解り易く言えば、「少数精鋭部隊」の集まり、と言った所か。
10数年ぶりに起きた戦争にも勝利を収めたコーポリス軍。いや、勝利という表現は適切ではないのかもしれない。彼等からすれば、勝利する以前に、護衛、死守、何人たりともコルメウム城へ近付けてはいけない使命感の方が強い傾向がある様に感じられる。
その感覚を顕著に出しているのが「エトナの民」である。彼等の存在はやはり特異なのだ。『エトナの呪縛』により、コルメウム城を中心とした半径数十kmからは先へは行けない事実。
コルメウム城を死守しなければならない理由。それは荒唐無稽な何かかもしれない。
しかし実際に、そして確実にエトナの民の存在が「何か」の存在を証明していた。
コーポリス国の民は「エトナ祭」を催す準備をする前に、戦死した者達を弔う。
それは敵味方分け隔てなく。
本来ならば城内や町の中の数カ所にあるカペレ(礼拝堂)にて「天召式」を執り行う。
しかし戦争という、他人から物を奪うだけの蛮行で戦死した者達の多さから、それは不可能だ。
その骸で形がまだ保たれているものは広場に等間隔で並べられていた。
そうではない、既に肉塊と化してしまったモノは1箇所にある程度纏められ、幾つかの血肉の山を築いている。
これから行われるのは、火葬による「天召式」だ。
この国には、昔から残っている習慣、文化があった。
それは現代の「日本」に酷似している。
燃やすという行為、遺体を傷つける行為は罪とされる思想が強かったこの国では土葬が主流であった。その理由は、死者はいつか復活すると信じられ、エンバーミングという死体から血を抜き、防腐剤にて肉体を保存する処置を行っていた。
しかしいつしか、「魂の還る場所」は地中の以前の身体にではなく、空、天なのではないかという思想が生まれた。
魂は一度、還るべき場所に還り、再度肉体を得てこの世に生まれ還ってくる。
還る場所を間違わない、迷わない様に、新しい命で新しい身体になると理解する為に、火葬によって肉体を骨まで灰にする。
焼却し身体を失った魂は、煙と共に生きている家族や友人、恋人の想いを天へ送り届けるという思想。
それはこの世界では、自然な事だったのかもしれない。
人は、魂は何処から来て、何処へ還るのだろうか?
人が生まれてくる「理由」はあるのだろうか?
いや、きっと「理由」をつける事自体が人間の尺度であり、烏滸がましい行為かもしれない。
それでも、いつか解る日がくる。
廻り、廻り、気の遠くなる様な悠久の時を経て、いつか魂は再度辿り着き、集う。
そんな慌ただしい前日祭の朝、2人の少女達は一抹の不安の胸に抱きながら心に浮かんでくる「あの人」達の帰りを待っていた。




