Recollection-30 「悪魔」
「フォエナ隊長。城内の配置完了致しました。四神も王と王女様を無事地下へ避難致しました。」
鉄の甲冑・兜を纏った男が一部隊隊長である隻眼の男フォエナに報告を済ませる。
「、、、了解した。報告ご苦労、お前は他雛隊隊長にも報告を宜しく頼む。」
「はっ!」
そう言うとフォエナは城の外へ向かう。
(オスクロ、無理するなよ、、。俺も行ける所まで行く。、、死ぬなよ。)
隻眼のエトナの民、フォエナは歯痒さを感じつつもやがて訪れる戦闘に備えていた。
一方地下の部屋では、王と王女様が四神を護衛とし身を隠していた。
「まさかまたこの部屋を使う事になるとはね、、。約12、3年振りか。」
右眉と左顎に疵痕のある、胡桃色の瞳に黒い髪を後ろに流し口髭を蓄えた男性が穏やかな顔で呟く。
オズワルド・ワイトキング。
コーポリス国を統治するこの国の王にして、この城の主人である。
一見すると一国の王としてはあまり格好や権力には興味が無さそうな、、。
しかし国民からの支持は厚く、彼自身も生まれがただ王族だったと言うだけで昔から民と共に苦楽を共にし、自らも剣術を学ぶなど、その振る舞いは自由奔放にして、王としての立場に勤倹力行だ。
「はい。あの時は生後11ヶ月のシーヤ様とイリヤ様もご一緒でしたね。オズワルド様もさぞ不安だった事でしょう。」
朱雀が彫られた兜のゴウが気晴らしに昔話をする。
「まだコルメウムの四神と言われる以前の若かりし頃のお前達とアトレイタス、オルビーも一緒だったからな。心強かったよ。今もね。」
王はこんな状況にも関わらず、にこやかに会話をしている。
オズワルドは、最愛の娘に心配を掛けさせまいと気丈に振る舞っていた。
と同時に、彼もまた四神に全幅の信頼を寄せていた。
「父様、私怖いよぅ、、。」
シーヤは父の腰に手を回し、後ろに隠れる様に立つ。
シーヤも気丈に振る舞ってきたが、何せまだ12歳の少女。気の許せる身内がいればこそ、本音を吐露した。
オズワルドは、そんな娘を安心させる様に、こんな話をした。
「シーヤ、コルメウムの四神の伝説、知ってるだろ?」
「うん。確か噂が噂を呼んで尾鰭がついちゃって、80人やっつけたのが、倍の160人になっちゃったやつでしょ?」
「そう、それ。四神は80人しかやっつけてないんだよ。嘘つきだね。うははは」
オズワルドは意地悪な顔をして四神を見て回る。
「オズワルド様、ひどいですなぁ!我々も、もう少し頑張れたんですがのう、、。」
そう言いながら、玄武が彫られた兜のゼンが、痒くもない頭を兜の上から掻く。
「いやいや、十分に強いし、凄い戦果だ。あれから時間も経ち、更に腕を上げた筈だからね。」
そう言うとオズワルドはシーヤの頭を撫でた。
「ところがね、160人て数字は、あながち間違いじゃないんだよ。」
「? 父様どう言う事?」
シーヤは素直に尋ねる。
「四神達は本当に強いんだ。もっともっと敵をやっつけられる筈だったのに、それが出来なかったんだよ。」
父がそう言うと、四神の4人はうんうんと頷いた。
「どうして?敵が逃げちゃったから?」
「それもあるけど、ある人が四神よりも早くやっつけちゃったからだよ。」
「ある人?」
「そう。彼がやっつけちゃったんだ。80人以上を1人で。しかも本気を出さずして、ね。」
そう言うと、オズワルドは右眉の古傷を人差し指で撫でた。
「状況はどうなっていますか?」
「はっ!現在コーポリス国北東にて我等部隊と敵兵凡そ400が交戦中!兵数差にて徐々に城方向へ進撃されています!」
「わかりました。その進撃を囮に別の方向からも攻めてくる可能性も零ではありません。戦況確認を怠る事なくお願いします。」
「はっ! 総隊長!」
長髪の翡翠色の髪に山吹色の瞳の端正な顔立ちの男は、報告を受けた後、自らも可能な限り前線へ赴く準備に入る。
(国境へは『エトナの呪縛』の為行けない。皆、俄な作戦で済まないが前線を下がりつつ何とか目的地まで敵を引き付けて欲しい。)
身体に甲冑こそ装備しているものの、兜は身に付けず翡翠色の長髪を靡かせ颯爽と歩く。
その腰には漆黒の鞘に幾つかの星が描かれた「天無絶・星屑」が帯刀されている。
アトレイタス・サイガ・エトナ。
コルメウム城護衛団総隊長にして、鳳凰守護ノ八咫烏の異名を持つエトナの民最強の男。
彼は人知れず努力を惜しまず、誰よりも鍛錬をし、何よりもコーポリス国、コルメウム城の死守に命を賭ける男。
コルメウムの四神の伝説に己が含まれない様、箝口令を出した男。
後に『雷越流』と呼ばれる様になる剣術を駆使し戦うその姿は流麗且つ酷烈、そのあまりの強さを目の当たりにした者達は『コルメウムの悪魔』という二つ名で彼を比喩する。
悪魔には程遠い、
墜ちることは絶対にない、
心優しき使徒が動き出す。




