Recollection-29 「鳴らぬ剣戟」
オスクロ・ルークスは灯した蝋燭を片目を閉じてもう一方の目で数十秒間見つめ、息を吹きかけ灯りを消す。
そして閉じていた目を開けた。
これは明るい所から暗い所へ行くと目が暗闇に慣れるのにある程度時間がかかる「暗順応」というものを強制的に早く暗闇に目を慣れさせる方法の一つである。
無口な男は息を殺して周りを警戒する。
夜風と共に、雑草や藪を裂く音が紛れる。
、、4、、5人。
敵の最先行部隊「闇踠」だ。
オスクロは目を凝らし、敵の姿、特に武装を注視した。
「闇踠」は、いわば密偵の様なもので、どちらかというと暗殺や偵察が目的の様だ。
行動音が出ない様、甲冑ではなく厚い革製の武装をしていた。兜も同様で、革製で黒い布状の物を顔に巻き暗闇に紛れようとしていた。
彼等の手には、木々の中で戦う事を前提にしてか、短剣が握られている。
オスクロはそれらを確認すると
敵が散開する前に仕掛けた。
ドヴァアッ!
砂煙が上がる。
「!⁉︎」
闇踠がその「異音」に気付いて音のした方角を見た時には、オスクロの剣はまるで草を刈る様に1人目の首を刈った。
「! 散れぅがァッ⁉︎」
もう1人が見えざる敵を囲もうと散開させようと叫んだ瞬間、右足膝下に熱を感じた。
と同時に鮮血を右脚から吹き出しながら痛みと共に倒れる。
「なっ⁉︎ どこに⁉︎」
その言葉を発した男の足元に無口な男はいた。両肘を曲げ両手で剣を持ち、剣の面部分に設けられた樋(軽量化の為に彫られた溝)の中央やや下を額に近づけてしゃがんでいる。
それはまるで祈る様な格好だった。
ズンッ
無口は男は勢い良く立ち上がると同時に、鋒を上に向けた剣を両手でしっかり握り、その勢いのままに敵の顎から頭頂部へと貫いた。
『棘蛙』という技。
敵の口は強制的に開けられ、口腔内から血脂のついた剣が姿を覗かせる。
ゴボゴボと嫌な音を立てながら折れた歯と切断された舌が血と共に溢れ落ちた。
息絶えた敵の頭蓋を貫通した剣をそのまま両手で持ち、低い体勢の上段の構えから剣を振り下ろす勢いで顔面半分を裂きつつ、右脚から流血している敵の首も切る。
ドヴァアッ!
砂煙を上げ無口な男は姿を消し闇に紛れた、、。
「何が、、⁉︎何だ⁉︎人間か?何が起きてる⁉︎」
残り2人の闇踠は動揺を隠しきれない。
何故なら3人が絶命するまでにかかった時間は僅か5秒程だった。
「このままでは無駄死にだ!一旦引けぇ!」
残りの敵は自陣に向かい走り出す。
ハァッ、、ハァッ、、
オスクロは木影に身を隠し切らした息を落ち着かせる様に深く、深く呼吸する。
スゥーーー、、、
ハァァー、、、
無口な男は無駄に敵を追う事はしなかった。いや、正確には追えなかった。
『纏霞』の基礎となる動き、筋肉の伸張と短縮、緊張と弛緩を利用した反動で瞬間的な移動を行う歩法を『刻削』と言う。
『刻削』とは、相手からすれば一瞬で目の前に現れたり、視界から消える様な動きから『まるで時間(刻)が削り取られた様に見える』様から命名。
この『刻削』を連続で行い身体が霞むほど行動出来る様になれば『纏霞』と呼ばれる技になる。
オスクロは『纏霞』は使えないが、この『刻削』を磨いた。しかし無限に使える訳ではない。身体を酷使する為、数回使用すれば息は上がり行動に支障が出る。
これが彼の強さの一つである。しかし、彼の強さは他にもあった。
「過去の罪」を敵の死により塗り潰したい。
「自分が犯した咎」を、敵の死により正当化したい。
「もう帰らないあの人」と「罪を一緒に背負ってくれた親友」の為にも、この両手が敵の血で塗れれば罪悪感が薄れる、、。
返り血で濡れた髪と顔が月明かりで銀に光る。
無口な男は声を失ったあの日から、戦う事で贖いという名目の復讐を果たしているのかもしれない。




