Recollection-28 「乖離」
ガガァン! ガガァン!
ガガァン!、、、
子夜を越えた頃、闇夜に響く鐘を2度ずつ鳴らす音。
「、、これは!」
昨日の出来事、十数時間前の事が頭から離れず眠りにつけていなかったイェットは寝床から身体を勢い良く起こし、前に先輩から聞いた事を思い出す。
襟足を結った黒髪に鳶色の瞳、がっしりした体型のプロディテオ・カートゥはドルチス、イグナ、イェットにこんな事を話していた。
(「いいかい新入り達。お前達もいつか関所に詰めて見張りをする時がくるかもしれないよ。『エトナの民』は除外だけどね。イェット。」)
プロディテオは続けた。
(「なにも敵はわざわざ昼に攻めて来るとは限らない。夜、夜襲って事もある。いずれにせよ敵と思われる者が出現した場合は鐘が2回ずつ何度も鳴るから覚えておくといいよドリー、イグナ、イェット。」)
イェットは勢いよく寝床から立ち上がると彼は眩暈に襲われる。それは彼の頭の中を白く覆い、軈ては彼の意識を薄れさせていく、、、
ここから暫く彼の意識はゆらゆら朦朧としていた。それでいて現実味は存在している。
そして彼は僅かながら頭の中に響いている声に気付く、、、
「、、、呼んでる。」
イェットは本能的に「向かわねばならない」と察知し、靴を履きドアを開ける。
息子が部屋を出る気配を感じ、父はもう止まらないのであろう息子に声をかけようとする。
「ッ!?」
、、、ぞくり。
父はその光景を見て背筋にこれまでに感じたものとは違う、得体の知らぬ何か、正確には「やはりこの時が来てしまったのか」という絶望感だった。
、、、息子はただ虚空を見上げながら一点を指差していた。
その指差す先にあるもの。
(こいつ、何故そこにあると、、、)
父親は額に冷たい汗が滲むのを感じながら息子に可能な限り冷静な声で伝える。
「、、下がってろ。」
そう言われても動かない息子を軽く押し下げながら、父はその場で飛び上がり天井にその拳を叩き込んだ。
バガァッ!
パラパラパラ、、、、
パシッ
着地した父の手には黒い布に覆われた「何か」が握られている。
それを無言で見つめる息子。
(アイツの言っていた通りだ、、もう運命の歯車は動き始めてるってワケだ。)
父はふぅっと息を吐くと冷静を装い息子に語り始めた。
「イェット、俺が止めてもお前はもう止まらないだろう。、、「これ」を持って先ずは城へ行け。」
そう言うと、父のオルブライトノット・リヴォーヴは天井を破壊して取り出したその「何か」を息子に少し重そうに投げ渡した。
「!、、、⁉︎」
父は少し重そうに投げた筈なのに、イェットが受け取った時には然程重くはなかった。
黒い布から取り出したそれは、以前先生隊長から技を教えてもらった時に使った特殊な形の模擬刀に酷似していた。
太陽が描かれた漆黒の鞘に納められた刀の様な、、、。
「とうとうこの日が来てしまったか、、。イェット、俺は父としてはお前には戦場に赴いて欲しくない。、、男らしくない言い草だが、本心からそう願ってきた。」
月明かりと星明かりが開口部から父の顔を微かに映し出していたが、余り表情は見えない。
父は朦朧としている息子の両肩に手を置き説く。
「いいかよく聞け。もし敵と対峙したら決して躊躇うな。相手はお前を殺しに来るんだ! 相手も「殺されるかもしれない覚悟」を持って向かってくる。お前もその『覚悟』を持て。、、何かを、誰かを護り抜くにはお前の両手が血にまみれるという事だ。、、いいか?』
「わかってる父さん、、僕は行かなくてはならないんだ。きっとこれが『エトナの民』の宿命だから。」
息子は父が思う以上に、意外にも冷静だった。
父は息子を抱き寄せる。
「生きて帰って来い。そしたらリンゴ酒、飲もうな。」
息子は何も言わず頷く。
父は続けた。
「俺はその刀、『天無絶・天道』を使って無敗、生き残った。きっとお天道様が護ってくれる筈だ、、。行って来い!」
「父さんありがとう、行ってくる。」
イェットは父から受け継いだ「天無絶・天道」を携え走り出した。
この時、イェットの『決意』が『覚悟』となったのかもしれない。
父のいう『覚悟』とは、殺されるかもしれない、『殺す』かもしれない『覚悟』の事だ。
もう止まらない、止める事のできない息子の背中を見送る父。
(オッズ、約束は果たしたぞ。お前の言った通りこの日は来てしまった、、神様、、お天道様、、どうか、、どうか息子を、、。)
父は美しい夜空と月を見上げ、心の底から無事を願った。
そして以前、アトレイタスからも『覚悟』を問われたイェット。
この時彼はまだ知らない。
父とアトレイタスのいう『覚悟』の意味が
全く違うものだという事を。




