Recollection-2 「エトナの民」
コーポリス国は面積約5.774㎢を有する海に隣接し山にも囲まれた資源の多い国であり人口約6,000人と、かなりの小国である。
国の中央山頂にあるコルメウム城を主たる国の存続理由とする。
城に従事する民や護衛団員、城の麓では近海にて漁をを生業にする民、農業や狩猟を営む民達とが共存し、城下町として国の経済を回している。
町には土や木を使用して建てられた家屋が見られ、道幅は広く、羊の皮等を鞣して作った日差し止めを道の脇に張り各々が作った工芸品や収穫した農作物や海産物、料理等を商売している。
木々にも囲まれ針葉樹・広葉樹がバランス良く存在し、薪の確保にも困る事はない。
また、植物油・動物脂等を用いて火種としていた。蝋燭を生産する事も可能だったので夜間はそれらを用いて灯りを確保している。
衣類は牧場にて家畜化された羊や豚、牛等や狩猟にて得た動物の皮を鞣した物を加工した物、高価ではあるが織物や布にて肌着、衣服を作り身に付けていた。
特にコーポリス国で盛んだったのが鉄の生産と、それを用いた工芸品や武具が特筆される。但し、武具については他国への流通は行わず、自国にて使用しつつ改善点等、希望や注文があれば即変更・製造に取り掛かるといった動きの迅速さがあった。
この国では独自の通貨『bd』が流通している。隣国も同様にその通貨の存在は把握しており、お互いに通貨価値が著しく変動しない様、協定を結ぶ事もある。
コルメウム城を護衛する団員達は、幾つかの鳥の名称を冠とした『雛隊』に所属し、国境の関所での他国からの侵攻をいち早く発見・報告する為の軍事目的と、前述の著しい通貨の変動を防ぐ為、自国で獲れた海産物や農作物の価値が下がらぬ様に他国からの流通規制を行う。
また、雛隊は其々が独立した戦闘技術体系を持ち、良いとされた技術は他雛隊へ伝授・共有し、その軍事力を底上げしていた。
それと同時に各々が腕を磨き、年に一度その練磨した技術を競い合う試合もある。しかし他国にその技術が漏洩しない様に一般市民の観戦は不可とし、護衛団員のみで行われる。
コルメウム城についてはいつ・誰が・何の為に建てたのかは定かではないのが定説とされているが、極々一部の人間だけがその真実を知る。
それがコルメウム城の主だるワイトキング一族と
『エトナの民』の一部である。
エトナの民の特徴として、多少の違いはあるものの翡翠色の髪に黄色の瞳が共通している。また、本名の最後に「エトナ」が与えられる。
コーポリス国人口約6,000人に対して、エトナの民は約50名程、約0.0083%と非常に少ない。
男女比率は男性が99.5%、女性は唯1人。これが何を意味するのか。
エトナの民は非常に少なく稀有な存在だからこそ羨望・尊敬、崇拝、そして嫉妬や嫌悪の対象にもなった。
彼等の出生には不明な点も多い。数少ない過去の文献を見る限り、コーポリス国以外では散見されず、ある時代には永らく存在していなかったり、ある日突然髪と瞳の色が変わったという記述もある。
実際にコーポリス国に存在するエトナの民の100%がある日を境に髪と瞳が変化した。
この事象を一部の人間は
『クワイレーレ』と呼称する。
その日こそがコーポリス国の今現在より17年前の10月19日である。
同日、生後5ヶ月のイェット・リヴォーヴが「エトナの民」となった日である。
そしてその1年後の10月19日に唯1人のエトナの民の女性・イリヤ・ワイトキング・エトナ(旧姓 イリヤ・サンライト)が女の子を出産。
シーヤ・ワイトキング・エトナが誕生した日である。
サアアァァァァァ、、、、
ザアアアァァァァァァ、、、
いつも通り揺れる緑が広がるその場に1人座る青年。
その姿は以前の様な少年らしさは感じられない。寧ろ歳不相応の雰囲気を纏い、人を寄せ付け難く見える。
そんな17歳のイェットは己の中にある忘れたくない記憶を断片的に思い出していた。
僕は生後5ヶ月頃までは黒髪・榛摺色の瞳だったと聞いているが、生まれた年の10月19日に突然変化した。
そして城に集められた僕等エトナの民(と言っても、僕はまだ這うことも出来なかったけど)は城の主でありコーポリス国王オズワルド・ワイトキングにより「エトナ」の名を有する事を許された。
小さい頃は、エトナの民の存在理由など知る事もなかったし、知ろうともしなかった。
だが今は違う、殆どを知っている。
嫌という程、この身で知ってしまったんだ。
エトナの民の存在理由を。
そして、エトナの名を有する半黒半銀の髪に唐紅色の瞳だった彼女は、、、。
しかしそれでもまだ解らない事もある。
『あの時』、あの場で何が起こっていたのか、、、。
あの時頭の中に響いた『女性の声』は誰なのか、、、。
あの『男』は何処へ消えたのか、、、。
あの時見た『夢』は、何故か今でも鮮明に思い出す、、まるで実際に体験したかの様に『記憶にはっきりと残っている。』
イェットは自分の若さと弱さ、無知さに打ちひしがれていた。同時に、もうあの頃の様には戻れない、戻せない事があるという事実が彼に感じる必要などない自責の念を忍び寄らせる。そんな感情から彼の表情には怒りと悲しみを内包し始め、耐え難くなりその双眸を閉じる。
そして、あれから『彼女』の名前を口に出して言えた事はない。
先生隊長はあの時の僕を慰めてくれた。
「僕は、、、、。」
1人をいい事に独り言を呟く。
彼は自分を赦せないでいた。
それはまだ若過ぎるために、自分を納得させるだけの言葉が見つからない所為だったかもしれない。
そして、時は遡る、、、