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8.一杯食わされました

いつも、お読みいただきありがとうございます!

本日二話目の投稿です。


 王子はまさかの、ステファンだった。


(うそぉ……あの、残念魔導師の?)


「ではサオリ、後は頼んだぞ!」


 呆然としているうちに、そう言い残し王は去って行った。


「……サオリ、大丈夫かい?」


 心配そうに、顔を覗き込んでくるガブリエル。さらりと、ガブリエルの前髪が目の前に落ちたのが、沙織の視界に入った。


(ひえっ!)


 顔が近すぎて、どぎまぎしてしまう。


「えっと、はい。少しだけ……いえ、だいぶ驚きましたが。王子がステファン様だと、お義父様はご存知だったのですか?」


「いいや。王子が呪いを受けた事は知っていたが、何処に養子に出されたか迄は知らなかった。まさか、魔導師になって宮廷へ勤めているとは……。サオリを呼んだのも、彼だったな」


 ガブリエルは思案顔だ。


「……そうです」

 

 何か運命的なものが作用しているのだろうか。


 ふと、気になった――。なぜガブリエルが、スフィアのプレート情報を知っていたのか。

 訊けばすんなり教えてくれた。

 どうやら、あの時にミシェルが調べていたのが、それだったらしい。ガブリエルも、カリーヌに濡れ衣を着せたスフィアを詳しく調べていたのだ。


 ある意味、スフィアが光の乙女でなくて良かったのかもしれない。スフィアにこんなイベントが起こったら……間違いなく、何か悪い事がおきていただろう。 取り敢えず、ガブリエルと共にステファンに会いに行くことにした。


 魔導師は魔道士と違い、実は凄い人らしい。指導することも、独立することも出来るほどで、優れている者しかなれないそうだ。


(なのにステファンは、魔法陣を描き間違えるとか……)


 本当に大丈夫なのだろうかと心配になった。


 そして、見覚えのある扉の前までやって来た。


(さて、ステファンと自然に話せるかしら?)


 ドキドキしならがら扉をノックしようと思ったら、後ろから声をかけられた。


「あれ? アーレンハイム公爵とサオリ様ではないですか!」


 明るい声の主は、ステファン本人だった。


「ちょうど良かったです! アレクサンドル殿下の従者が、アーレンハイム公爵を探しておりました」

「アレクサンドル殿下が? そうか……ちょっと、行ってくる。サオリ、ここでステファンと暫く待っていなさい」

「はい、お義父様」


ガブリエルを見送り、ステファンに促され部屋の中へ入る。


「サオリ様、すっかり公爵令嬢になられましたね! 今日はまた一段と……素敵ですね!」


ステファンは、私を上から下まで繁々と眺めた。


(絶対、サウナスーツ姿を思いだしているわね……)


そんな胡乱な目でステファンを見ていると、沙織の視線を勘違いしたのか、目を逸らした。


「陛下からお聞きになったんですね、王子(ぼく)の呪いのことを」


「……えっ。ステファン様は、知っていたの!?」


 先程、王に秘密裏に動けと言われたばかりなのに、ステファンはその事実を知っているようだ。


「まあ、そうですね。たまたま小さい頃に、アレクサンドル殿下を見て気が付きましたよ。あまりにも、僕とそっくりだったので。確信を得るまでには、少し時間がかかりましたが」


「え、アレクサンドル殿下と似ていた……と?」


 クスッとステファンは笑う。


「光の乙女のサオリ様には、隠してもしょうがないですよね。……これが僕の本当の姿です」


 ステファンは、左手首にしていたブレスレットの真ん中にある魔石に触れる。

 すると――。ステファンの全身が霧みたいなものに包まれ、別人が現れた。


 思わず沙織は息を呑んだ。


 それは、どう見てもアレクサンドル王太子だったからだ。少しだけ違うのは、王太子より大人びた顔つき。髪色も、金髪でなく漆黒だった。


「本当に、そっくりね」


「でしょう? 普通、気がつきますよね。それに、僕が小さい頃から、誰かが見守ってくれている気配がありました。だから、義父に正直に話してほしいと頼み、全てを聞き出しました。因みに、先程までの僕は……見守ってくれている影の姿を借りています」


 そう言い終わるや否や――。


 スッ……と、さっきまでのステファンと同じ顔した、黒尽くめの人物が現れ横に立つ。そして、沙織に微笑むと直ぐに消えた。

 ステファンはまたブレスレットに触れると、元の姿――黒尽くめの人物と同じ顔になる。


(あ、戻った……いや違う、変身したのか)


「じゃあ、呪いの件も?」


「勿論ですよ」と、ステファンは頷いた。


(そういえば、さっき私を光の乙女って言ってたような……。まだ天職の話は伝えていないのに……え!?)


「ああ、気づかれました? そうです……僕は、悪魔ではなく、最初から本物の光の乙女を呼び出したのですよ」


「……何で、私だったの?」


「それは僕にも。多分、その能力が貴女にはあった……としか」


 ステファンは、肩を竦めた。


「わざと私を呼んだのがあなたなら、帰る方法も知っているのかしら?」

「申し訳ない。それはまだ……」


 沙織の中で、プチッと何かが切れた音がする。

 気づけば、全てを話さなければ協力しないと、ステファンをがっつり脅してしまっていた。


 聞けば、ステファンは――。

 自分のために、光の乙女を呼ぶつもりはなかったそうだ。ステファンは学園に入るまで、呪いも受け入れて延命もしないつもりだった。

 だが、学園でカリーヌに一目惚れしてしまったのだ。


 そして、カリーヌが実弟であるアレクサンドルの婚約者だと知ったステファンは……。優しいカリーヌを遠くから、ただ見守っていられたら充分だと思っていた。


 ――光の乙女を騙るスフィアが現れ、カリーヌを陥れようとするまでは。


 ステファンは、スフィアの陰謀からカリーヌを守って、アレクサンドルとの仲が壊れてしまわないようにしたかった。

 その為には、時間が必要だったのだ。自身の呪いを研究し……本来の、光の乙女の存在に行き着いたのだとか。


「けれど、あの時――。いきなりアレクサンドルとスフィアが、カリーヌ嬢を断罪し始めてしまい……慌ててあの場で、魔法陣を発動してしまったのです。それで本物の光の乙女なら、って」


「で、私があの姿で登場させられたのね」



 

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