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14.帝国軍の解体

「――な、何よこれっ!?」


 イザベラの大声が響いた。


 扉の先にあった筈の部屋は、ほぼ全壊に近い半壊。崩れた床に倒れている、皇帝ヴィルヘルムに――多分、預言者ヨーゼフであったであろう人型の焦げ跡が。


 謁見の間にやって来た、イザベラとサミュエル、ハインリヒは、その惨状に呆然と立ち尽くしていた。




 ――遡ること数分前。


 突然、城を揺るがす轟音が響いた。


 沙織とシュヴァリエを送り出した三人は、急いで外へ出る。そこで、空に現れた青龍を見たのだ。


 咆哮と共に、身を捩って暴れる青龍。そうかと思えば、フッと姿を消し……空は何事も無かったように静まり返った。


 そして、壁が崩れて煙が上がっていた場所へ、慌ててやって来たのだ。




 部屋の中に佇んでいた、沙織とシュヴァリエの姿を見つけると、イザベラは駆け寄ってくる。


「サオリ! 龍の顔の上に、その白いドレス見つけて焦ったわよっ!!」

「あはは……心配かけて、ごめんね」

「本当、無事で良かった!」


 イザベラはギュッと沙織を抱きしめた。


「皇太子殿下、あの青龍は――」


 ハインリヒは、青龍がシュヴァリエであるとわかってはいたが、確認のため状況を尋ねてくる。


「あの青龍は、私自身です。悪魔と契約したヨーゼフと、皇帝陛下によって、罠に嵌められました。ですが――もう二度と、あの力は暴走させません」


「ヨーゼフは、やはり悪魔と……」


 塵一つ残らなかった染みのような焦げ跡が、全てを物語っている。問題は、未だ意識を失っている皇帝ヴィルヘルムをどうするかだった。


「皇帝は、ただ意識を失っているだけです。青龍に捕まった状態で、癒しはかけておきましたから」


 チラッと、沙織は皇帝を見た。


(起きたら、絶対面倒な事になりそうだわ……)


 そもそも、シュヴァリエがどうして青龍になってしまったのかを、沙織は闇に落とされて見ていなかった。

 ただ――あのシュヴァリエの喪失感。ヨーゼフ達が、シュヴァリエに何かをした事だけは理解できた。


「それよりも、今はっ! 帝国軍が城外へ集められています!」


 サミュエルが掴んできた情報によると――。青龍が覚醒したら、皇帝の指揮で青龍と共に、ベネディクト国へ攻め入る準備が進められいたそうだ。


(なんで……青龍を、意のままに操れると思ったのだろう?)


 皇帝が目覚めたら、確かめなければならない。


「ねえ、シュヴァリエ。また、青龍になれる?」

「はい、行きましょう」


 沙織の言いたい事がわかったシュヴァリエは……もう一度、青龍の姿になる。沙織を背に乗せると、天井の無くなった謁見の間から、空へと飛び出した。


「わぁお!! カッコ良いわっ!」と、イザベラは興奮する。


「最初の預言は、本当だったのだな……」

「そうですね。龍王と光の乙女は――救いの神かもしれません」


 ハインリヒとサミュエルは、神託の真意を理解した。




 ◇◇◇




「「「ワーーーーッ!!!」」」


 城の外に集まった何万もの兵士達は、空に現れた青龍に歓喜の雄叫びを上げていた。


 帝国軍の頭上を旋回した青龍は、突如動きを止める。

 そして、金色の瞳は帝国軍を睨み、大きな咆哮を上げた。


『――グオォォ―――ッ!!!』


 ビリビリと空気が震え、一瞬で静寂が広がった。


 兵士達の視線は、青龍に釘付けになる。その青龍の額の上には、白いドレスを靡かせた黒髪の女が立っていた。


『皆の者、お聞きなさい。わたくしは、光の乙女。

悪しき存在は、この龍王が倒しました。

このグリュンデル帝国は、平和を手に入れたのです。

グリュンデルの民よ、武器を置きなさい!

我々と共に、平和の道へ進みましょう!!

皆に祝福の光を!』


 空からキラキラとした光が降り注ぐ。


「「「ワァァァーーーっ!!」」」


 と、またしても歓声が上がる。


 青龍と光の乙女は空を舞い、見えなくなった。





「……こんな感じで良かったかしら?」


 青龍の額の上に乗ったまま、沙織はシュヴァリエに話しかけた。


『はい、素晴らしかったと……。どうやって、声を響かせたのですか? それと、あの光は?』


「ああ、声は拡声器イメージして、空気を振動させたの。あの光は、ただの広範囲の癒しを大量に撒いただけよ」


『…………なるほど』


 シュヴァリエは、沙織の底無しの魔力量に……疑問を持つこと自体が無駄なのだと理解した。




 ◇◇◇




 謁見の間に戻ると――。

 沙織は青龍から飛び降りた。シュヴァリエも元の姿に戻りながら着地する。


 ハインリヒの隣には、意識が戻った皇帝ヴィルヘルムが立っていた。

 ヴィルヘルムは、青龍から人の姿になったシュヴァリエと、空から舞い降りた光の乙女に、神々しいものを感じたのか……跪き頭を垂れた。


「光の乙女、龍王様、私は大変な過ちを犯しました。どうか、私めに罰をお与え下さい」


 突然、謝罪するヴィルヘルムに、沙織とシュヴァリエは戸惑った。思わず、ハインリヒを見る。


「皇帝陛下には、全てをお話し致しました。どうやら、ヨーゼフの黒魔術により、操られていた様です。ヨーゼフは、光の乙女の遺体を餌に、青龍にベネディクト国を襲わせる計画をしていたそうです」


(何その……杜撰で悪趣味な計画。あの悪魔も、ヨーゼフも……やっぱり馬鹿だったのね)


 ハインリヒの言葉に、ヴィルヘルムは首を横に振る。


「確かに……。ヨーゼフを、預言者と認めてからの記憶はとても曖昧です。ですが、エリザベスを生き返らせたいが為に……愚行を重ねて来ました。それは、赦されざる罪です」


 シュヴァリエは、黙ってヴィルヘルムに近付くと、膝をついて話しかけた。


「――父上。もし、罰をと仰るのでしたら、私の願いを叶えてはいただけないでしょうか」


 それから、シュヴァリエは自分の考えを語った。




お読み下さり、ありがとうございます。


改稿で、文章を少し変えてしまいました。

すみませんm(__)m

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