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12.謁見の罠

「私が、礼拝堂付きの侍女として、ヨーゼフ祭司に接近したらどうかしら?」


 それが、一番手っ取り早く近付けると思った。


「……駄目です」

「え? でも。ヨーゼフは、下心ありそうな目で私を見ていたわ」

「……尚更、駄目です」

「服の下の、陣を見るチャンスが」

「……絶対に、駄目です」


(むうぅー……)


 シュヴァリエは、沙織の案を全て却下した。


「サオリ様。ご自分の命が、狙われているのですよ?」

「うっ……そうだけど。闇の力を向こうが使うなら、光の力が役に立つ筈よ?」

「………」


「解ってあげなよー、光の乙女ぇ。男心をさぁ」と、見かねたサミュエルが言った。


(は? ……男心?)


 キョトンとする沙織の横で、シュヴァリエは素知らぬ顔をした。


「……先ずは、皇帝陛下の謁見をどうするかです」とシュヴァリエは言った。


「確かに。いつまでも先延ばしには出来ません。相手の出方を見る為にも、お二人には皇帝陛下に会っていただきたい」


「皇帝陛下は、ベネディクト国の侵略を……どう進めるつもりなのでしょうか? 私とシュヴァリエが離れた、今を狙っているのではないかしら?」


 広範囲結界は、まだ完成していない。沙織の溜めた魔力で、一時的には凌げるかもしれないが、不安は大きい。それよりも、攻め入らせない事が一番良い。


(話が通じる相手だとは、到底思えないけど……)


「罠が仕掛けられている――そう考えて、皇帝に会いましょう! 逃げたって、しょうがないもの」


そう言って腹を括り、沙織はみんなに向かって微笑んだ。




 ◇◇◇




 ――ハインリヒによって、謁見の場は整った。


 当然、沙織は侍女の格好ではなく――。

 イザベラが用意してくれた、光の乙女らしい品の良い綺麗な白の衣装に着替える。黒く長い髪を下ろして、艶が出るよう梳かしてもらう。マリアがほんのり化粧をしてくれると、美しい光の乙女が出来上がった。


「……へぇ! そうやっていると、まるで聖女みたいだね!」


 イザベラが感嘆の声をあげた。


「ありがとう、イザベラ。行ってくるわ!」


 扉を開けると、シュヴァリエとサミュエルが待っていた。制服と侍女服の姿しか見た事がないサミュエルは、明らかに驚いた様子だ。


「……喋らなければ、立派な光の乙女だな」と、照れているのかプイッと横を向く。


「では……サオリ様、行きましょう」


 シュヴァリエは、沙織に手を差し出してエスコートする。


(これが……楽しいパーティーだったら、どんなに良かったことか)


 残念に思いながら、気を引き締めた。




 ――謁見の間の前に着くと、重厚感溢れる大きな扉が開かれた。


 正面の玉座には、皇帝ヴィルヘルムが座っている。

 沙織とシュヴァリエは視線を交わすと、皇帝に向かってお辞儀をし、一歩踏み出した。


 その刹那――足下の床が消え、真っ暗な闇が現れた。


(……罠だっ!)


 そう思った時には、遅かった。シュヴァリエが手を握る間もなく、沙織は落下した。


 エスコートしてくれていた、シュヴァリエと逆側。扉の影に隠れるように、預言者ヨーゼフが不気味な笑みを浮かべ、立っていたのだ。


 ヨーゼフの足下から異様に伸びた影の中に、沙織は引き込まれてるように落ちて行く。


 遠くでシュヴァリエが呼ぶ声が、微かに聞こえた。




 ◇◇◇




 ――ドンっ!と、尻餅をついた。

 

 久しぶりに味わった腰の痛みに、顔を顰める。


「……っ! イタタタ……。もうっ、ここどこよっ!?」


 真っ暗な闇しかない空間だった。沙織はまんまとヨーゼフに、してやられたのだ。


(まさか……こんなに速攻で、罠が用意されていたなんて。悔しいっ)


『……クス、クスクスッ……』


 笑い声らしきものが聞こえた。


「――誰っ!?」


『こ〜んな簡単な罠にかかるなんて、光の乙女なんて大したことないね』


(あー、この感じ……またかぁ。はああぁ……)


『ベリアル様を押し戻したって、使い魔が言ってたけどさぁ。こんなのにしてやられるなんて、ベリアル様もいよいよ世代交代だよね〜』


(この悪魔……ベリアルの部下なのかしら? 大量虐殺とか、やり方はベリアルよりえげつないけど……)


「ねえ、ベリアルより優秀な悪魔さん。ここは魔界?」


『おや? 光の乙女は、意外と分かっているね。僕はベリアル様より優秀なのさ。だからね……この空間は僕がつくったんだよ』


「へぇ。魔界ではなくて、貴方がつくった空間なのね?」


『そっ! だから、この中で……さっさと死んでね。それで、お前の魂を貰うからっ』


 暗闇の中で、黒い渦が巻き上がった。

 沙織は急いで結界を張る。


(つくられた空間なら、無限ではないはずよね……だったら、うんっ)


 バルーンをイメージした光の結界。


(さあ! どんどん大きくなぁーれ!)


 両手を上げて、結界に光の魔力を流し込んでいく。


「さあ、ベリアルの部下さん。私の魔力と貴方の魔力、どちらが多いか力比べね!」


『……なっ!! そんな、馬鹿なっ!?』


 シュウゥ……と光は黒い渦をあっと言う間に打ち消して行く。そして、更に結界は膨らみ続ける。


 闇の空間には、やはり限界があったようだ。


 空間の壁と結界に間に、悪魔は挟まれた。光の魔力が悪魔を呑み込むと……断末魔の叫びと共に悪魔は消滅し、バリンッと闇の空間が砕け散った。


(ふぅ。大した悪魔じゃなくて良かったわ)


 そして、光の結界に包まれたまま……沙織は謁見の間に戻ってきた。

 結界を消してヨーゼフを睨む。


「――なっ、何故だぁっ!?」


 沙織を見て叫んだヨーゼフのお腹から……火が出ていた。


 多分、そこに黒魔術の陣を彫っていたのだろう。悪魔が消えた今、ヨーゼフは失敗し道連れにされる。それはもう……誰にも止められない。


(そうだ! シュヴァリエはっ?)


 シュヴァリエの姿を探して玉座の方を見ると――。


 そこには、ぐったりとした皇帝ヴィルヘルムを前足で掴んで宙に浮く……青龍が居た。




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