表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/80

11.全ての発端

 ハインリヒの前には、シュヴァリエ、サミュエル、イザベラ、侍女姿の沙織がテーブルを囲むように座っている。


「貴女が、光の乙女……サオリ様ですね。何故、その様な格好をされているのでしょうか?」


 真面目な顔つきで、至極当然の質問をされてしまった。


「どうぞお構いなく。ただ、気に入っているだけですので。何なら、エミリーと呼んでください」


 沙織的には気にしなくていいと、伝えたかっただけなのだが。


「「「………」」」


 イザベラ以外、微妙な顔をしている。


「……では、光の乙女。此度の件について、ご協力を願いたく、皇帝陛下の計画をお話し致します」


 この国の皇帝は、代々――龍の血を引く者が、その座に着くのだとはハインリヒは言った。

 血が濃い者は、シュヴァリエのように痣が現れたり、龍のような瞳を持つ者も現れるそうだ。


 シュヴァリエの母親は、ハインリヒ王の姉。エリザベス皇妃。シュヴァリエを産んだ直後に亡くなられたのだと。

 龍の血を濃く受け継ぐ子を産むのは……普通の人間には相当な負担がかかるらしい。


 そのため、エリザベスをとても愛していた皇帝ヴィルヘルムは、嘆き悲しみ……エリザベスを、生き返らせる方法を探したそうだ。


 そんな時――。


 当時の祭司である預言者が、『ベネディクト国で、いつか光の乙女が召喚され、龍の血を引く皇太子が龍王として覚醒する』と神託を伝えた。


 それを、ヴィルヘルムは……龍王ならば、エリザベスを生き返らせられるのではないかと、勝手に思い込んでしまった。そして、幼い息子をベネディクト国へやったのだ。


 預言者は、亡くなった者を生き返らせるのは不可能だと言ったが、皇帝は受け入れなかったそうだ。

 そんな時、皇帝の前に現れたのが祭司の弟子の一人、ヨーゼフだった。ヨーゼフは皇帝に取り入り、師である祭司の預言者の地位を奪い取った。


 ――そこから全てが一変した。


 皇帝は、他の国への侵略をどんどん進め、犠牲者も増え多くの血が流れた。


 そして、最近。またも、ヨーゼフから預言が伝えられた。


『光の乙女を殺すことで龍王は復活し、ベネディクト国民の命と引き換えにエリザベスは生き返る』


 そう、神の言葉があったと。


(皇帝は、狂っている……)


 この国の真実。皇帝が、進めようとしている虐殺計画。沙織の背中に冷たいものが流れる。

 それを初めて聞かされたイザベラも青ざめた。


「私は皇妃であった……姉の為にも。姉が残した子供の為にも、皇帝陛下を止めたいのです」


 だから、皇太子と光の乙女を皇帝に差し出す前に、此処へ呼んだのだそうだ。信頼している、自身の子供達を使って。


「それで――サミュエルとシュヴァリエは、礼拝堂を探っていたのですね?」


「はい。ヨーゼフの預言が、神託によるものだとは到底考え難いのです。先の預言者とは、内容が違い過ぎていて。寧ろ、犠牲者を増やそうとしている。神よりも……悪魔のような」


 ハインリヒの言葉に沙織は――。

「黒魔術」と口をついて出てしまう。


 ステファンの母エーヴが呼び出してしまった、悪魔ベリアルを思い出す。

 もしかしたら、大量虐殺で多くの魂を得ようとするベリアルよりもタチの悪い悪魔と、ヨーゼフは契約しているのかもしれない。


「どうすれば、皇帝陛下を止められるのかしら……。シュヴァリエは、本当に龍王になってしまうのですか?」


「……分かりません。ただ、龍王の覚醒については、本物の神託だった筈です」


(……うーん)


 行き詰まってしまった。すると。


「礼拝堂には、黒魔術らしき痕跡は何も見当りませんでした」


 さっきの沙織の呟きが聞こえていたのか、サミュエルが言った。あの時の不審な動きは、それを調べていたのだ。


(黒魔術……黒……。悪魔……ん?)


「――んぁ、あああー……っ!!」


「ど、どうしたっ!? 大丈夫か、サオリ!」


 イザベラが驚いて沙織に声をかけ、肩を掴んで揺さぶった。


「思いだしたの! ヨーゼフ祭司の足下の影!」

「……影??」


 一斉に視線が沙織に集まる。


「ヨーゼフ祭司の影が、不自然に動いたのを見たのです! 確かに、足は止まっていたのに。影だけブルブル……って! 影の中に何かが潜むことって……そんな事ありますか?」


「――有り得ます」


 答えたのは、魔術師であるサミュエルだった。


「影から闇へと繋がっているのかもしれません。もしかしたら……契約の陣を、己の身体に彫っている可能性も考えられます」


 それならば、礼拝堂をいくら探しても見つからない筈だ。


(あれ?)


 何かが、まだ引っかかる。


「あの、ハインリヒ殿下。この国に伝わる龍の血……。元となる龍って、何なのですか?」


「今では、伝説となってしまいましたが。青龍とは――我が国の守り神のことです」


「守り神……。もしも、本当にヨーゼフ祭司が悪魔と契約していたら、守り神の復活を望みますか?」


「………た、確かに! もし、それが事実であれば。龍王を復活させない方が、都合が良いのではないでしょうか」


 ハインリヒの言葉が、答えのような気がした。


「父上の仰る通りなら。光の乙女を殺すことは……。龍王を復活させないための手段――という事ですね」


「じゃあ、絶対にサオリを守らなきゃ! ヨーゼフの思い通りになんて、させるもんですかっ!」


 俄然イザベラはヤル気になった。

 だが、沙織は却って不安になってしまう。


(シュヴァリエが龍王になってしまったら、今のシュヴァリエはどうなるの?)


 そんな不安な気持ちを払拭するように、シュヴァリエの手を握った。シュヴァリエ自身も、それは同じ気持ちなのか……沙織の手を強く握り返す。


 沙織は大切な人達を思い浮かべる。


(とにかく、絶対に! シュヴァリエもベネディクト国のみんなも守ってみせる!)


 ――そう心に誓った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ