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10.再会

(一体……シュヴァリエは、どこに居るのかしら?)


 沙織はこっそりと城の中を見て回ったが、シュヴァリエを見つけることは出来なかった。


 何食わぬ顔でイザベラの部屋に戻ると――。品の良い、タイトドレス姿のイザベラが待っていた。武装している時とは、まるで別人。美しかった。


「イザベラ、そのドレス……とっても、良く似合っているわ!」


「ありがとう、サオリ。でもねぇ……動き難いのよ、これ」と肩を竦める。


 イザベラは王に会いに行くのだからと、侍女達に無理矢理着替えさせられたらしい。

 さっき、たまたまヨーゼフと会ったことを伝えると、イザベラは顔を顰めた。


「ああ、ヨーゼフ祭司ねぇ。預言者として陛下は気に入っているから、大きな顔してるけど……私は大嫌い。なんか、下心ありそうで聖職者らしくない」


「ええ、私もそう感じたわ……。預言者って?」


(預言……? 予言とは何か違うのかしら?)


「うーん……よく分からないけど。何でも霊感があって、神からの言葉を聞いて伝える人――みたいな」


「神からの言葉? 」


(つまり、御告げってこと? だとしても……)


 あんな聖職者らしからぬ眼をした人間が、本当に神の言葉なんて聞けるのだろうかと、疑問が残る。


(あの顔……神様より悪魔の方がよっぽど似合いそうだわ。ん? いや、まさかねぇ……)


 ベリアル――そんな、名前が沙織の頭を掠める。

 有り得ないと思いつつ、ヨーゼフの足下の影の変な動きが引っかかった。


「ねぇ、イザベラ。王に会いに行く前にもう一度、礼拝堂を見てきてもいいかしら?」


「うん、わかった。サオリの好きにすると良いわ」


「ありがとう!」


 お礼を言うと、沙織は急いで部屋を飛び出した。


 侍女姿のまま一瞬で姿を消した沙織に、イザベラは瞠目し、ヒューッと口笛を吹く。


「何、今の!? やっぱり、サオリって面白い!」




 ◇◇◇




 沙織は予め、目星をつけておいた場所へ向かう。


 礼拝堂の周りに生えている大木に登り、太い枝の上に移動した。葉に隠れるように、天窓から礼拝堂の中の様子を窺う。


 一見、何の変哲もない礼拝堂。


 ヨーゼフの姿は見えない。まだ、城の方に居るのかもしれないと、少し待つことにした。

 中では白の衣服を着た者が、行ったり来たりと何かしているのが見える。


(ん? 何か探し物をしているみたいだわ)


 視力を強化して、更に食い入るように見る。どうやら、床や壁を調べている様だった。


(あの男の人、どこかで見たような)


 身を乗り出した瞬間、口を塞がれた――。


「ぅぐっ………!?」


(しまった! 油断したっ!)


『……此処で、何をしている?』


 殺気を含んだ、冷ややかな声が背後から聞こえた。



 ――ドクンッ!!



 ずっと……聞きたかったその声に、沙織の心臓が大きく鳴った。


(……シュヴァリエ!)


 苦しさも、自分に向いている殺気さえも気にならない。自然と涙が溢れて、口を塞いでいる手に流れて行く。その逞しい手に、震える自分の手をそっと重ねた。


 その触れられた手の感触に、背後の人間は――ビクッと微かに動く。


「――!? ……サ……オリ様?」


 ドクンと、もう一度心臓が鳴る。

 口元の手が緩むと、振り向き……シュヴァリエの胸に飛び込んだ。沙織の動きに枝が揺れる。


「シュヴァリエ、やっと、会えた……」


 小さな声で呟くと。もう離さないとばかりに、シュヴァリエの背中に回した手に力を入れた。


「……サオリ様、どうして此処へ?」


 シュヴァリエの戸惑いの声が、耳元で聞こえる。


「……シュヴァリエを探しに」

「私は……帝国の人間です」

「知ってる」

「それならば! どうして来たのですかっ……貴女も狙われているのにっ」

「それも、知ってる。……でもっ!」


 シュヴァリエから身体を離して、正面から見つめる。


「私は……シュヴァリエが好き。ずっと一緒にいたいの!」


 そう。シュヴァリエが好き――沙織の中で、何がストンと落ちた。


「…………!!」


 目を見開き、信じられといった表情でシュヴァリエは沙織を見下ろす。今にも泣き出しそうに……顔を歪めた。


 ――次の瞬間、沙織はシュヴァリエの腕の中だった。


 狭い枝の上、木の幹に寄りかかるシュヴァリエ腕に包まれる。聞こえるのは葉擦れの音と、二人の鼓動と息遣い。


「サオリ様……愛しています」


 震える声でシュヴァリエは言った。




 ◇◇◇




 ――どの位、そうしていただろうか。



「……うぉっほん!!」


 と、木の真下から咳払いが聞こえた。


 ハッとして下を見ると――。

 さっきまで、礼拝堂をうろちょろ探っていた白い服装の人物が、こちらを見上げていた。


(あっ!)


 その人物は、変装したサミュエルだった。


 シュヴァリエは沙織を抱き抱えると、木から飛び降り、素早く人の目につかない場所へと移動した。慌てて追いかけて来たサミュエルは、侍女の格好をした沙織を見て唖然としている。


「なっ……何故、貴女が此処に居るのです!?」


 未だ、沙織が光の乙女と知らないサミュエルは、ぷりぷりしながら問い質そうとした。まだ、魔力で負けたのを根に持っているようだ。


 シュヴァリエが、スッと沙織の前に立った。


「サミュエル、失礼な態度は許さない。サオリ様こそが、光の乙女だ」


「……え? ぅ……ぇえええ!!?」


 サミュエルは、驚愕の事実を知り項垂れた。


「光の乙女って、もっと清楚なイメージが……道理で、敵わない筈だ」


(今……思いっきり、失礼なことを言われた気がするわ)


 もの凄くガッカリしているサミュエルに、沙織は何だか腑に落ちないものを感じた。





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