表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/80

8.シュヴァリエとサミュエル

お読みいただき、ありがとうございます!

誤字脱字報告も、とても感謝しておりますm(_ _)m

一日二話ペースになってしまいました。気ままな投稿で、すみません。


今回は、シュヴァリエ視点で少し時間が戻ります。


 ――時は少し遡る。


 シュヴァリエは、ステファンの部屋へ向かう前に、地下牢のサミュエルに会いに行った。


 サミュエルは、静寂の中……これからの策を一人考えていた。

 手枷を見ると、昼間の失態を思い出して腹が立つ。そう、自分自身に。失敗するなんて有り得ないと、高を括っていたことを後悔している。


「くそっ!」と、硬い床に拳をぶつけた時――。


 誰も居ない筈の、鉄格子の前に人影が現れた。


「……誰だ?」


 薄暗い地下牢の中、サミュエルは目を凝らす。段々と近付いてくる人影が、昼間サミュエルを捕らえた青い髪の男だと判った。


「何の用だっ」


 ぶっきらぼうに問い掛けると、男は抑揚のないトーンで話し出す。


「青い痣の人間を、何故探している?」


 サミュエルは怪訝そうにシュヴァリエを見た。


「それはもう、おっかない公爵様に話した」

「それだけでは、ないだろう?」

「…………。それは、本人にしか話さない」


 真っ直ぐにシュヴァリエを見つめる、サミュエルの目には揺るがない意志があった。

 シュヴァリエは、肩のボタンを外し衣服を下げると、自身の左肩を見せた。


「……っな! その痣は、まさかっ!?」


 サミュエルは息を呑んだ。


 ベネディクト国側に伝えた鱗状の青い痣。

 本当は龍の鱗の形をした、緑がかった青の痣。シュヴァリエの肩にあったのは、本物のそれだった。


 服を戻して、サミュエルを見据える。


「……さあ、話してもらおう」


 シュヴァリエの言葉に、サミュエルは跪き頭を垂れた。


「皇太子殿下、今までのご無礼をお許しください。全て、お話し致します」


(………!?)



 全てを聞いたシュヴァリエは、光の乙女には手を出さないという条件で、帝国へ行く事を決めた。


 光の乙女を捕らえられなかったイザベラは、戻ったら処分される可能性がある。サミュエルは、姉であるイザベラを、此処で捕らえたままにしてほしいと言った。


 互いの望みは一致したのだ。


 それから、ステファンの元へ行くと……ある程度まで報告し、サミュエルと共に帝国へ向かいたいと願い出た。


 勿論、沙織には伝えないように頼んで。




 ◇◇◇




 シュヴァリエは野営の仮眠中、夢を見た。

 ――ハッとして目を覚ます。


「……殿下? どうかされましたか?」


 交代で火を守っていた、サミュエルが声をかけてくる。


(殿下……か、慣れない呼ばれ方だ)


「いや、何でもない。交代する」


 パチパチと薪が爆ぜ、火の粉が飛ぶのを見ながら、シュヴァリエは夢のことを考えた。


 物心が付いた時から、見続けていた夢――。


 何処か分からない暗闇の中に、いつも佇んでいた。

 恐怖、憎悪、不安……自分が自分でなくなる感覚に襲われる。その何かから逃げようとするが、ずっと追いかけてくるのだ。希望の光が見えるが……掴もうとしても、すぐに消えてしまう。そんな繰り返しの夢だった。


 だが最近は、その夢を見なくなっていた。


(あぁ、そうだ……。サオリ様と出会ってから、いつの間にか見なくなっていた)


 リュカとなって、沙織に――シュヴァリエという影ではない、一人の人間としての存在を認めてもらった。そこから、何かが変わったのだ。


(あの時……)


 久しぶりにちゃんと眠れたのは、沙織の膝の上だった。

 自分の手をジッと凝視する。いつかの、沙織の手の感触を思い出す。あの手を離したくなかった ……と。


(皇帝ヴィルヘルム。光の乙女――サオリ様だけには、絶対に手出しはさせない)




 いつの間にか、空はうっすら白みはじめていた。


 サミュエルとシュヴァリエは、早々に支度を終えて帝国へ向け出発する。

 森を抜け、かなりの距離を馬で走ると、徐々に潮の香りがしてきた。耳を澄ませば、波の音も聞こえる。サミュエルが前もって準備しておいた、転移陣が描かれた場所に着いたようだ。


「此処から、海を渡らずに帝国まで転移します」


 そう言うと転移陣を発動させ、シュヴァリエとサミュエルは馬ごと城へ転移した。


 着いた先は城の裏手なのか、人目には触れなさそうな場所だった。

 サミュエルはシュヴァリエに声を立てないよう言うと、隠し通路を進んで行く。皇帝に知られないように、先ずは王の所へシュヴァリエを連れて行き、皇帝の計画を伝える手筈になっているのだ。


 目的の部屋へと着いたのか、サミュエルが振り返り、「こちらになります」と扉を開けた。


 薄暗かった通路と違い、明るい部屋にシュヴァリエは目を細める。


「父上、シュヴァリエ皇太子殿下をお連れしました」


 声をかけられたのは、薄茶色の髪を後ろに撫でつけた男。王と呼ばれるのが相応しそうな、気品溢れる人物だった。


「皇太子殿下、ようこそお越しくださいました」


 シュヴァリエはハインリヒ王によって、皇帝ヴィルヘルムの恐ろしい計画を知らされた。サミュエルも知らされていなかったのか、目を見開き固唾を呑んで聞いている。


 ハインリヒが、信用に値する人物なのか――。それはまだ、分からない。ただ、皇帝の計画が本当なら、沙織の命とベネディクト国が危ない。

 シュヴァリエはグッと拳を握りしめる。


「わかりました。ハインリヒ王、貴方に協力致します」


 覚悟を決めて、返事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ