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7.好きかもイザベラ

「いいわ。全てが終わったら、サオリと対戦できるならね」


 イザベラは、沙織達の提案をすんなり受け入れた。


 もともとイザベラとサミュエルは、光の乙女と青い痣の持ち主を、帝国に連れて行かなければならなかった。その対象の方から、帝国に出向く。正に渡りに船の申し出を、断る理由はない。


「では、イザベラ。契約紋を入れさせてもらいます」

「ああ、構わない」


 複雑な気持ちで、それを見ていた。

 以前、アレクサンドルも契約紋を望んだ事があった。


(いくら、後から解除出来るといっても……)


 ステファンは、イザベラに沙織を託すにあたり、契約紋は絶対条件で一歩も引かなかった。途中で裏切るかもしれない……そんなリスクは、何を置いても無くしておきたかったのだ。


「それにしても! まさか、あんたが光の乙女だったとはねぇ」

「イザベラさん、よろしくお願いします」

「イザベラでいいよ。私もサオリって呼ばせてもらうから」


 美人で筋肉質……ニカッと笑う表情は、まるで友人のオリヴァーを彷彿とさせる。


(……なんか、イザベラって人柄は悪くないのかも)


 帝国までの道のりは長い為、ステファンは様々な魔道具を用意してくれた。その辺は王太子になった今でも変わらない、さすが元天才魔導師だ。野営用の便利アイテムは、かなりのハイグレードな物だった。


 そして、イザベラとサミュエルが予定していた、最短ルートで沙織は帝国へと向かうことになった。




 ◇◇◇




 王国から少し南西に行った森の奥、そこにイザベラとサミュエルは自国の服や装備を隠していた。

 更にもう少し先へ行った安全な場所に、馬も繋いであるらしい。


「ちょっと待ってて、着替えるから」


 そう言うと、イザベラは制服を脱いで装備を整える。その姿を見て、ビックリした。


「ねぇ、イザベラって騎士なの?」


 ガシャリ……と、イザベラはいとも軽そうに、大剣を背負った。


「ん? 騎士じゃないわよ。まあ、馬も乗るけどね。私のことは戦士と呼んで。そっちの方がカッコいいでしょ? 体術も好きだけど、剣の方が得意なのよ!」


「カッコいいから……戦士?」


 思わずポカンとする。

 剣が好きと言うわりに、学園に忍び込んだ時は剣を持っていなかった。不思議に思い尋ねてみる。


「あの時、どうして剣を持っていなかったの?」


「そりゃ、女、子供に剣は向けないわよ! 素手で十分……あ、サオリには一敗しちゃったけどね。あー、あの侍女も中々だったわよ!」


 あはは!と、イザベラは豪快に笑う。

 そんなイザベラに、好感を持てた。


(戦士イザベラ……うん、お友達になれそうだわっ)


 沙織の乗馬の上達具合はさておき、残されていた馬は一頭だ。沙織は当然、イザベラの前に乗せてもらうことになる。


 それから、結構な距離を走った。



 ある程度の所まで行くと、今夜はそこで野営をすることになった。

 ステファンが、準備してくれた魔道具でテントを出して、その周りに結界を張る。簡単な夕食を取りながら、色々な話をした。


(昨日の敵は今日の友……って感じね)


「ところで……。帝国の誰が私達を探しているの?」


 教えてもらえないかもしれないが、一応聞いてみる。


(どうせ、行けば分かる事だけど)


「ああ、王の命令よ」


 スープを飲みながら、イザベラはあっさり言った。


「……王?」


 確かに、サミュエルとイザベラは皇帝の命を受けて動くと言っていた。


 光の乙女という天職をもつ人間は、珍しい存在であり、国に居たら重宝するだろう。ならば、青い痣の人間には……何の役割があるのか気になった。


「青い痣の持ち主は、帝国にとってどんな存在なの?」

「帝国にとって? ただの皇太子よ」

「……ぇえ!? 王の息子ってこと?」


 沙織が驚いて聞き返すと、イザベラは首を横に振った。


「違うわ。皇帝陛下の息子よ。で! 王の息子はサミュエルで……娘が、わ・た・し!」


「……ぇええええええ!?」


 色々に驚き過ぎて、口をパクパクさせるが言葉が出てこない。

 沙織の反応に、イザベラはゲラゲラ笑う。

 サミュエルは、イザベラの弟だった。カリーヌとミシェル姉弟とは、全くタイプの違う姉弟だと……しみじみ思った。


「帝国のトップは、皇帝陛下だから……青い痣を持った皇太子は、次期皇帝になる方よ」

「シュヴァリエが……次期皇帝?」


 イザベラは、グリュンデル帝国について何も知らない沙織に、ざっくりと説明する。


 グリュンデル帝国は、皇帝ヴィルヘルムの下に数人の王が居るらしい。

 王とは、皇帝が選んだ各領地の長みたいな存在で、イザベラとサミュエルの父……ハインリヒ王は皇帝の義弟で、他の王よりも皇帝に近い存在だった。


 そうは言っても、帝国はヴィルヘルムの独裁国家みたいものだ。選帝侯も居るらしいが……殆ど意味をなさないらしい。


(そんな独裁者のような皇帝が、本当にシュヴァリエを皇太子として迎え入れるのかしら……? そもそも、何でシュヴァリエはベネディクト国で育ったの?)


 疑問だらけだった。


(あれ?)


 ふと、気になったことを訊く。


「ねえ。イザベラとサミュエルは、そんなに重要な事を知っているのに。お義父様の尋問で……よく話さなかったわね?」


 と首を傾げる。


「ああ、そりゃあ一応は、帝国の王の子供ですからねっ。万が一の時でも、絶対に漏らしたら不味いことは口にしないわ。たとえ……死んでもね」


 イザベラの当たり前のような言い方に、常に覚悟を決めている戦士の一面を見た。


 

 ――その夜。


 嫌な予感が頭を駆け巡り、沙織はなかなか寝つけなかった。



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