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6.消えたシュヴァリエ

本日2話目の投稿です。

 沙織は急いで研究室に転移したが……。やはり、そこには誰も居なかった。


 転移陣の上に立つと、ちょうど正面にシュヴァリエが仕事をする机が見える。

 今までだったら沙織が転移して来ると……顔を上げたシュヴァリエと、目が合った。


『……サオリ様、今日はどうされたのですか?』


 いつもの優しいトーンで掛けられる声が無い。


 ――ズキンッ!


(胸が痛い……。シュヴァリエ、どうして?)


 俯いてしまいそうな気持ちをグッと堪え、顔を上げる。


(勝手に消えてしまうなんて……。絶対、見つけて文句言ってやるんだから!)


 前を向いた沙織は、ズンズンと歩を進めてステファンの部屋を目指す。


「――ステファン様っ!」


 勢いよく扉を開けて声をかける。公爵令嬢としてあり得ない作法。もう、礼儀もへったくれもない。


「……サオリ様。来てくれたのですね」

「シュヴァリエは、どうしてっ……」


 訊きたい事はたくさんある。なのに、喉が狭まったように言葉に詰まってしまう。

 そんな、沙織にステファンは話し始めた。


「昨夜、シュヴァリエから報告がありました。帝国が探している青い痣の人間は、自分ではないかと。確かに、シュヴァリエの左肩には――魔術師サミュエルの言った通りの、痣がありました」


 シュヴァリエは、ステファンにその青い痣を見せたそうだ。それは、普通の痣とは違う、確かに鱗のような模様だっとステファンは言った。


 ゴクリと、唾を呑んだ。


「どうやらその痣は、昔からあったようです。つまり、シュヴァリエは……帝国の人間かもしれないと。此処に自分が居る事で、帝国がベネディクト国に攻め入るきっかけを作るのではないかと――そうシュヴァリエは言いました」


「そんなこと! まだ、分からないじゃないですか!」


 沙織の言い分にステファンも頷いた。


「僕も、そう言いました。ですが、帝国の人間が宮廷に入り込んだことも事実です」


「……でもっ!」


「サオリ様……。帝国側は、青い痣の持ち主と光の乙女の両方を手に入れようとしているのです。ですから、シュヴァリエは――自分が帝国を探るので、光の乙女を守ってほしいと」


 ステファンの言いたい事が理解できた。


「……シュヴァリエは、私を守ろうと?」


 ステファンは首肯する。

 沙織は、心臓を掴まれたかのように苦しくなった。


「シュヴァリエは……どんな事があっても、自分が帝国をどうにかすると言いました」


「何を……言っているのシュヴァリエは? あんな国を一人でなんて、無謀過ぎる!」


「シュヴァリエなりに、何か考えがあるようでした。そして、魔術師サミュエルを案内役に帝国へ向かったのです」


 シュヴァリエは、この国と沙織を守りたくて、たった一人でグリュンデル帝国へ乗り込んで行ったのだ。


(たぶん……シュヴァリエは)


 沙織がシュヴァリエを追うことを望んでいない。むしろ、来てほしくないのだろう。充分わかっているが、それでも訴えるようにステファンの顔を見た。


 ふぅっ……と、ステファンは息を吐いた。


「この件は――絶対に、サオリ様に伝えないでほしいと、言われました」


(……やっぱりっ!)


「ですが、僕は。光の乙女が関わっている時点で……どうするかを決めるのは、サオリ様ご自身だと考えました。サオリ様が、ご家族とこの国を大切に思ってくれていることは知っています。そこで――。サオリ様の理解者で、養父でもあるアーレンハイム公爵に、この件を伝えるかはお任せしました」


 ステファンは、この件に沙織を関わらせて良いのか、かなり迷ったのだ。だから、敢えてガブリエルに連絡し判断を委ねた。


(……お義父様、ありがとう)


「私はっ! 私の意志で、シュヴァリエを連れ戻します。そして、グリュンデル帝国なんかに……大切な人々が居るこの国に、決して手出しはさせません!!」


 キッパリ言い切ると、ステファンは跪く。


「光の乙女、サオリ・アーレンハイム様。どうか、我がベネディクト国とシュヴァリエをお救いください」


「はい!」と沙織は返事した。




 ◇◇◇




 帝国への案内は、もう一人の帝国から来た人物――イザベラにしてもらう事に決めた。


 沙織とステファンは、地下牢のイザベラに会いに行く。

 どんな思想の人物かによって、交渉も難しくなるかもしれない。戦った時とは違う緊張感で、収容されている牢に近付いた。


「――ふんっふんっ! ふーんっ! ふっふっ……!」


 なんだか嫌な予感がした。


(……この息遣いは、もしや。あー、やっぱり超筋トレしてる)


 牢の中ではイザベラが、本気の筋トレで汗だくになっていた。しかも、フォンテーヌ魔法学園の制服姿のままで……。


((うわぁ〜))


 思わず、沙織とステファンは顔を見合わせるが……意を決して、声をかけた。


「イザベラさん、ちょっとお話よろしいですか?」


「ん?」と筋トレをストップし、こちらを向くと目を輝かせた。


「あんた、あの時の! えぇ〜と、あ、サオリだ! やっと、対戦する気になったのねっ!」


(……そうよね。そう来るよねぇ……)


「イザベラさん、今日は違うお話で来ました」


「はあ?」とイザベラは怪訝そうな顔をする。


「実は、貴女のお仲間のサミュエルさんと、青い痣の者が一緒に帝国へ向かいました」


「へぇ! サミュエルもここから逃げるなんて、やるわねー!」


「違います! 逃げたのではないのです。青い痣の者の案内で行ったのです」


「は? え、どういう事だ?」


 さっぱり理解出来ないイザベラに、沙織とステファンは交渉を始めた。





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