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5.青い痣の人物

お読みいただき

ありがとうございますm(_ _)m


後半は、ガブリエルの視点になります。

 ――ドサッ!!


 突然、魔術師が収容されている隣の牢に、意識を失ったままの女が転移されて来た。


「流石、サオリ様……早かったですね」

「どうやら……癒しもかけてあるようですな」


 ステファンとガブリエルは、沙織達がカリーヌを無事救出したことを推測すると安堵した。


「殿下、サオリのことです……研究室にカリーヌを連れて来ているでしょう。後は私が尋問致します。会いに行ってやって下さい」


「……アーレンハイム公爵、感謝します」


 ステファンが地下牢を後にすると、ガブリエルはチラリと女を見てから、魔術師に視線を戻す。


「では、もう少し話をしようじゃないか?」


 ガブリエルは、冷たさを増した瞳に美しい笑みを浮かべて、帝国の魔術師を見おろした。




 ◇◇◇




 ガブリエルの尋問により、魔術師はサミュエル、戦闘系女はイザベラ、皇帝からの依頼を受ける、帝国の中でも本当に上層部の人間だったと判明した。

 だから、失敗するとは想定されていなかったそうだ。このベネディクト国を、相当甘く見ていたらしい。


 そして、探していた青い痣の人間は、帝国の重要人物だという事だけは分かった。


(帝国の重要人物って……そんな人が何でこの国に居るのかしら? もしかして、スパイ……とか? まさかねぇ)


「……それで、あの二人はどうなるのかしら?」


 そう、シュヴァリエに向かって尋ねる。


 今日もまた、沙織は研究室へやって来ていた。

 学園に侵入者があった件を、学園側と国王が重く受け止め、防犯対策等を徹底する為に学園は数日間の休校となったのだ。


「今のところは、何とも……。アーレンハイム公爵とステファン殿下には、何かお考えがあるのだと思います」


 サミュエルとイザベラが別行動していたのには、何か理由があったのだろうが。二人は今、離れた牢に入れられているため相談などは不可能だ。


「ただ……。あのイザベラと言う女は、()()サオリ様を気に入ってしまったそうで――日々、サオリ様との対戦を希望しているそうです」


「は? 対戦て……。気に入ってもらっても、あまり嬉しくないわよ、それ」


 顔を顰めると、シュヴァリエは苦笑する。


「勿論、あの二人には。サオリ様が、光の乙女だと伝えてはおりませんが。……くれぐれもお気をつけください」

「分かったわ。また、青い痣の人間について、何か進展があったら教えてね!」


 そう沙織は言い残すと、寮へ向かって転移した。




 沙織が消えたばかりの転移陣を――シュヴァリエは名残惜しそうに、ジッと見詰めていた。


「鱗状の、青い痣……」


 何とも言えない不安を抱え、自分の左肩をギュッと掴んだ。


 ――そして、シュヴァリエはステファンのもとへ向かった。




 ◇◇◇




 沙織は寮へ戻ると、そのままアーレンハイム邸に転移した。


 カリーヌはミシェルと、あの後すぐにアーレンハイム邸に帰っていたからだ。安全面もあるが、ガブリエルがカリーヌの気持ちに配慮し、休みの間……少し寮を離れるよう提案したのだ。


 ガブリエル自身も、早めに公爵邸に帰っていた。多少の無理はしたようだが、問題ないと言っていた。


 久しぶりに、みんな揃って食事を楽しんだり、沙織のピアノ演奏を聴いたりと、和やかな時間を過ごす。


「カリーヌ様、卒業式のダンスパーティーの――」


 と沙織が言いかけると、ミシェルの眉がピクリッと動く。

 沙織は、そんなミシェルの様子に全く気づかず話し出す。


「ダンスパーティーのドレス、いかがしましょうか? ふふっ、また何か一部をお揃いにしませんか?」


「素敵ですわ! 前の髪飾りも、とっても可愛らしくて……。他にも、色々考えてみましょう! ふふふっ、楽しみですわ」


 女子トークで盛り上がる沙織とカリーヌを、ガブリエルは微笑ましく眺めていた。

 未だ、エスコートの相手を決めていない沙織に、ミシェルの方は少し複雑な表情だ。



 そんな中、執事が慌ててやって来ると、ガブリエルひそっと耳打ちした。どうやら、宮廷から急ぎの連絡が来た様だった。


 どうしたものかと、暫くガブリエルは考えていたが。迷った末、執事に後で沙織を執務室に連れてくるよう伝えた。




 ◇◇◇




 執務室にやって来た沙織の表情は、不安に満ちていた。妙な所で勘が働く沙織は、何かを察したのかもしれない。


「お義父様? ……宮廷で、何かあったのですか?」

「サオリ、落ち着いて聞きなさい」

「は、はい」

「……シュヴァリエが。帝国の魔術師サミュエルを連れて、消えたそうだ」


「……え?」


「どうやら、例の青い痣の人間はシュヴァリエだと……サオリ?」


 心配になり、沙織の顔を覗き込んだ。その表情をみた瞬間――ガブリエルは息を呑む。


 沙織が()()心から求めているのか、わかってしまった。


 ガブリエルは何とも言えない心情で、沙織が悲痛な面持ちで黙って流す涙を、そっと手で拭うとせグイッと沙織を抱き寄せた。


「……サオリ。そんな顔をしないでおくれ」


「……お義父様……私。この感情が何か、分からないのです。ただ、シュヴァリエが消えたと聞いたら、胸が潰れてしまいそうな程苦しくて……苦しくて、勝手に涙が出てくるのです」


 ガブリエルの腕の中で、沙織は震えながら涙を零す。


「そうか……やはり、シュヴァリエのことが。いいかい、サオリ。その感情が何かは、サオリ自身が答えを見つけ出さなければいけないよ」


 沙織から抱きしめていた腕を解き、ガブリエルは少し屈んで目を合わせる。


「……私、自身が……見つける?」


「ああ、そうだ。シュヴァリエが、この国を裏切ったと思うかい?」


 沙織は首を横に振る。


「……いいえ。シュヴァリエは! この国の為に命をかけることはあっても、裏切る事は絶対にしません!」


 瞳に輝きが戻った沙織に、ガブリエルは微笑みかける。


「サオリ、ステファン殿下に会いに行きなさい。シュヴァリエなら、殿下に何か伝えている筈だよ」


 沙織はガブリエルにお礼を言い、部屋を飛び出して宮廷に向かった。



(さて……)


 開かれた扉の陰には、沙織との話を立ち聞きをしていた……切なそうな表情のミシェルが居た。


「……ミシェル」と声をかける。


「父上っ……どうして、行かせてしまったのですか? もし、シュヴァリエに何あったら……サオリ姉様はっ!」


「ミシェル。私とてサオリを行かせたくなかった。だが、あんな顔を見てしまったらな……。サオリにはシュヴァリエが必要なようだ。何かあったら、その時は――私たち家族で、サオリを支えよう」


「……分かりました。その時は……父上、抜け駆けは無しですよ」


 ミシェルは長い睫毛を振るわせ、絞り出すように言う。


 ガブリエルは成長した息子の頭をポンポンと撫でた。



誤字脱字報告、とても助かっております。

いつも、ありがとうございます!

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