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4.帝国の魔術師

 帝国からの、不法入国イケメンに逃げられないよう、魔力封じの手枷に新たな機能を付与して填めた。


 茶髪の美青年は、帝国が誇る上位魔術師らしい。自称だけれど。

 沙織は今、学園の制服を着ている……つまり、学生の結界を破れなかった事と、その外せない新しい手枷が相当な屈辱だった様だ。自称とはいえ、学生にしてやられたなんて、とても他言出来ないだろう。


「さて、帝国の魔術師よ。本当の事を話してもらおうか」


 ガブリエルの言葉に、イケメン魔術師はプイッと外方を向く。


「光の乙女の存在を、どうして知った?」


 本気の怒りを滲ませた、ガブリエルの威圧は相当だった。


「……っくう!」


 魔術師は苦しそうに顔を歪め、仕方なさそうに話し出す。


「……詳しくは知らない、本当だ。何でも預言者が、この国に光の乙女が現れたと言ったんだよ。だから、そいつを連れ帰れと!」


「では、青い痣の人間とは?」


「それは、よく分からない。ただ、探すように言われただけだ。光の乙女と違って、そいつは居場所すらまだ定かじゃない」


「――へっ!? 光の乙女の居場所は知っていたの?」


 屈辱を与えられた学生に話しかけられて、頭にきたのかキッ!と沙織を睨んで言う。


「ふんっ! 今頃、仲間が捕まえに行っているさっ」

「えええっ!?」


 慌ててキョロキョロするが、周りに変化は無い。


「……あの、誰も居ませんけど?」


 沙織はコテリと首を傾げた。


「はっ! 光の乙女は、アーレンハイム公爵の娘だろっ。学園に行ってるに決まっているだろうが!」


「「「なんだって!?」」」


 全員の血の気が引いた……。


「ま、まさか、カリーヌ様を?」

「そんな名前だったな」


 直ぐに怒りが沸点に達した。


「こ、この……おバカ魔術師! 人違いよっ! お義父様、ステファン様、ここは任せました! シュヴァリエ、一緒にっ!!」

「はっ!」


「「カリーヌを頼む!」」



 一瞬で居なくなった、沙織とシュヴァリエにイケメン魔術師はポカンとした。


「え………人違い?」


「帝国の魔術師よ。私の()()()に怪我の一つでもさせたら……命は無いぞ」


「……僕も、帝国を許しません」


 二人に見据えられた魔術師は、奥歯がカチカチと鳴り恐怖で全身が粟立っていた。




 ◇◇◇




 研究室に戻ると、即刻寮へと転移した。男子禁制なんて、言っている場合ではない。


 転移陣から出ると、人の気配がなかった。


(……変だ。ステラが居ない)


 カリーヌの部屋の異変に気がついたのかもしれない。シュヴァリエと視線を交わし頷いた。

 沙織はカリーヌの部屋の入り口から。シュヴァリエは、窓から部屋に入る事にする。


 部屋をそっと出て入り口にまわり、扉を開けようとするが……やはり鍵がかかっていた。


(急がなきゃ!)


 沙織は躊躇なく鍵を壊して、中に飛び込んだ。



「カリーヌ様っ!!」


 目の前には、拘束されたステラとエミリー。


 そして、カリーヌは……ジリジリと詰め寄る女によって、壁際に追いやられていた。この学園の制服を着た、美人ではあるが大柄な女。


「あ?……誰だ、お前は?」


 女は入り口を振り返り、沙織に向かってそう言った。


(どこで制服を手に入れたのかしら? サイズが全く合ってないし……。うん、頭は少し軽そうな感じね)


 先ずは、カリーヌ達からその女を離さないといけない。挑発して、意識を沙織に向けさせる。


「あなたこそ誰よ! その制服、似合ってないわっ!」

「なっ!? そんな事ないわよっ!」


 わざと意味ありげな笑みを浮かべて、言葉を続けた。


「そういえば。先程、宮廷で……帝国の魔術師を捕まえたわ。もしかして、()()()はお友達かしら?」

「な、何だと? ……サミュエルは()()()()!」


 女はカッと怒りで顔を赤くし、沙織に向かって飛びかかる。


(掛かった!)


 沙織は窓に視線を送ると、シュヴァリエが窓の外で頷いたのを視界の端で捉えた。

 少しでもカリーヌ達から離すよう、後ろに跳んで攻撃を躱す。


 そのタイミングで


 ――ガシャン!


 と窓を割ったシュヴァリエがカリーヌ達の前に立ち、結界を張った。


(よしっ! 上手くいったわ)


 女は戦闘タイプなのか、素手で攻撃を仕掛けてくる。沙織もそちらの方が好みだ。


(速いけど……シュヴァリエより全然遅いっ!)


 繰り出された拳をサッと避け、次の瞬間には女の目の前に行く。ニッコリ微笑むと、強化した拳を一撃みぞおちに入れる。


「グフッ……!」と、女は呻き意識を失った。


 先に捕まえた魔術師と同じように、倒れている女に手枷を填めた。念のため、足枷もしてから、軽く癒しをかけておく。


 ふうっ……と、沙織は息を吐いた。


 シュヴァリエが結界を解き、自由になったカリーヌが沙織に抱きつく。


「サオリ様! ありがとうございますっ」

「カリーヌ様、もう大丈夫ですよ」


 まだ震えている、カリーヌの背中をそっとさすり、安心してもらえるよう優しく言葉をかけた。


「エミリーもステラも大丈夫ですか?」

「はい、サオリお嬢様!」

「カリーヌお嬢様を守れず……誠に申し訳ありません!」


 自分が不甲斐いないと、ステラは悔しくて仕方なさそうだ。


「そんな事ありませんっ。エミリーも、ステラも、ちゃんと守ってくれました。ステラなんて、その方が私に触れようとしたら……投げ飛ばしたのですよ!そして、私に危害を加えない約束をさせ、代わりに大人しく拘束されたのです」


 カリーヌは、ウルウルした瞳で二人の侍女を見た。


「……え? 投げ飛ばした!?」


「それくらいは、侍女の嗜みですので」と当たり前な感じでステラは言う。


(それは、侍女の嗜みでは無いような……。やはりステラは、只者ではないわ)


 取り敢えずシュヴァリエが、女を魔術師と同じく地下牢へ転移させる。


 沙織は侍女達に部屋の片付けと修理を頼み、カリーヌを連れて宮殿へ戻る事にした。



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