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3.騙されません

 シュヴァリエが謁見の間に着いた時……。


 その男は、大理石の床にめり込むかの様に、這いつくばっていた。直ぐに、シュヴァリエは魔力で檻を作り出し、魔力封じの手枷をして閉じ込めた。


 ――それは、ほんの数秒間の出来事だった。


 ステファンと沙織がその場に着くと、ガブリエルも急いでやって来た。他の人の目に触れないよう、ステファンがその檻ごと地下牢へ転移させる。


 ガブリエルに連れられ、沙織達もその男が転移させられた宮殿の地下牢へと向かった。

 檻が解かれた地下牢の中では、男がグッタリして横たわっていた。


(うわ……やり過ぎちゃったかしら?)


「お義父様。その人に、癒しをかけてもよろしいですか?」


 制御したつもりだったが、かなりの重力がかかってしまったみたいだ。この分だと……彼方此方の骨が折れているかもしれない。

 流石に不法入国しただけで、これはちょっと可哀想だ。


「ああ、そうしてくれ。ただし、話せる程度までにしてほしい。奴がどれ程の者なのか、油断は出来ない」

「はい、お義父様!」


 返事をすると、急いで弱めの癒しをかけた。


「……っ。う、うぅん……」と唸り声をあげ、男は目を覚ます。


「……此処は、どこだ……?」


 中年の男はキョロキョロとし、いまいち状況が掴めていない。


「此処は、宮殿の地下牢だ。――お前は、誰だ?」


 ガブリエルは、冷気漂う氷の様な視線を向け、男に問う。


「わ……私はっ。ただの下級貴族……田舎の男爵で御座います。税収の件で手続きに……」

「嘘はいい。お前は、この国の者ではないな」


「えっ!?」と戸惑う男。


「お前は、この国のプレート登録を行っていない。何処の国の者だ?」


(ひえぇぇ……お義父様から冷気がっ! ミシェルの比じゃないわ)


 冷たい言葉とガブリエルの威圧を受けて、男は震えあがる。


「……も、申し訳ありませんっ。私は帝国の人間です。訳あって、こちらに参りましたっ」


 平身低頭して必死で謝る男。やはり、グリュンデル帝国の人間だったのだ。


「何が目的だ?」


「私はっ、金で雇われただけです! 顔を隠した男に頼まれ、雇主が誰かも知りません。……ただ、肩に鱗状の青い痣の人間を、探すようにと言われました。それと、光の乙女について調べろと……」


「なっ!? 光の乙女だと! その情報を何処でっ」


 ガブリエルは眉根を寄せて、男を睨む。


「ヒッ……私はっ、知りません!」


(うーん、この感じ。どこかで……)


「あのぅ、ちょっと質問よろしいですか?」


 おずおずと手を挙げて声をかけた。

 ガブリエルは、眉を上げて不思議そうに沙織を見る。


「サオリ、どうしたのかい?」


 先程までの冷たさを消して、いつものトーンに戻る。


「その方、嘘ついてません?」

「……嘘?」

「この、微妙な違和感……。なんだか前に、ステファン様と陛下に、騙された時みたいなのです」


「騙された?」とガブリエルが一瞬考える。


「ああ、あの時か」


「ええ。半分は本当で、もう半分は嘘。目的は他にあって、真実が隠されている感じ……そもそも、なぜ痣持ちの方と光の乙女が、この宮殿内に居ると思ったのですか? 平民の可能性だって、あるのではないでしょうか?」


「そ、それは、雇主から聞いてっ」


「うーん、そうかもしれませんが。それにしても、この宮廷機関に潜り込む程の能力があるのに、こんなに簡単に捕まって情報を漏らしますか?」


 そもそもこの男は、謁見の間付近にまで入り込んでいたのだから。沙織は小首を傾げつつ、ステファンを見た。


『あの魔法の、どこが簡単なのでしょう?』と、ステファンの目は言っているが、それは口に出さず――。


「確かに、変ですね。帝国の重要な情報を持っているのに、捕まって……()()()()()()()()()()()()()? まるで、わざと情報を漏らしているみたいですね?」


「あの国なら――。失敗した刺客は、まず捕まった時点で消す()()が仕掛けられているだろう」


 ステファンの意見に、ガブリエルも同意した。


「では、貴方は一体誰でしょうか?」


 壁に寄りかかりながら、沙織は男を見て言った。

 男は下を向いたかと思うと、肩を震わせる。


「ふはっ……あははははは! 面白いっ! この国は、もっと馬鹿ばかりだと思っていたがっ」


 と可笑しそうに言った。


(……なによ、コイツっ!)


 ムカッとして男を睨んだ。この国の人間を馬鹿にされた事か赦せなかった。


「おー、怖い怖い。気の強そうなお嬢さんだ。私は、さっさとお暇しよう」


 ――カシャンッ! と手枷が落ちた。


 いつの間にか、白髪混じりの中年男は若い茶髪の美青年になり、シュヴァリエにはめられた魔力封じの手枷を壊していた。

 そして、身体に魔力を纏い牢を破って飛び出そうとした刹那。


 ――バチンッ!!


 と男は弾かれて部屋の真ん中に転がった。


「なっ!? 何が……起こった?」


(ぷっ。去り際の、決め台詞まで言ってたのに……。バチンッ!て。ダメ……面白すぎる)


 何となく想像がつく、ガブリエル、ステファン、シュヴァリエは、口をプルプルさせて笑いを堪える沙織を見た。


「強度増し増し結界、牢屋バージョンです。ふふ……簡単には出られませんよ」


「「「やはり……」」」



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