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60.沙織への褒美

 無事にカリーヌとステファンが婚約し、何だかホクホクとした温かい気持ちに包まれていた。


(あ! そうだわ、国王陛下にお願いするご褒美を考えなくちゃ!)


 本当は、カリーヌとステファンの結婚が、王家に認めてもらえなかったら――それを褒美として、無理にでも認めてもらうつもりだったのだ。

 二人は問題なく婚約出来たので、沙織は他の褒美を考えることにした。


(そういえば。隠された文献があるって、以前ステファンが言っていた。重鎮達が勇者召喚する為だとか何とか……。それを見せてもらうのはどうかしら? もしかしたら、元の世界に繋がる手がかりがあるかも……)


 それは、ずっと考えていた事だった。

 一度、元の世界に戻って、自分の無事を両親に伝えたいと――。


 ざっと考えが纏まり、立ち上がる。ステラに頼んで、ガブリエルに時間を取ってもらうことにした。

 直ぐに返事が来たので、都合がいいと言われた時間帯に、ガブリエルの部屋へと向かった。


「サオリ、何かあったのかい?」

「お義父様、国王陛下からのご褒美の件で、ご相談したい事があります」

「ほう、それは?」

「重鎮魔導師に伝わる秘密の文献を、ステファン殿下に貸してほしいのです。もしかしたら、それに……私が元の世界に戻る方法が、書かれているかもしれないのです」


 ガブリエルは目を見開き、一瞬言葉に詰まった。


「……確かに、その文献は存在している筈だ。サオリが……そう望むなら、陛下に伝えよう」

「ありがとう存じます。お義父様!」


 ガブリエルはジッと沙織を見つめた後……目を閉じ、手を額に当てたまま暫く黙っていた。


(あれ? どうかしたのかしら?)


 不思議に思っていると、ガブリエルは顔を上げ、沙織の瞳を見つめて重たそうに口を開いた。


「……サオリはやはり、元の世界に帰りたいのかい?」


 珍しく硬い表情で、そう尋ねてきた。


「はい。一度帰って、両親に私の無事を伝えたいのです」

「……()()?」

「ええ、一度でも元気な私の姿を見てくれたら、安心するかと思いまして」


 ガブリエルは瞠目した。


「それは、つまり……此方の世界にまた戻ってくると?」

「そうしたいのですが……駄目でしょうか?」


 チラリと、ガブリエルの反応を窺うように見た。きっと大丈夫だとは思うが、それでもドキドキしてしまう。


「そうか、向こうに帰るのではないのか。勿論、駄目ではない。歓迎しよう!」


 破顔したガブリエルは、沙織の頭を撫でた。受け入れられた事に安堵し、笑みがこぼれる。


 そして、早速――ガブリエルは国王に謁見を申し出ると、褒美の件を伝えてくれた。




 後日――。国王から呼び出しがあった。


 渋りまくる重鎮魔導師達から、秘匿文献を借りてくれたのだ。

 それをステファンに渡し、シュヴァリエの研究室で調べてもらう事になった。


 ガブリエル同様、二人も最初は複雑そうな表情だったが。沙織の、こちらの世界で暮らしたいという希望を聞くと、喜んで手伝ってくれると言った。

 沙織が確実に、向こうに行って戻って来られる方法を見つけると。




 ◇◇◇




 ――それから、数週間が過ぎた。


 長期の休みも終わりに近付いてきた頃、ステファンからの呼び出しがあった。


 研究室に転移すると、目の下に隈を作ったステファンが資料の中に埋もれるように居た。多分、相当無理してくれたのだろう。

 同じくらい寝てないであろうシュヴァリエは、涼しい顔をしている。


(流石、元影だわ……)


 取り敢えず、話を聞く前に二人に癒しをかけた。


「二人とも、ありがとう!」

「いえ。もとはと言えば、僕がサオリ様を転移させてしまったのですから」


 ステファンは、ずっと気にしていてくれた様だ。


 それから、元の世界に戻る方法についての説明をしてくれた。


 沙織を呼び出した転移陣――。つまり、それは光の乙女の召喚陣だった。その文献にはそれに対なす陣が載っていたそうだ。

 更に詳しく調べ、別々に存在する異世界を繋げられる唯一の方法を、ステファンは見つけ出したのだと。

 やはり、ステファンは天才的な魔導師だった。


沙織の持つチートな魔力の量があれば、一定時間は空間を繋げておけるらしい。


「サオリ様が、彼方の世界に戻られる時――私をお供に連れて行ってください」


 真剣な表情で、唐突にシュヴァリエは言った。


「ええっ!? もし、こっちに帰って来れなかったらどうするのよ!」


「それはサオリ様とて、同じことでしょう?」


「あっ……まあ、確かに。でもっ、私なら自分のいた世界だから大丈夫だけど。シュヴァリエは、全然違う世界になってしまうわ!」


「私は、サオリ様の為なら大丈夫です。今度こそ、貴女を守らせてください」


 本気のシュヴァリエは絶対に折れなかった。思わずステファンに目で訴える、が――。


「サオリ様。シュヴァリエが、初めて自分の望みを言っているのです。僕からも、お願いします。シュヴァリエが行けば、転移陣を向こうからも繋げられる筈ですから。それに、サオリ様に何かあっては……カリーヌも悲しみます」


 ステファンは今まで隠していた、有無を言わせない圧のある王族ならではの笑みを浮かべた。


「うぐっ……そう言われてしまうと。もうっ、分かりました! シュヴァリエ、一緒にお願いします!」



 こうして――。

 日を改めてから沙織とシュヴァリエは、一緒に元の世界へ戻る事になった。

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