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6.思い出の曲

お読みいただき、ありがとうございます(*'▽'*)

評価、ブクマ登録も本当にありがとうございます!

これからも、よろしくお願いいたしますm(__)m

 この世界に召喚され、約一週間が経った。


(本当なら、あっちの世界では今頃……)


 今日は高校の文化祭だった。沙織自身、そんなに早く戻れるとは考えていなかったので、然程落ち込んではいないが。

 むしろ元の世界に戻る事が出来るのか、そちらの方が重要だ。


 ただ、頑張って体型を絞ったのと、特技披露のピアノ演奏の練習が無駄になったのが残念で仕方ない。

 あの変な台詞披露が無くなったのは、正直良かったとは思う。実際には、もっと大勢の前でやってしまったのだが。


(あれを考えたのって……ああ、実行委員にあの子もいたっけ)


 友人Cが好きな、何かの再現シーンだったのかもしれない。このゲームには関係ないだろうが、名前を入れ替えただけで、あまりにもピッタリの場面だった。


 ポロロン――……


(……おや? 今のって)


 一瞬だが、開けている窓からピアノの音がしたような気がした。


 専属侍女になってくれたステラに尋ねてみる。ステラは、この公爵家にずっと仕えるベテラン侍女だ。

 この世界について知らない沙織のために、知識のある彼女をガブリエルが選んでくれたのだ。おかげで、普段の言葉遣いもだいぶ令嬢らしくなってきた。


「今、ピアノの音が聞こえた気がするのだけど? ……ここには、ピアノがあるのかしら?」


「はい、ピアノは御座います。クレール様がよくお弾きになってらっしゃいました。今は、どなたも弾かれません。ですが、時々……ガブリエル様が、そのお部屋に行かれているのです」


(ピアノがある!!)


 弾きたくてウズウズするが、奥様の形見のピアノだと、触る事は難しいかもしれない。


「私が、ピアノを弾かせてもらうことって……出来ますか?」


 ステラは、驚いたように沙織を見た。


「サオリ様は、ピアノが……? いえ、失礼いたしました。ガブリエル様にお聞きして参ります」


 後で知ったことだが、この世界では普通ピアノは習わないそうだ。楽団や、芸術の専門職として弾く者はいるらしいが。もしかしたら、クレールの実家はそっちの家系なのかもしれない。


 戻って来たステラは、ガブリエルから許可を得たと言った。

 早速、その部屋へと案内してもらうと――。広い部屋の中心には、立派なグランドピアノが置いてあった。嬉しくなって近寄って行くと、ピアノの向こうにはガブリエルが座っていた。


(……え!? まさか……私が弾くのを聴くつもり?)


 ガブリエルは、ニッコリ微笑んだ。


「やあ、サオリ。君がピアノを弾けるとは思わなかったよ。折角だから、聴かせてもらおう」


「あ、あのっ。本当に少しだけ……趣味というか、嗜む程度なんです! お耳汚しかもしれないのですが……」


 慌てて期待しないように頼む。


 ピアノは好きだが、音楽学校に行くほどでもない。習い事=ピアノと習字とスイミング。親の勝手な思い込みでやらされた程度だ。せいぜい、披露の場は発表会や入卒式の伴奏くらいだった。


 椅子に座り緊張を解すように、すうぅ……と息を吸って弾き始める。


 一曲目は、大好きなクラシック。何度も弾いた曲なので楽譜は必要ない。

 二曲目は、父親の誕生日にサプライズで弾くつもりだった、ロックシンガーのバラードだ。


(……楽しいっ……!)


 間違えることもなく、二曲を弾き終えて指を鍵盤から離した。


 ――静寂が広がる。


(……あれ? 無反応……? 何かダメだったかしら?)


 少し焦って、ガブリエルに視線を移した。


「……素晴らしい」


 ガブリエルは、目を閉じて演奏に聴き入り、感動してくれたみたいだった。ホッと胸を撫で下ろす。


「サオリ、今の曲は?」


「私の世界の歴史ある曲と、最近の新しい曲になります」


「そうか……」


 ガブリエルは、何か思うところがあったのか、ジッとピアノを見つめた。


「クレールも……亡くなった妻も、よく楽しそうにピアノを弾いていた」


 そして、立ち上がり近くのチェストから楽譜を取り出した。


「サオリは……この曲は弾けるかい?」


 楽譜を見ると、そこまで難しい曲ではない。


「上手く弾けるかは分かりませんが。やってみます」


 クレールが好きだったという曲を弾き始める。ガブリエルは、また目を閉じて静かに聴く。

 初めて知る曲で、とても優しいメロディーだった。


 弾き終えると……ガブリエルは涙を流していた。きっと、愛しい妻との思い出が蘇っているのかもしれない。扉の側に立つ、ステラも目頭を押さえていた。


 暫くして「……ありがとう」と、美しい義理の父は言った。

 それから、他愛もない話をしたり、他の曲も色々と弾いてみた。


 ふと、ガブリエルが自身の髭を触っている仕草が目に入る。


「お義父様は、ずっとお髭を生やしているのですか?」


 思わず尋ねてしまった。スチルで髭は無かったから、ずっと気になっていたのだ。


「……変か?」と目を見開き、逆に訊かれた。


「いえ、お似合いですよ。私の世界でも、結構流行ってますし……。でも、無いのも素敵そうだと思っただけです」


 素直に思った通りを伝えた。実際、ガブリエルはどちらでも似合う。


「……クレールもよく、剃った方が良いと言っていたな……」


 ポソっとガブリエルは、沙織には聞き取れないほどの小さな声で呟いた。




 ――翌朝。


 朝食の時に会ったガブリエルには、髭が無かった。


「……どうだろうか?」


 少し照れなら、ガブリエルが尋ねてきた。


「とっても、素敵です!」


(……お義父様、イケメン過ぎて直視できません!)


 やはり、髭を剃ったガブリエルは、年齢よりも随分と若く見え、眉目秀麗という言葉がピッタリだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 偶然たどり着いてとりあえず6話まで読みました……お義父様かわいいなオイ!!
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