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59.幸せです

本日2話目の、カリーヌ視点のお話です。

「カリーヌ様。先程から向こうの方で、ミシェル様が探していらっしゃいましたよ?」


「あらっ、いけない!……私ったら、勝手に来てしまいました」


 慌てて戻ろうとしてハッと気づき、不思議そうな顔をしている男性を見た。きっと、慌ただしい令嬢だと、呆れられているかもしれない……そう思いつつお礼を伝える。


「一緒に探していただき、ありがとうございました」


 カリーヌは美しくカーテシーをすると、ステファンに連れられて部屋を後にした。

 ステファンと一緒に歩きながら、カリーヌは自分の胸に手を当てて、小首を傾げる。


(……変だわ。あれ程、お会いしたかったステファン様と一緒に居るのに。何も感じないわ……)


 カリーヌが、良く知っている筈のステファンなのに、何となく違和感を感じていた。

 背が高く、整った顔立ちを見上げると、ステファンは優しくカリーヌに微笑みかけた。


(……確かに、今日も素敵なのに。やはり……ドキドキしないわ。先程の男性にはドキドキしたというのに。あの方は、どなただったのかしら?)


 お互い名乗りもしなかったと気がついた。もやもやした気持ちのまま、待っていたミシェルの元へ行くと、ステファンは去っていった。

 カリーヌは、その姿に不思議と名残惜しさは感じなかった。



 ミシェルにエスコートされ、ホールの中へと入る。アレクサンドルの前に立たされた、()()()の位置に近付くと――急に胸が苦しくなった。


 眩暈がし、立っているのがやっとで、一歩前に進もうとするとフラリと体が傾く。それに気が付いた沙織が、慌ててやって来てカリーヌを支えた。


「カリーヌ様! 大丈夫ですか?」

「サオリ様……」


 心配そうな沙織に支えられて、人混みを避け端の方へと移動する。飲み物を貰い、沙織の存在でどうにか落ち着いた。


 それから、暫くして。

 ダンスパーティーの前に、国王陛下がやってきた。


(あの方は――!)


 国王の後ろにはアレクサンドルと、アレクサンドルによく似た、先程の男性が一緒に入って来たのだ。

 国王からその男性についての話が始まり、会場が響めいた。


「我が第一王子ステファンを王太子とし、次期国王とする!」


 最後の言葉に、カリーヌの頭は真っ白になってしまう。


(……え? あの方が、王太子殿下……つまり、アレクサンドル様のお兄様で? えっ、お名前がステファン様!? お顔も違うし、ステファン様はさっき……え?)


 もうパニックで、何が何なのか理解出来ずにいると……いつの間にかパーティーは始まっていた。


 音楽が奏でられ、先ず王太子であるステファンが歩き出した。

 会場中の注目は、新しい王太子が誰をダンスに誘うかだ。その向かう先を、誰もが固唾を呑んで見守っている。


 迷いなく歩いて行った先は、なんとカリーヌの前だった。


「アーレンハイム公爵令嬢、私と踊っていただけますか?」


(………!?)


 心臓が止まってしまいそうな程、驚いていたのだが……。妃教育で、完璧さを求められ続けていた公爵令嬢のカリーヌは、それをおくびにも出さなかった。


 王太子のステファンに差し出された手に、自分の手を重ね「はい」と返事した。


 ステファンのエスコートに身を任せ、カリーヌは美しいダンスを披露し、会場からは感嘆のため息が漏れる。


(なんて、心地よい時間でしょう……。今日、初めて会ったのに、ずっと知っているみたいな)


 踊りながら王太子と見つめ合うと――カリーヌは気がついた。

 鼓動がどんどんと速くなる。音楽が無かったら、きっと凄い音がしてしまうのではないかと思うほどに。


「……貴方は、()()()()()()()()?」


 意を決し、そう口にした。


「はい、カリーヌ嬢」


 王太子のステファンが、いつもの優しい呼び方で答えた。気づいてくれた事が信じられないという表情で、瞳を潤ませる。それはもう嬉しそうに――。


 曲が終わりお辞儀をすると、ステファンとカリーヌの最高のひと時も終わろうとしていた。


 ――と、その時。


「カリーヌ・アーレンハイム公爵令嬢、どうか私と結婚してください」


 王太子ステファンは、カリーヌに求婚した。


「はい……、喜んで」


 嬉しさで涙を零したカリーヌを、ステファンは優しく抱きしめた。


 そして――。


 王太子披露のダンスパーティーは、王太子と公爵令嬢の婚約披露パーティーとなり終了した。

 いつかの断罪の最悪の場所は、カリーヌにとって最高の思い出の場に塗りかえられたのだ。



 カリーヌとステファンの見えない場所で、沙織とミシェル、シュヴァリエは手を取り合って喜んでいた。ほぼ、沙織が無理やり二人の手を掴んで小躍りしていたのだが……。




 ◇◇◇




 ――後日。


 アーレンハイム邸に、正式な婚約の手続きをする為にステファンはやって来た。


 ガブリエルに挨拶をし、正式に婚約者と認められた。カリーヌは学園を卒業したら、ステファンと結婚する事になる。


 ガブリエルとステファン本人から、ステファンの呪いの件や、沙織が転移してきた本当の理由の全てをカリーヌは聞かされた。


 ただ、あのダンスパーティーの日の件は……カリーヌに明かされなかった。というか、それを知っているのは、沙織とミシェルとシュヴァリエだけ。

 シュヴァリエがリュカになって、カリーヌとステファンを出会わせたことは、カリーヌとステファンにはこれからも秘密だ。


「……サオリ様のお陰で、ステファン様は助かったのですね!」


 カリーヌは、沙織に抱きつき何度もお礼を言った。


「そう言えば! サオリ様、宮殿にリュカが居たのです!」


 はたと思い出したカリーヌは、沙織に伝えた。


「えっと、リュカは……宮殿が、気に入ったのかもしれませんねっ。 お庭も沢山ありますし!きっと、カリーヌ様が遊びに来るのを待っているのかも……ははは」


「まあ! それは、楽しみです!……早く、リュカに会いたいわ」


 喜ぶカリーヌ。


 沙織のいつもの考えなしの発言に……ステファンとミシェルは、長い溜息を吐いたのだった。



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