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58.カリーヌの探し物

お読みいただき、ありがとうございます!

今回はカリーヌの視点のお話で、ストーリーを進めて行きます。


 カリーヌは、沙織が王の命令を無事に終わらせて、このアーレンハイム邸に帰って来てくれた事が、嬉しくて仕方なかった。


(サオリ様が無事にお戻りになって、本当に良かったわ!)



 そんな、ある日。


 カリーヌがお茶会から公爵邸へ帰ると、沙織が神妙な面持ちでやって来た。


「カリーヌ様、申し訳ありません。宮廷に連れて行ったリュカが……行方不明になってしまったのです」

「そ、そんなっ……」


 悲しそうに伝えてくる沙織に、カリーヌはそれ以上何も言えなかった。


(リュカが居なくなってしまうなんて……。私も悲しいけれど、サオリ様はもっと悲しんでいらっしゃるわ。どうしたら、サオリ様を元気付けられるかしら?)


 オロオロするしか出来ない自分に、不甲斐なさを感じたカリーヌは落ち込んだ。




 ◇◇◇




 ――数日後。


 カリーヌ達は、宮殿で開かれるダンスパーティーに行くことになった。


 公爵家の者として、絶対に参加しなければならないパーティーだ。正直なところ、ダンスパーティーには辛い思い出があり、未だに宮殿に行くのが怖い。

 ただ、今回は沙織もミシェルも一緒なので、それだけでカリーヌは心を強く持てた。


 出来上がったばかりのドレスが、ようやく届いたので、今日はそれを着て行く。


 カリーヌと沙織は、新しいデザインの素敵なドレスを新調していたのだ。雰囲気や体型の違う二人は、髪飾りだけ色違いでお揃いの物を作ってもらった。

 それぞれの髪色に合わせた髪飾りで、動くと揺れるストーンがあしらわれて、とても可愛らしい。


 何より、沙織とお揃いということで、カリーヌの一番のお気に入りになった。


 自分も身支度を整えてもらいながら、カリーヌはキラキラとした瞳で、沙織を見つめる。


(サオリ様は、スラッとスタイルが良くてっ。何て素敵にドレスを着こなすのでしょう!)


 うっとりとしている間に、カリーヌも仕上がった。




 支度を終えた、カリーヌ、沙織、ミシェルは、馬車で宮殿へと向かう。


 婚約者のいないカリーヌのエスコートは、弟であるミシェルがする。

 沙織のエスコートは、ガブリエルがする予定なのだが――忙しいガブリエルは、先に向こうへ行っていると連絡があった。


 馬車が宮殿へと到着すると、沙織は先にガブリエルに用事があるのだと言う。直接ホールで落ち合う約束をして、時間まで別行動をする事になった。


(サオリ様と離れてしまうのは、不安だけれど……。いいえ! 私もしっかりしなくては)


 そんな思いを胸に抱き、ミシェルにエスコートされ、背筋を伸ばして歩く。

 すると、突然――。ミシェルはハッとした様に、キョロキョロとしだした。


「ミシェル? どうかしたの?」


「カリーヌ姉様、申し訳ありません! 馬車に落とし物をした様です。取りに戻っても良いでしょうか?」


「まあ! それは大変だわ。私は、ここで待っていますから、取りに行ってらっしゃい」


「姉様、ありがとうございます! 直ぐに戻ります!」


 ミシェルを見送ったカリーヌは、豪華な宮殿の廊下の端で暫く待つことにした。あのダンスホールに一人で入る勇気は、まだ無い。


 そして、何気なく目をやった廊下の片隅に――。


 見覚えのある、青いモフモフの尻尾がパタパタと動いていた。まさかと思い、それをじっと凝視していると……クルッと振り向いた。

 クリクリの可愛い目をしたリバーツェが、ぱちぱち瞬きしてカリーヌを見る。


(あっ! あれはリュカ? そうだわ、サオリ様は宮廷で居なくなってしまっと……あ、だめよ、行ってしまうっ。追いかけなくてはっ)


 カリーヌは、動き出したリュカを追いかけた。洗練された歩き方を崩さずに。ドレスの中で足を必死に動かして歩くが、小動物の速さに合わせるのは流石に辛かった。


 けれど――。途中で止まっては、まるでカリーヌが追いつくのを待っているかの様に、リュカらしきリバーツェは進んで行く。


 あと少しで捕まえられると思ったら、開いていた扉の中にシュッと入ってしまった。


(リュカ、待って……)


 慌ててカリーヌも中に入ると……そこは、一度だけ来た事がある、見覚えのある部屋だった。カリーヌは辺りを見回し、リュカを呼んだ。


「リュカっ、お願いです! 出てきてくださいませ!」


「……カリーヌ嬢?」


 背後から、急に声をかけられてビクッと肩が跳ねる。


 カリーヌのリュカを呼ぶ声を聞いて出てきたのは――リュカではなく、カリーヌの知らない男性だった。

 慌てて、カリーヌは勝手に部屋に入ってしまったことを謝り、その男性の顔を見た。


「……アレクサンドル殿下? えっ、違う……? あっ、失礼いたしました! 人違いをしてしまったようです」


 アレクサンドルによく似た男性は、同年代には見えず少し年上のようだ。漆黒の髪に瑠璃色の瞳の、落ち着いた優しい雰囲気で、どことなく聞き覚えのある声でカリーヌに話しかけてくる。


「今日はダンスパーティーの筈ですが、どうしてこちらに?」

「え、あっ! こちらに、リバーツェは来なかったでしょうか?」

「……リバーツェ?」


 男性は怪訝そうな顔をし、周りを見渡した。


(どうしましょう。不快にさせてしまったかしら……でも)


「申し訳ありませんが……少しだけ。ほんの少しだけ、探させていただいてもよろしいですか?」


 カリーヌは勇気を振り絞りお願いすると、男性は優しく微笑み頷いた。


「では、僕も一緒に探しましょう」


 ――ドキッ!


 カリーヌはそのアレクサンドルに良く似た男性に、胸が高鳴るのを感じた。


(……初めて会った方に、どうしてドキドキしてしまうのかしら?)


 自分の感情が理解できないまま、部屋の中を二人で隈無く探した。初対面の男性と一緒にいるとは思えない程、自然に振る舞えていることに――カリーヌ自身が驚いている。


「……見つかりませんね」


 残念そうに言う男性に、お礼を言おうとすると。


「カリーヌ様?」と、背後から名前を呼ばれた。


「まあ、ステファン様!」


 今まで何度も会いたいと願っていた――リュカと同じ髪色をした、ステファンが立っていた。


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